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第4章〜推しが、燃えるとき〜⑥

 11月14日(金)


「一宮高校十条委員会は、前生徒会時の議題を引き継ぐとともに、今後開催される委員会において、今回の生徒会選挙で問題視されている、自治生徒会選挙条例、生徒会運営資金規制条例および生徒会条例についても、関係者の聞き取りを行うことを決定しました」


 一宮新聞でフェザーン社と石塚会長の関係を報じた日の放課後、前生徒会時に引き続き、十条委員会の委員長を務める3年生の屋良優作(やらゆうさく)先輩が会見で発したこの言葉は、一宮(いちのみや)高校に新たな波紋と分断をも生むことになった。


「石塚会長の不正選挙を追及しろ!」


 という声が上がる一方で、


「生徒会選挙の結果は変えられない! 十条委員会は石塚おろしをやめろ!」

 

と、新生徒会長を擁護する声もあがっている。


 そして、フェザーン社と石塚会長の関係を大々的に報道した僕たち放送・新聞部は、アンチ石塚の急先鋒というイメージになりつつあるようだ。なお、ブログの内容などを書き換える必要があったためか、一宮新聞の紙面を公開して一日以上が経過しても、比良野(ひらの)社長とフェザーン社から、一宮高校もしくは放送・新聞部に抗議の連絡は来ていない。


 そんな中、証拠の隠滅や口裏合わせを行う時間を与えないためか、十条委員会は、会見の翌日に生徒会選挙の候補者の一人である降谷通(ふるやとおり)の証人尋問を行う、と通告していたんだけど……。


 なかば予想どおりと言うか、自らの当選を目指すことなく、石塚候補にかけられた疑惑について、潔白を主張していた降谷は、選挙後、雲隠れするように登校しなくなっていたため、この日の委員会の喚問にも姿をあらわさなかった。


 このことは、想定どおりだったのか、十条委員会は、次回の開催日を週明けの月曜日に行うことを告げるとともに、《ティックタック》に光石候補の選挙公約とは明確に異なる内容の動画をアップロードした、として女子バスケットボール部の松島いのりと、フェザーン社との関係を問うということで石塚会長本人の証人尋問を行うことを発表した。

 また、本人の証言もしくは申し開きがなかったということで、選挙期間中に屋良委員長の自宅前で無用な選挙運動を行ったことで、屋良委員長自身が、降谷通(ふるやとおり)を教職員会に告発することを告げた。


 僕らがフェザーン社の取材を行った日を境にして、開票当日から、生徒の間でくすぶっていた今回の生徒会選挙に関する不満や疑惑が一気に噴出したように感じる。


 僕と一緒に、この日の十条委員会の発表の取材を行い、放送室に戻って来ると、ミコちゃんがつぶやいた。


「女子バスケ部の松島さんの動画が問題視されてるってことは、選挙管理委員会も十条委員会に出席するんでしょうか? michiさんは、新しい生徒会の選挙管理委員とインターネット・SNSイジメ対策委員を務めていますし……」


「今回の件は、SNSイジメとは言い切れないと思うけど、明確な選挙妨害でもあるからね〜。生徒会選挙は、選管委員として、(はざま)さんが就任する前の出来事だし、どうなんだろう?」


「松島さんを追及するなら、あの動画は自分の考えでアップロードしたのか、それとも、誰かの指示があったのかは知りたいところですね。SNSでの情報発信について、先輩たちが取材した社長さんは、どこまで関わっているんでしょうか?」


「その辺りも、気になるよね……石塚会長の応援アカウントもそうだけど、光石候補のアカウントが凍結されたことも不可解だし……」


 生徒会のコメントを取りに行っているトシオと進路指導室に寄ると行っていたケイコ先輩を待ちながら、そんなことを話し合っていると、トシオからスマホに着信が入った。


 スマホの画面に表示される親友の名前を目にすると同時に、イヤな予感がしたけど、そんな感情は脇において、すぐに応答する。


「どうしたの、トシオ? 生徒会でなにかあった?」


「なにか、なんてモノじゃない! 石塚会長が、これから会見をするらしい。すぐに生徒会室に来てくれ!」


「わかった、すぐ行くよ」

 

 そう答えて、通話を終えると、スピーカー機能をオンにしていなかったにもかかわらず、親友の大声が耳に届いたのか、ミコちゃんがあきれたように言葉を吐き出す。


「また、なにか発表するんですか、石塚会長は……もう、いい加減、会長さんに振り回されるのにも飽きてきたんですけど……」


 ため息をつきながら語る下級生を、「まあまあ、そう言わずに……」と、なだめながら、僕らは生徒会室に向かう。


 生徒会室に入室すると、本当に僕たちの到着を待ちわびていたように、石塚会長が口を開いた。


「放送・新聞部の現役部員のみなさんが揃われたので、これから会見を開きたい。録画・録音の準備はよろしいか?」


 ずいぶんと芝居がかった尊大な口のきき方をするな……と、感じつつ、ICレコーダーと写真撮影用のデジタルカメラ、動画撮影用のビデオカメラの準備が整ったことをトシオとミコちゃんに目線だけで確認して、短く返答する。


「えぇ、準備できてますよ」


 僕の言葉に「フン……」と、鼻を鳴らしてから小さくうなずいた石塚会長は、口を開いた。


「先日の生徒会選挙において、自分に対する疑惑の目が向けられていることは、把握しています。週明けの月曜日には、継続審議中の十条委員会への出席を要請されていることも踏まえ、この度、第105代生徒会長の石塚雲照(いしづかうんしょう)は、一宮高校全校生徒の民意を問うため、自治生徒会選挙条例第259条の2項に則り、一度、生徒会長の職を辞して、出直し選挙を行うこととします」


 写真撮影用のデジタルカメラを構えたトシオと、音声記録用のICレコーダーを構えていたミコちゃんが、驚きの声を上げそうになっている中、この事態を予想していた僕は、


(やっぱり、そう来たか……)


と、冷静に生徒会長の言葉を受け止めていた。

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