第4章〜推しが、燃えるとき〜⑭
12月1日(月)
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所信表明の会見が終わったら
生徒会室で待ってます
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出直し選挙により、例年に比べ、三週間遅れて行われた新しい自治生徒会執行部の所信表明会見が行われる日の朝、僕は光石琴から、メッセージアプリのLANEで、こんな言葉をもらっていた。
(ちゃんと、彼女の気持ちに応えないとな……)
そう考えながら、僕はメッセージに返信する。
選挙管理委員会の代表者であるmichiから、
「今回の選挙と、これからのSNSイジメ対策などについて、放送・新聞部のキミに伝えておきたいことがあるんだ」
と相談を受けていた僕は、光石にメッセージを返した。
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ハザマさんと約束があるから
終わるまで待ってもらえる?
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相手からは、すぐに「わかりました」と、可愛らしいネコのデザインのスタンプが返ってきた。
その日の放課後、新生徒会執行部の所信表明会見の取材を終えたあと、僕は会議室に残っていたmichiを訪ねた。
「やあ、佐々木くん。忙しいところ、申し訳ない」
柔らかく微笑みながら出迎えるクラスメートに、僕はどういうスタンスで応じれば良いのか考えながら、
「珍しいね。単独でお話しを聞かせてくれるなんて。今日の内容は、放送・新聞部の取材ってことで良いのかな?」
と、彼女の真意を探るようにたずねる。
すると、michiは、苦笑しながら答えた。
「あまり構えないで聞いてほしいんだけど……他の生徒に迷惑がかかるかも知れないから……これからする話しは、できればボクとキミの個人的な話しに留めておいてもらいたいんだ」
彼女の申し出に、「わかった」と、短く答えてうなずき、僕はICレコーダーを使わないことにする。
「キミたちにも、どうしてボクが、インターネット・SNSイジメ対策委員と選挙管理委員に就任したか、ホントのところを伝えていなかったよね?」
michiの問いかけを意外に感じたボクは、すぐに返答する。
「いや、ハザマさん、石塚会長のときの所信表明会見で、自分のネット配信の活動を通じて、嬉しいこと、悲しいこと、さまざまな場面に出会った。そんな経験を一宮高校のために活かしたい、って言ってなかった?」
「よく覚えてくれているね、ありがとう。まあ、それもウソではないけど、あくまで建前というか表向きの理由かな? 実は、ボクが選挙管理委員に名乗り出たのは、先月の最初の生徒会選挙の公示日に、こんなメールが送られてきたからなんだ」
そう言って彼女は、わざわざプリントアウトした一枚のA4サイズの用紙を手渡してきた。
(なんだろう……?)
いぶかしく感じながら、渡された印刷物に視線を落とす。
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From: 不明さん <global-galaxy@google.com>
To:xx-xxxx@google.com
日付:2025/10/17 17:16
件名:「一宮高校生徒会選挙広報に関するお願い」
拝啓 michiさま
貴殿の日頃の配信活動に敬意を表して、下記の案件に
ご協力をお願いしたく、ご連絡いたしました。
貴殿が通われている一宮高校の生徒会選挙について、
下記の候補者を応援していただけませんでしょうか。
候補者名:石塚雲照
なお、上記の候補者を応援するために必要な情報は、
添付ファイルにまとめています。
何卒、ご検討いただけると幸いです。
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書かれている内容に思わず眉をひそめると、僕の表情が曇ったのを察知したのか、michiは、
「これが、もう一つの資料だ」
と言って、USBメモリを取り出した。
「ここに、その添付資料が入っている」
小型のデバイスが受け取った僕は、たずねる。
「この中には、十条委員会の情報や僕と光石さんの写真が入っているんじゃない?」
「さすが、カンが鋭いね。あきらかに怪しい内容だったから、すぐにゴミ箱フォルダに放り込もうと思ったんだけど……同じ内容のメールが学外にインフルエンサーにも送られているみたいで、ボクの知り合いの白草四葉ちゃんや瓦木亜矢ちゃんにも送られているそうなんだ。『michiちゃんの学校のことで、こんなメールが送られてきたんだけど……』って、ボクのところに大学生の亜矢ちゃんから連絡があったんだ」
「それじゃあ、僕が目にした、有名YourTuberやアクションRPGのゲームを配信していたゲーム実況者も……」
「そう考えるほうが良いと思う。しかも、それらの動画は、サイトのアルゴリズムで、すべて降谷クンの動画が関連動画として表示されるようになっている」
「もしかして、これは、僕たちが取材したフェザーン社の比良野社長が……!?」
僕が、直感的につぶやくと、彼女は首を横に振った。
「色んな企業の案件を請け負っている亜矢ちゃんが言うには、この依頼主は、地球塾を創設した銀河万乗さんだって言うんだよ。二宮高校の生徒会選挙のときも、1年生の候補者を推してほしい、っていう連絡があったって……」
「地球塾だって!?」
思わず声をあげた僕に、michiが確認するように問いかけてきた。
「やっぱり、放送・新聞部は、地球塾について、なにかつかんでいるんだね?」
彼女の問いに、首を縦に振った僕は、クラスメートの顔を見据えながら答える。
「このことは、調査を行っているケイコ先輩とも共有したいんだ。もしかすると、この件は、今年の生徒会選挙だけで終わりになる問題じゃないかも知れない」
そう答えた僕の言葉に、michiも深刻そうな表情で、「そうだね」と、うなずきながら続ける。
「ボクも、配信者として、そして、選管の代表者として、できることがあれば協力したい。この調査と対策は、できれば内密に進めたいんだ」
彼女の言葉に「わかった。そうしよう」と首を縦に振り、「これから、よろしく」と手を差し伸べた。
握手を終えて、頼りになるクラスメートにお礼の言葉を伝えた僕は、会議室を後にする。
そうして、廊下を歩きながら、僕はこのあとのことに集中するべく、頭を切り替えることにした。
「光石さんは、自分のできることをやり通した。佐々木くんも、彼女との関係をどうするのか、そろそろ、キチンと考えないとね?」
出直し選挙で候補者の演説が終わった直後、ケイコ先輩に言われた言葉を噛み締めながら、僕は光石琴の待つ生徒会室に向かった。