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第1章〜彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず〜⑫

 9月8日(月)


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 十条委員会の開催を決定

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 一宮高校創立以来初

 男子バスケ部の諸問題を調査へ

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 週が明けた月曜日、放送・新聞部が発行する一宮(いちのみや)新聞には、この大見出しと小見出しを記して、生徒昇降口の近くの掲示板に、大々的に貼り出された。

 

 掲示板の前で足を止める生徒の人数の多さから、記事の反響の大きさに驚いていると、男子生徒に声をかけられた。


「おはよう、佐々木! バスケ部は、大変なことになってるんだな〜。いつもの野球部の記事は興味ないけど、今回は、バッチリと一宮新聞をダウンロードさせてもらったぜ」


 そう言って、PDF化された新聞紙面をスマホに表示させて語るのは、塩谷浩三(しおやこうぞう)。僕と同じ2年1組の生徒だ。

 どのクラブにも所属していない生徒だけど、一学期は席が近かったこともあり、気さくに話しかけてくる彼からは、帰宅部生徒の想いや考えを色々と聞かせてもらっていた。


「ありがとう、塩谷。やっぱり、野球部・中谷のホームランの記事ばっかりじゃ、飽きられちゃうからね」


 クラスメートの気持ちを察して、苦笑しながら答えると、彼は満面の笑みで言葉を返してくる。


「おう! クラブの不正があるなら、しっかり暴いてくれよな」


 帰宅部の生徒は、学校の知名度アップに貢献するという名目のもと、夏の暑い盛りや真冬の酷寒の中、平気で屋外のスタンドでの応援に駆り出すようなクラブに対して、好意的な感情を持つのは難しい、ということなので、各クラブが不正を行ったり、既得権益を守ろうとする態度には厳しい判断をくだすことが多いようだ。


「僕たちには、調査権限なんて無いから……出来ることは、十条委員会の会議のようすを伝えることくらいだけどね」


 彼の期待と、自分たちに許される活動で可能なことにギャップがあることを感じながら、僕はそう答えた。


 ◆


 全校生徒の注目が集まる中、十条委員会の第一回目の会合は、月曜日の放課後に開催されることになった。


 僕たち放送・新聞部も、この会合を取り仕切るクラブ連盟と運営委員会の許可を得て、映像記録用のハンディカメラと新聞記事作成用のICレコーダーを持ち込み、万全の体制で取材に臨む。


「それでは、委員会メンバーがお揃いなので、男子バスケットボール部の告発文書に関する調査特別委員会を開催いたします。開催に先立ちまして、本日は、委員会進行のアドバイザーとして、自治生徒会顧問の田仲良樹(たなかよしき)先生にご出席いただいております。それでは、タブレット端末の資料00(ゼロゼロ)の議事順序により、本日の議事を進めたいと思いますが、ご異議ございませんでしょうか? 異議が無いものと認め、そのように進めさせていただきます」


 風紀委員会で委員長を務める三年生の屋良優作(やらゆうさく)先輩の議事進行で十条委員会は始まった。

 屋良先輩は、今回の十条委員会の委員長役も務めることになっているが、学校創立以来はじめての経験にもかかわらず、堂々とした進行ぶりに感心してしまう。


 その後、証人尋問の進め方や本日の承認の人数の確認を終え、いよいよ、証人が委員会の場に呼び出されることになった。

 まずは、バスケットボール部の部員である古室正之(こむろまさゆき)が入室してきた。


「本日は、当委員会に出席くださり、ありがとうございます。委員を代表して、お礼申し上げます。委員会の調査のため、また、真相究明のため、ご協力をお願い申し上げます。証言を求める前に証人に申し上げます。証人は原則としてお手元に配布の留意事項に記載の場合以外、証言を拒むことや証言を求める場合の宣誓について、拒むことが出来ません。もし、これらの正当な理由がなく証言を拒んだときは停学もしくは退学に処せられ、また、虚偽の証言を行った場合は退学に処せられる場合があります。ご承知おきください」


 淡々と議事を進行する屋良委員長の言葉に、傍聴席に座る僕も、思わず固い唾を飲み込んでしまう。

 放送・新聞部に入部した直後から、ケイコ先輩のアドバイスに従って校内の規則を調べていたことから、十分に認識していたつもりだけど、あらためて、実際の十条委員会における罰則の重さに身が固くなる思いだ。


「こんな重たい罰則つきの会合が開かれることなんて、僕らが卒業するまでにあり得るんですかね〜?」


 まだ、入部したての頃、軽い気持ちで先輩にたずねたことがあるんだけど、ケイコ先輩からは、


「十条委員会が開かれるってことは、校内でも重大な問題が起きたってことだからね。放送・新聞部の腕の見せどころなんだから、そのときは、ハリキリなさい! まあ、学校創立以来、そんな大事件なんて起きたことないんけどね!」


と、発破をかけられつつ、滅多に起こらないことだろうと、一笑に付された。


 その大事件が、僕の目の前で始まろうとしている。

 放送・新聞部の部員としての僕の想いをよそに、委員長は、議事を進める。


「それでは、校則の定めるところにより、証人に宣誓を求めます。傍聴の方も含めて、ご起立ねがいます」


 こうして、一宮高校創立以来はじめての十条委員会がはじまった。

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