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第4章〜推しが、燃えるとき〜⑯

 12月2日(火)


「―――で、結局、生徒会執行部の広報の仕事も、光石さんからの告白も断っちゃったの? もったいない……佐々木くんの今後の人生で、あんなに素敵な女子から告られることなんて無さそうなのに」


 トシオとミコちゃんがクラブや委員会の取材に出かけて、二人きりになったタイミングを見計らったケイコ先輩が、あきれたように言い放つ。


「僕のこの先の人生を勝手に決めつけないで下さい!」


 放送室にツッコミが響き渡るが、僕自身、先輩の言葉の後半部分については、そのとおりだと思っている。

 ただ、自分のこと以上に大切な相手の名誉のために、僕は言葉を付け加える。

 

「それに、たしかに、生徒会の広報の仕事は断りましたけど、彼女から告白された訳じゃありませんから!」


 そうして、大事なことを先輩に伝えたんだけど……。


「まあ、自分のことより相手のことを重んじる言動は立派だけどね……ときには、自分のことも優先的に考えるようにしなさいよ」


 彼女は、諭すように告げてきた。

 そんな上級生に僕も反論する。


「ケイコ先輩こそ……引退後も放送・新聞部の活動に関わっていたせいで、大学の推薦を取り消されて大丈夫なんですか?」


 そう、理由はあきらかにされていないらしいけど、生徒会選挙が終わると同時に、ケイコ先輩は12月のはじめに行われるはずの志望校の推薦枠を外される、という理不尽な目に遭遇していた。


「まあ、そこは実力で合格を勝ち取るしかないわね。これから、受験モードに入らなきゃだし、今日で放送室に来るのも最後にして、佐々木くんには、あんまり取材や調査報道にのめり込み過ぎるな、って忠告しようと思ってたんだけどな〜。一足遅かったか……」


 そう言ってため息をつく先輩は、まるで、自分の受験のことよりも、僕や生徒会長を務めることになったクラスメートのことを心配しているようにも感じられた。


 自分の進路まで犠牲にする覚悟で、放送・新聞部の取材に奔走していたケイコ先輩のことを考えると、僕の人生に取って、代わりになるものがいない、文字どおり「かけがえの無い」存在であるかも知れない女子生徒と親しくなる機会を振り払った自分の決断と大いに重なる部分もある。


(もしかして、僕とケイコ先輩は、似ている部分があるのか? いや、まさかな……)


 そんなことを考えつつも、僕は先輩に自分の決意を告げる。


「二回も実施された今年の生徒会選挙では、色んなことがありましたからね。まだ、解決していないことも、真相が解明されていないことも、たくさんありますし……取材を続けていかないと、わからないことだらけですから。本当に『真実』にたどり着けるか、不安もありますけどね……」


 決意表明をしようと考えながらも、最後は本音が出てしまった僕の言葉にケイコ先輩は苦笑しながら返答する。


「そうね……フェザーン社の取材を終えたときは、『ついにネット世論誘導の黒幕にたどり着いた!』と思ったんだけど……石塚くんの広報戦略はともかくとして、光石さん陣営や十条委員会のメンバーに対する組織的なネガティブ・キャンペーンを先導していたのは、比良野社長ではなさそうだしね……」


 やはり、黒幕は比良野社長だけではない、という選挙管理委員会と同じ結論に達しているようだ。


 先輩の言葉を受けて、僕は彼女に選管の代表者であるmichiから打ち明けられたことを伝えた。


 上級生は、「ふ〜ん、なるほどね……」と、つぶやいたあと、思案顔で言って、肩をすくめる。


「あれから、さらに調べたところだと、降谷通(ふるやとおり)に選挙戦の情報戦略や資金を提供したのは、地球塾の創設メンバーだけど……フェザーン社や、その他の組織には、企業をサポートする名目で商工会議所を取りまとめている宗教団体が関与しているみたいなの。そして、どうやら、私もその尻尾を踏んじゃったみたい」


「しゅ、宗教団体ですか? なんで、そんな団体が、たかだか高校の生徒会選挙に介入するんですか!?」


 驚いて声をあげる僕の言葉に微苦笑を浮かべた先輩は、言葉を続ける。


「おそらくは、将来、ここでサポートしたメンバーを国政や地方行政に送り込むため……でも、ここまで来ると、もう放送・新聞部の活動を考えると、これ以上の実態調査には手詰まり感はあるわね……それに―――」


「それに……?」


「こんな荒唐無稽な話しを記事にしても、陰謀論あつかいされておしまいじゃない? 動画サイトでも、『出版する頃には古くなってしまう時事ネタと、怪しげなカルト宗教が黒幕として出てくる小説は、新人賞に応募しちゃいけない』って言ってたわ。フィクションとしてすら、デタラメで何でもアリに感じられるってことね」


 ケイコ先輩は、苦笑しながら語る。


「そ、その言葉に根拠は、あるんですか?」

 

「もちろん! YourTubeで、プロの作家先生が言ってたから」

 

「あぁ、それは信頼できる一次情報ですね」


 僕は、そんな風に納得しかけたんだけど……心の奥の方からはムクムクと、真相を追求したいという感情が湧いてくる。

 

「……たしかに、そうかも知れませんけど……それでも、僕は……!」

 

 そう言って食い下がると、先輩は、またもため息を漏らしつつ、アドバイスをくれた。


「そこまでの覚悟を決めているなら……もしも、迷ったときのために、私が自分の行動の指針にしている名言を佐々木くんに送るわ」


 先輩は、そう言って、開いたままにしていた放送室のノートPCのブラウザを起動させて、検索ワードを打ち込んで、とあるページを表示させる。


「これは、私の好きな昔の少年マンガのセリフよ」


 それは、三十年以上前に少年誌で連載が開始され、いまなおシリーズが続いている人気作品の登場人物の言葉だった。

 

 ―――そうだな…わたしは「結果」だけを求めてはいない

 ―――「結果」だけを求めていると人は近道をしたがるものだ……………近道した時 真実を見失うかもしれない やる気もしだいに失せていく

 ―――大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている

 ―――向かおうとする意志さえあれば たとえ今回は犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな……………違うかい?


「第五部のラスボスのスタンドって、『キング・クリムゾン』でしたっけ?」


 セリフの引用作品に目を通し、確認するように問いかけた僕の質問に、ケイコ先輩は嬉しそうに答えた。


「へぇ、良く知ってるわね?」


「原作は未読ですけど、アニメは観てましたからね」


 先輩が指し示したセリフは、このストーリー・パートのボスの「全てを覆い隠し、他者を犠牲にすることで永遠の絶頂を得ようとする」性格と、その精神の体現である過程を吹き飛ばし結果だけを残す能力を具現化した『スタンド』と呼ばれる存在とは、真っ向から反する内容だ。


「第五部のボスは、永遠に死ぬことを繰り返すって内容でしたよね?」


 ふたたび、確かめるように問いかけた僕に、上級生はうなずきながら答えた。


「そう! どんなに強大な敵だと感じても、太刀打ちしようもない絶大な力の前に屈するか? それでも針さえ通し難い小さな突破口を求めて足掻き続けるか? その選択と行動次第で、結末は無限に変わるんじゃない? 無意味な行動など何一つとしてない。良くも悪くも、行動にはちゃんと結果はついてくるのだから……」


「『そこに向かおうとする、意思さえあれば』ですね?」

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