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第1章〜彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず〜⑭

 9月18日(木)


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 バスケ部元部員 自主退学

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 二回目の十条委員会が行われる当日、僕たち放送・新聞部が発行する一宮(いちのみや)新聞には、またもショッキングなニュースの見出しが踊った。

 

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 十条委員会での尋問前日

 バスケ部の問題調査に影響も

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 大見出しの隣に添える、わき見出しでも簡単に伝えたとおり、告発文書への関与が疑われ、クラブを自主退部していた男子バスケットボール部員の仲尾瑠星(なかおりゅうせい)が、十条委員会への出席前日に、自主退学して、一宮(いちのみや)高校から去ってしまったのだ。


 僕らの投稿フォームにも届いていた告発文書を作成していたのかどうかという問題をのぞいても、仲尾は、初回に証人として出席した部員の古室正之(こむろまさゆき)より、はるかに内部事情に精通していると考えられていただけに、男子バスケットボール部の疑惑を追及する十条委員会に対して、大きな影響が出ることは避けられないだろう。


 実際、十日ごとに行われる予定の十条委員会は、仲尾瑠星(なかおりゅうせい)が、不在となったため、開催されないことになった。仲尾に質問できなければ、肝心の凱旋パレードのウラで、ナニが起こっていたかを明らかにすることができないからだ。


 二学期が始まってすぐに届いた告発文書は、凱旋パレードについて、こんな内容で記載されていた。


『7月20日実施のバスケットボール部インターハイ出場決定の凱旋パレードは部費や校費をかけないという方針の下で実施することとなり、必要経費についてクラウドファンディングや地元の企業からの寄附を募ったが、結果は必要額を大きく下回った。』


『そこで、クラブへの出入り業者への大量発注を約束して、寄付を募りることで補った。幹事社は市内のPR会社。部内の司令塔は、荏原(えばら)副部長。パレードの寄付集めを担当した部員は、この一連の不正行為と四宮(しのみや)高校との難しい調整に精神が持たず、バスケ部を退部。しかし、石塚部長は、どこ吹く風のである。』


 球児の聖地とされる野球場で行われる全国大会への出場を逃した中谷の所属する野球部と違い、堂々と夏の全国大会への切符を勝ち取った男女バスケットボール部の活躍そのものは、もちろん、称賛されるべきだけど……。


 そのために、凱旋パレードを行うので寄付を募る、という方針については、一部の熱心なバスケ部ファンをのぞいて、冷めた対応をする生徒が多かった、と記憶している。


 実際、僕と良く話す仲であるクラスメートの塩谷(しおや)は、


「真夏の野球部の応援が無くなったと思ったら、バスケ部は寄付を呼び掛けてるのかよ……運動部に興味ないオレたちには、関係ないって……」


と、露骨に不快感を表していた。


 その凱旋パレードについては、僕たちも放送・新聞部でも取材を行い、映像や記事を残しているが、実際のところ、どうやって開催資金を調達したのかは謎だった。誰かが指摘するまでもなく、生徒間で評判が良かったとは言えないパレードの寄付の総額は発表されず、パレードに掛かった費用も公表されていないからだ。


 この疑惑の凱旋パレードに関しては、仲尾の十条委員会に先立ち、放送・新聞部で独自に調査を行っていた。箝口令(かんこうれい)が敷かれているのか、男子バスケ部の部員は一様に口を閉ざしていたんだけど……女子バスケ部の複数の部員から、凱旋パレードは、男子バスケ部2年の鈴木康明(すずきやすあき)という部員が中心として関わっていたという証言を得ることができた。


 そして、教員の先生たちにも聞き取りを行ったところ、当事者である鈴木は、夏休み直前から学校に登校しなくなり、二学期が始まると自主退学してしまったという。この事実だけでも、告発文書に書かれていたとおりのことが起こっている、と考えられる。

 僕らが独自に取材と調査を行った内容は、事前に自治生徒会を通じて、十条委員会のメンバーにも伝えれていた。それだけに、今回の委員会が開催されれば、より具体的な内容の質問が出てくると期待していたんだけど……。


「これで、凱旋パレードに関しては、追及が難しくなったわね……」


 悔しそうな表情で、ケイコ先輩がつぶやく。


「問題の中心にいる部員が、退部どころか、学校を辞めちゃいましたからね」


 疑惑は晴れるどころか、さらに深まったという感じていた僕も、先輩の言葉に同調した。

 ただ、僕たちと異なる考えを持っている部員もいるみたいで、親友のトシオは、


「パレードのことは良くわかんねぇけど、部長の石塚が、部内イジメをしていたり、業者にモノをタカっていたりしたのは、事実なんじゃないのか? ここは、パレードの件は置いておいて、部内イジメやタカり行為について、記事を書いていけば良いじゃないか?」


と、バスケ部問題の継続報道に前向きだ。


 さらに、ミコちゃんも、

 

「私も古河先輩の意見に賛成です! 石塚部長は、部内イジメの問題に答えていませんし、退部だけじゃなく、退学までしてしまう部員がいるなんて、絶対に怪しいです! 特にイジメ問題については、全校生徒の注目も高いですし、記事を書くのをやめるべきじゃないです!」


そう言って同意した。

 たしかに、彼女の言うとおり、バスケ部の問題を取り上げてから、放送・新聞部の公式チャンネルの動画再生回数と紙面のダウンロード数は、野球部・中谷選手の活躍を報じるとき以上の数字を記録しているんだけど……。


「活動の主役は、現役部員のあなた達だからね。私は、動画や紙面作成の方針に、私は口を挟まないわ」


 ケイコ先輩は、僕ら1・2年部員の意志を尊重するように断言する。

 こうして、放送・新聞部は、男子バスケットボール部の部内イジメや業者からの物品受け取り疑惑に関する報道を継続することになった。


 この決定が、後々、自分たちの活動や校内での評価に対して、大きなカゲを落とすことになるということを、僕たちは、まだ気づけずにいた。

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