第2章〜宣伝的人間の研究〜⑨
10月18日(土)
生徒会選挙に立候補した各候補者が、選挙運動のスタートを『第一声』の活動を行った翌日――――――。
僕たち放送・新聞部のメンバーは、授業が無い日でもあるにもかかわらず、学校に集合して取材結果の情報共有を行うことにした。
古びたクラブ棟の部室ではなく、映像素材を確認しやすい放送室に集まった僕らは、前日までに取材した内容や撮影した映像を見せ合いながら、メンバー間で情報をシェアしあい、現状認識の共通化を図る。
「昨日、辻立ちで『第一声』の活動を行ったのは、光石、陣内、石塚の各候補です。本人の第一声の映像が撮影できたのは、陣内候補と石塚候補だけでしたけど……初日の雰囲気では、吹奏楽部の応援があった光石候補の圧勝という感じですね」
Chromeキャストで放送室の大型モニターにスマホで撮影した映像を投影しながら、僕は、残りの三人の部員に説明を行う。ある意味で、最注目の候補者と言っても良い石塚雲照は、午後5時を過ぎて、あたりが薄暗くなり始めてから校門前で、たった一人の選挙活動を開始していた。
その孤独さがあまりにも印象的だったので、第一声を終えてしばらくすると、青い服を着た大人の女性が石塚候補に駆け寄り、スマホで撮影をしたと思われる写真を見せていたほどだ。
なお、彼の演説が終わったあと、インタビューを試みた僕が取材拒否をされたのは言うまでもない。
僕の解説に、ミコちゃんとトシオが、感想を述べる。
「たしかに、ちょっと離れた場所からの撮影でも、光石さんたちの活動は活気がありますね。陣内さんがんばってるけど、やっぱり、いまのバスケ部だと苦労しそう……あと、石塚さんは、一人だけで演説を始めちゃったんですか? ホントに戦況に勝つ気あるの? って感じ」
「たしかになぁ……いま、校内には石塚を支援してやろう、なんて雰囲気は皆無だし……いまのままなら、光石さんの圧勝だろうな! だけどさ……」
親友は、一言、感想をくちにしたあと、最後に言葉をにごす。
「どうしたの、トシオ? なにか、気になることでもある?」
「いや、ちょっと気になるのは、光石さんの活動の雰囲気が、二宮の小山さんのパフォーマンスを見たときと似てるんじゃないかと思ってな……まあ、オレの気のせいだとは思うけど」
「そっか……でも、光石候補は、二宮高校の勝木候補と同じように現生徒会長から信任を得ているし、小山候補のようなことには、ならないんじゃないかな?」
「まあ、そうだよな……他の学校とオレたちの学校の状況が、すべて同じって訳じゃないし、気にし過ぎか。いまの言葉は忘れてくれ」
僕の言葉に、トシオがすぐに納得したように、Googleフォームを使って放送・新聞部が行った生徒会選挙・公示日当日の投票先アンケート調査では、
光石候補 35%
陣内候補 15%
石塚候補 5%
降谷候補 5%
投票先未定 40%
という結果になっていた。
事実上、公示日前の意識調査なので、急遽、アンケートに名前を入れることになった降谷通を選択する生徒がいることに少し驚いたけど、面白半分での回答であることも考えられる。
「いまの段階では、まだなんとも言えないと思うけどな〜。このまま、例年どおり、生徒会選挙の関心度が低いままなら、光石さんの圧勝だろうけどね〜。二宮高校では、生徒会選挙の関心度の高まりが、関くんの躍進を後押ししたみたいだかね〜。投票先だけじゃなくて、アンケートの選挙関心度にも注目しておいて」
僕らの会話を黙って聞いていたケイコ先輩が口を開いて、自身の見解を述べる。先輩の言葉に従って、僕は生徒会選挙の関心度に関するアンケート結果に目を向ける。
大いに関心がある 35%
ある程度関心がある 15%
どちらとも言えない 40%
あまり関心がない 5%
まったく関心がない 5%
「注目するのは、『大いに関心がある』の数字だけ。この項目が高くなると、全校生徒の投票行動に大きな変化があるから、注意して見ておくこと」
そんな解説をするケイコ先輩によれば、例年、生徒会選挙に「大いに関心がある」と回答する生徒は、40%前後で、クラブ活動を行っている生徒の数の3分の2程度だということだ。そして、部活に所属していない生徒の大半どは、「大いに関心がある」と回答することは無いという。
「ある意味で、その無党派層を動かしたのが、二宮高校の関候補ということでしょうか?」
これまでのケイコ先輩の説明を踏まえたうえで、僕なりに考えをまとめて質問すると、上級生はニヤリと笑う。
「なかなか鋭いじゃない、佐々木くん。そのとおり! 昨日は、降谷通の横ヤリが入って説明できなかったけど……二宮高校では、関くんが行った《ミンスタグラム》《YourTube》《teX(旧:トゥイッター)》《LANE公式アカウント》を駆使した情報発信と拡散の影響で、生徒会選挙そのものの関心度が高くなったことがわかったの。この前も話しに出たように、SNSなら学校に来ない日でも候補者の動向を確認することができるしね。休日も情報発信を行う関くんは、二宮高校の生徒の中で、親近感が上がって行ったということかな?」
「まるで、YourTuberみたいな活動ですね〜。ネットを使って人気者になる方法を知り尽くしている感じ。無料で情報発信できるなら、やらなきゃ損ですもんね!」
ケイコ先輩の言葉に、ミコちゃんが応じる。たしかに、下級生女子の言うとおりだ。
でも――――――。
(たしか、《LANE公式アカウント》って、有料じゃなかったっけ? 関候補は、月額プランに支払うお金をどうしていたんだろう?)
そんな疑問を感じて口に出そうとしたところ、スマホで《YourTube》を視聴していたトシオが、大きな声をあげた。
「おい! 降谷通が、おかしな動画を上げてるぞ!」