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第4章〜推しが、燃えるとき〜②

 良いカンをしている、と取材相手から褒められたケイコ先輩は、その言葉に大した反応を見せず、質問を続けた。

 

 ―――他校での生徒会選挙の支援の経験が生きた、とのことですが……今回の一宮(いちのみや)高校の生徒会選挙の広報戦略において、もっとも、注意されたことはなんですか?


「やはり、石塚さん、ご本人が何度も口にしていたとおり、クラブ連盟や委員会の支援がゼロの状態で選挙戦を始められたこと。このことを強調してもし過ぎることはないと思いましたので、ハッシュタグをつけて、『#いしづかくん、ごめんなさい』という出発点から『#いしづかくん、がんばれ』というストーリーを紡ぎ出し、最後は、『#いしづかくんを生徒会長に!』という大団円(フィナーレ)を迎えるゴールを私たち全員で共有することでしょうか?」


 ―――そうした、想いの共有が、今回の大勝利につながった、と?


「えぇ、そうですね。石塚さんには、宣伝戦略の段階別に、具体的な情報発信の方法などをアドバイスさせていただいたんですよ」


 ―――専門外の人間にとっては、こうした戦略を練るのは容易なことではないと感じるのですが……貴社では、その他の学校もしくは、実際の国政選挙や首長選挙で、立候補者の宣伝戦略を支援されているのでしょうか?


「いいえ! 今年、先ほどお話した他校と、あなたたち一宮高校の選挙の候補者さんのお手伝いをさせていただいたのが初めてです。あなたたち高校生には、まだ難しいお話しかも知れないけど、日本の公職選挙法は、とても複雑で、選挙コンサルタントと呼ばれる人たちが請け負うことがほとんどなんです」


 ―――やはり、そうした複雑なお仕事は、まだまだ選挙のプロの方々に任されることが多い、と?


「そうですね。ただ、石塚さんが生徒会選挙に当選してくれたことは、私たちフェザーンにとっても、大きな転機になることは間違いないですね。これまでは、自治体様の広報案件を任せていただくことが多かったんですけど……今回の生徒会選挙のような実績が、上手く伝わってくれれば、実際の選挙の広報活動を任せていただくキッカケになるかも知れませんね」


 ―――なるほど……もし、そうなると、一宮高校の生徒会選挙は、日本の選挙において、画期的な転換点になるかも知れません。


「えぇ、そうなってくれると、ドラマチックですね!」


 ―――在校生としても、とても興味深く感じます。先ほど拝見した比良野(ひらの)社長のブログ記事では、結びの言葉として、石塚候補への賛辞の言葉と大逆転の勝利に対するお祝いの言葉とともに、『あまりに劇的すぎる出来事だったので、いつかドラマ化されないかなんて思っています』と書かれていましたね?


「そこまで読んでくれていたの? フフ……少し盛りすぎたかしら? でも、もしそうなったときは、また、一宮高校の放送・新聞部さんでも特集してくださいますか? フフフ」


 ―――比良野社長のご活躍は、同じ女性として、《《私たちの学校の女子生徒も憧れるのではないかと思います》》。本日は、ご多忙の中、私たちの取材にお答えいただき、本当にありがとうございました。


 ケイコ先輩は、こう言って取材のお礼の言葉を述べたあと、「佐々木くん、あなたから聞いておきたいことはない?」と、僕に話しを振ってきた。

 急なご指名に驚いたものの、僕は彼女の人となりを確認するため、たずねてみた。


「お時間をいただき、ありがとうございました。さいごに、一宮高校の生徒に向けて、メッセージなどがありましたら、一言お願いします」


 彼女は、プレゼンテーション資料の中で、広報活動の対象となる僕たち一宮高校の生徒達を収穫物にたとえていた。


(本音のところでは、僕たち高校生のことをどう思っているんだろう?)


 僕の疑問に、どう応じるのか……内心の緊張を悟られないようにしながら、比良野社長の答えを待つ。

 

「生徒会選挙に立候補された候補者のみなさん、候補者の応援をされたみなさん、そして、色々と考えたうえで投票をされたみなさん、本当にお疲れさまでした。今回は、石塚さんの当選という結果になりましたが、それぞれの候補者の方にとって、生徒会選挙は大変なイベントだったと思います。今回、あきらかになったように、選挙は広報活動の総合格闘技です。フェザーン社では、あらゆる事態に対応しながら、ご依頼主さまのご要望にお応えしますので、選挙以外の場面でも部活動、委員会活動の広報のご依頼がありましたら、ぜひ、当社までご連絡ください」


 彼女の答えを耳にした僕は、緊張で固くなっていた身体から、チカラが抜けていくのを感じながら、必死に言葉をつくろう。


「ありがとうございます。いまのお言葉は責任を持って、一宮高校の全校生徒に伝えようと思います」


 震えそうになる左手を抑えながら、そんな言葉を返すのが精一杯だった。

 一方、僕のようすをチラリと確認したケイコ先輩は、一足先に立ち上がり、深々とお辞儀をして、


「本日の取材内容は、早ければ、明日の朝に一宮新聞として記事にさせていただく予定です。ありがとうござました」


と、あらためてお礼の言葉を述べる。

 そんな先輩につられるように、僕もぎこちなくお辞儀をして、突撃取材は終了した。

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