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第49話 青いリボン

トットさんは、ちらと青いリボンに目をやると、マーサに話しかける。

「おや、珍しい。ドレさんとこに泊まっているのかい?」

「ご存じなんですか?」

「えぇ、よく知ってるとも。そういえば目元がアンナちゃんによく似ているねぇ。年頃から考えて、アンナちゃんの娘さんかな?」

「そうです!えっ!なんだか不思議な感じ。ママの話を、ママの故郷の方から聞くなんて!」

「世間は案外狭いもの。まぁ、何にせよ、今さっき帰ってきたところだろう?何よりも早く体を休めたほうがいい。毒やら麻痺やらは、意外と体力を消耗しているからね。また、時間を作って、会いにきてくれると嬉しいよ。」


緊張の糸が解けたのか、もう少し話したい気持ちとは裏腹に体がだんだん重くなってきていた。マーサも同じなのか、丘の広場に来てから、あくびをする回数が増えていた。

「じゃあ、今日は帰って休みます。また、来るので、お話きかせてください。」

マーサは弾けんばかりの笑顔でそう話した。

今日もレイストでは雨が勢いよく降っている。でも、この雨を懐かしく思うのは何でだろう。



公園の広場を後にして、プルセツォーノに戻ってきた。

街に入ると、クレイまでの道がわかるように目印が視覚化されていたり、街の情報が詳しく記されていたりした。バーチャルっぽい感じだけど、はじめたきた時とは全く違う景色だ。


「ねぇ、マーサ。これって…。」

「うん。青いリボンだよね。きっと。」

すごすぎて、一瞬、言葉を失った。

恐らくは魔法か何かなんだろうけど。種火といい、青いリボンといい、クレイ一族って一体、何者なんだ。

おかげで迷うことなく、宿に着くことができた。おばさんたちは3人並んで迎えてくれる。みんな肩まで雨に降られている。

「おかえり!三人ともほんっとに無事で良かったよ!」

「種火が使われたものだから、冷や冷やしましたわ。元気な姿を見れて、ホッとしましたことよ。」

「……おかえり。」

なんだか一気に力が抜けた。体は気だるく、頭はボーッとしてくる。立っているのもやっとだった。その日はシャワーを浴びて、ご飯をいただくこともなく、二人とも死んだように眠ってしまった。



翌朝、みんなにウルシゴクを見てもらった。

「いやぁ、なかなかの長旅だったねぇ!お疲れ様!」

ドレおばさんは今日も機嫌がいい。

「おかえりなさいませ。青いリボン、あなた方の分を作りましたことよ。」

そういうと、僕とマーサに柄の異なる青いリボンをくれた。

「ウルシゴク…あった?」

イエおばさんもなんだか安心したような表情をしていた。

「はい、これだと思うんですが。」

イエさんは手に取ると、灯りに透かして、石をじぃっと眺めた。横から2人も覗き込んでいる。

「おや、すごいじゃないか!特大だね!特大!」

「あら、素晴らしいことですわ。完璧だと思いますことよ。」

「さいこう…。」

イエおばさんは、その石と、他にも集めたギフトやマーサのブレスレットも一式もって、工房へ駆けていった。


「それにしても、よくわかったねぇ!こんなことは久しぶりだよ!もしかして、石に呼ばれでもしたのかい?」

「えっ…?」

どうして、わかったんだろう。

「もしかしたら、と思ってね!こんなにすごいウルシゴクなんて、そうそう見つけられないよ!」

「この辺では昔から石に呼ばれる逸話が言い伝えとして残っているのですわよ。まぁ、本当に見つけた方と話すのは、はじめてですけれども。」

「それにしても、大変だったみたいだね!種火が使われたから、何事かと思ったよ!」

「おばさま、あの種火は一体何なのですか?」

さすが、マーサ。ど直球。

僕も気になってた。クリスのリアクションも全く普通じゃなかったし。

「あれはね、危険の大きさを炎が表していて、持ち主に命の危険が迫ると紋様が反応して割れるのさ!そして、自動的にここまで送ってくれるんだよ!」

それならそうと教えといてよ。

「でもさ、ソラ。自動で割れなかったよね?」

…そう言えばそうだ。クリスが自分で割っていた。

「だから、心配でしたのよ。器だけ壊されて、炎が使われましたから。」

「ルーブの言うように、あの炎はただの元素使いには扱えないはずなんだけどね!まぁ、そんなことも含めて、旅の話を聞かせておくれ!心が躍るよ!」

僕たちは 宿を出てからのことをゆっくりと思い出しながら、丁寧に話していく。丘の上、タノモーリ、遺跡。数えきれないほどのはじめてがあった。



 ◇ ◇ ◇



ボォーン

    ボォーン


時計が日付の鐘を打つ。宿での夜はまだまだ長い。

「タノモーリは楽しかったろう?なんだか、急に勝手な武闘大会をはじめられて!」

ドレさんはケラケラ笑っている。

「はじめは、びっくりしましたけど、すごくいい経験になりました。マーサも楽しんでたよね?」

「うん!本気と本気のぶつかり合いがあんなに楽しいとは思いませんでした!」

「帰りなんて、マーサだけがはじめから最後まで闘ってたよね。ほんと、すごかった。」

「ってことは、マーサちゃん、優勝しちまったんだね?次、タノモーリに入ったらえらい目にあうよ!」

ドレさんは大きく笑っている。ルーブさんもマーサの手を握りながら「一応、優勝おめでとう、ですわね。」などと笑顔で言っている。

どういうことか、よくわからないけれど、笑っていられるってことは深刻なことではないんだろう。

マーサはタノモーリでの熱戦の数々を思い出したのか、うずうずした表情で、ギュッと手を握り返している。


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