#7 夏の後悔
ふわりと笑った透花さんは、消えて逝った。
美術室にはヒグラシの声が響く。
僕は透花さんのロッカーから一冊のスケッチブックを取り出す。表紙に沢山の落書きがされたそれを祖父に差し出した。
「透花さんが大切にしていたものです」
彼女が絶対に触るなと言ったスケッチブックには、彼女には珍しく人物が書かれていた。トランペットを演奏する男子生徒のスケッチだ。それは若かりし頃の神木大河。
「透花さん、ずっとお祖父様のトランペットの音を探していました」
「ああ、知っていた。私も真剣な眼差しで絵に向う彼女を見ていた。顔も声も記憶から奪われそうだったのに……最後に逢えて良かった」
彼は上着のポケットから鍵を取り出し僕に差し出す。
「願いを叶えてくれて、ありがとう。約束だ、旧棟は自由に使いなさい。戸締りと火の始末だけは気を付けるように」
「ありがとうございます。最後に一つ教えてください。お祖父様にとって透花さんは何ですか?」
「……あの夏に残した後悔であり、私を支えた青く甘美な思い出だ。余生はこれを見ながら彼女と語り合うよ」
彼女を優しく抱きしめて、祖父は教室から去った。
全てが終り、僕は安堵した。
「お祖母様、願いが叶って良かったですね。透花さん、誰も恨まないって。……透花さん安心して、僕は創り続ける。だから、おやすみ」
そっと美術室の扉を閉めた。
その後、夏の美術室に幽霊が現れることはなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
あすからは番外編を3話(1日一話ずつ)公開いたします。
ぜひお楽しみください。




