死にたがり
何にもない人生でよかった。
希望を持つことを許される必要なんてなかった。
こんな人間に、生きてる価値なんてなくてよかった。
なのに……
あの子は、僕を救ってくれると言ったのだ。
雲一つない藍色の空が、騒がしい繁華街にほんの少しの闇を落とす。
その中を、一人の少年が駆け抜けていった。
法律に見捨てられたこの土地は、全てから逃げたくなった愚か者にはちょうどよかったのだ。
「マスター……」
数多のネオンサインの光が届かないぐらい奥まった場所にある、とあるバー。
「Cohol君じゃないか!久しぶりだねぇ!」
この街に、法律は存在しない。当然、バーの店主も子供だった。
「どうしたんだい?逃避行?東の国に行ったそうだけど、それで疲れちまったのかねぇ……。」
いつものように、店主は不愛想な少年に気さくに話しかける。
「まぁ、大体あってる...…。」
苦虫をかみつぶしたような表情で、少年は曖昧に答えた。
「ははは!そんなに思い出したくないようなことなのかい!」
何やら嫌気がさしたのか、少年はケラケラと笑う店主から目を背ける。
「まぁまぁ、そう怒るなよ。俺たちの仲だろう?」
少年はあからさまに溜息をつくと、店から出ていこうとする。
「おや?今日は飲んでいかないのかい?」
薄い笑みを浮かべながら、店主は少年に問う。
「僕が酒に弱いと、何度言えばわかるんだ?」
愚痴を吐くだけ吐いて、何も買わないまま、少年は夜の闇に溶けていった。
「あぁ、そうだったね。またいつでもおいで。毎度あり。」
少年が消えていった扉を見つめながら、店主は独り言のようにそう呟いた。
――:>;<:――
「はぁ……また店主に当たっちゃった……」
靄のかかった三日月が、僕を嘲笑うように淡く輝いている。
自分に価値があると思ったことはない。自己中心的で、最低な奴としか説明ができない。
「こんな人間、誰も好いちゃくれないよな。」
いつかはあの店主にさえも、愛想を尽かされてしまうんじゃないか。そう思わない日の方が少ない。
「はぁ……もう嫌だ……」
いっそ消えてしまおうか。そう思っていた時……
「何が嫌なんだ?」
あの声が聞こえたんだ。
ねぇ、生きていても、いいのかな……?