なにもの
あさ、めをあけると、かあさんがわらっていた。
「おはよう」って、きのうとおなじこえで。
そのえがおも、きのうとおなじ。まるでしゃしんみたいに、すこしもかわらない。
わたしのむねが、どきんってなった。
――また、はじまった。
おとうさんも、しんぶんをおなじじかんにめくる。
「いってきます」といえば、かならず
「いってらっしゃい」。
わらいかたも、まばたきのしかたも、まるでならったとおり。
へんだ。
ぜんぶ、えんぎみたい。
わたしだけが、ここでほんとうにいきてるみたい。
がっこうにいっても、おなじ。
ともだちは、わらいかたも、ことばも、まいにちくりかえし。
「だいじょうぶ?」ってきいても、こえがとどかない。
――からっぽのおもちゃみたいで、わたしはぞくってした。
あるひ、こうえんで、いぬにちかづいた。
「ねえ、あなたはほんもの?」って、こえをひそめてきいてみた。
いぬは、すぐにかおをあっちむいてしまった。
でも、パッと、ひとのめみたいにわたしをみつめた。
そのとき、せなかがひやってなった。
こわい、でもしりたい。
あのなかに、なにがかくれてるの?
いえにかえると、おかあさんがまた「おかえり」って。
こえもえがおも、まるできのうとおなじ。
だけど――ほんのいっしゅん、めがちがった。
しらないひとのめ、みたいだった。
わたしは、あわててじぶんのへやににげこんだ。
くらいべっどのなかで、みみをふさいでも、むねのどきどきはとまらない。
――こわい。みんなテレビでみたうちゅうじんかなんかなの?
なら、わたしはなに?
――わたしも?
「……きょうも、わたし……
このこになれたかな?」