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第55話 毒竜鳥


「友に感謝を。民に敬意を。」


「認められし者、力を受け取らむ。」


老木の一声に続けて、辺りの木々たちはみな復唱する。地面が脈打つ。地震ではない。地面が胎動している。銀色の波動が地面を伝って、僕たちを囲む。

生暖かい感触に全身が包まれたかと思うと、疲労感が吹き飛んでいった。立っているのに、フワフワと宙に浮いているかのように感じた。

目を開けると、今までぼんやりとしか捉えられていなかった元素が形を成していた。くっきり、はっきり元素のありようが鮮明に見えた。


「マーサ、マーサも、同じことが起きてる?」

急なことに頭がパニックになり、うまくマーサに伝えられない。

「ソラには何が起きたの?私は元気になって、元素の流れが今までより、きれいに見えるようになったよ。」

「うん。同じだ。僕も。マーサの言っていた毒の元素が少し遠くに見えるよ。」

ピートは特に変わったところはなさそうだが、元気にはなったようだ。

「願わくば同胞を救う手助けを頼む。」

そう一言告げると、少し痩せ細った植物たちは老木を先頭に奥へ奥へ進んでいった。



「ソラ。」

マーサが力強く歩き出す。 僕も無言で、うなずいて、隣を歩く。

だんだんと毒のエリアが近づいてくる。僕たちは手当たり次第に毒を消していく。

今の状態だからこそ、はっきりとわかる。毒だと思っていたものは、鳥の形をしていて、明らかに自由意志を持って行動している。ただの毒の元素じゃなかった。

木々たちの力を分けてもらったおかげで格段に元素を扱いやすくなった。土と水も不自由なく扱えるようになってきた。マーサも同じことを感じたのか、よりスムーズに広い範囲の毒を消している。

もう、このエリアも消し終わる。そう思った矢先、何か大きな気配を真上に感じた。


「マーサ!上!」

見上げると、赤褐色のドロっとしたドラゴンがこちらに向けて何かを吐きかけた。これが毒竜鳥か。

三人で横に避けながら“ニュート・ラリージョ”(中和円)を広げる。対処できる程度の毒だったので、何とか事なきを得た。

が、避け遅れた木々たちは再び毒の元素に蝕まれていく。速い。根元まで模様が広がるのに数秒と待たない。毒が全身に回る速さから考えると…菌糸か何かだな。


マーサは自然体で立ち、目を閉じて元素を集めている。何か考えがあるのかな。とりあえず、援護に徹しよう。

ピートと二人で毒竜鳥に攻撃を加えながら、マーサを守る。マーサは胸の前で合掌をしていたかと思うと、手の平で丸い形をかたどっていく。緑の元素が中心に集まってくる。何をする気だろう。

マーサが、花嫁がブーケを投げるように両手を上に広げると、体全身から銀を帯びた碧の粒が辺り一面に勢いよく放たれた。


“アルジェント・センベネ”(消毒銀)


それを浴びた植物たちが軒並み毒から解放されていく。近くで浴びた毒竜鳥は体のあちらこちらに穴が開いている。

ここだ。

空いた穴に目掛けて、指先から“ロンポ・ルーモ”(触波光)を放つ。触れると爆発するビー玉くらいの小さな光。小さいけれど、うまく取り込んでくれれば、なかなかの威力になるはず。

しかし、再生力が高く、せっかく開いた穴もすぐに塞がっていく。全ての穴に光を放り込むことはできなかった。閉じたところにあたっては小爆発が何度も起きた。

と、元通りの竜の形になった瞬間、毒竜鳥の中で次々と光が爆発する。身体のあちらこちらが弾け飛ぶ。弾け飛んだ部分はマーサがすぐに浄化していく。

毒竜鳥はずいぶん小さくなったが、たいしてダメージを受けているようには感じられなかった。

僕たちをはっきりと敵と認識したのか、完全にこちらに向けて攻撃してくる。何種類もの毒を吐きわけ、空を縦横無尽に飛び、僕やマーサ目掛けて突進を繰り返す。


形をとどめているようで、とどめていないのか、急に爪や羽が伸びてきて、ヒヤッとすることもままあった。

避けながら、周りを浄化したり、傷を癒したりするだけで二人とも手一杯だった。ピートは僕たちがそれに専念している間に、毒竜鳥の死角で膨大な水の元素と光の元素を混ぜ合わせて、身体の中で圧縮していた。動きながらピートに目配せをする。ピートと目がばちっと合う。やりたいことは、すぐにわかった。


“ロタッシオ・ヴォルティオ”(時空渦)か。圧縮された元素が周りを巻き込んでから、広範囲に爆発する技。ピートの得意技の一つだ。

「マーサ、避けながら、ピートの方へ来て。」

動きの中で、小さく耳打ちした。

親指をグッと上げてくれる。ピートも僕らの意図を察したのか、三人が合流しやすいように動きを合わしてくれる。動きまわる毒竜鳥の相手をしながらピートの射程範囲に誘導していく。

あと少し。空中でやや静止し、マーサの方を向いた瞬間に、人差し指と中指を毒竜鳥に向ける。

派手に光らせた“ロンポ・ルーモ”(触波光)をこちらに気付き、避けれる程度のスピードで放つ。オーシャンブルーなら、さぞ目立つだろう。

先ほどのことを思い出したのか、大きく横へ避ける。そのままピートの射程に入っていく。

「マーサ!」

言い終わるか終わらないかの間に、ピートは上半身をしならせて、


“ロタッシオ・ヴォルティオ”(時空渦)


を毒竜鳥に放つ。


視野外から飛んできた攻撃に反応が少し遅れる。交わすことはできたが、渦の外側へと引っ張られ、逃げるに逃げられない。

ピートのもとに、二人で集まると、僕はすぐさま右手の拳を握り真上にあげて、


“ネペント・レブラ・ルーモ”(光壁球)


を作る。すぐさま光の壁ができあがる。マーサも土を両手で触れて、その外側に


“ロカ・グルンド・ムッロ”(粘土壁陣)


で粘土や岩土の壁を作ってくれた。毒竜鳥は渦の外側から内側へと捻りながら、吸い込まれていく。

瞬間、圧縮しきった元素が反発を起こし、一転して外にエネルギーを生み出す。直径五メートルほどの球体に毒竜鳥が捕らわれた。その中ではエネルギーがあちらこちらへ跳ね回り、空間が渦巻き状に歪む。やがて、全てのエネルギーのは内向きになり収束していく。


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