第48話 出会い
「助けてもろたし、えぇもんみたし、来てよかったわ、レイスト。よっしゃ、ほな、そろそろ帰ろかな。今日は炎の元素がなかったら、どないもでけへんし。」
先ほど僕たちにくれた水晶と同じものをリュックから取り出した。
「あの…この水晶は…」
「あぁ、これか。これはな、テングースの涙。ドロップギフトや。水晶ちゃうで。うちの国ではシエラ・ストーノ、つまり、空の石って呼ぶねん。行きたいところを思い浮かべて、自分の元素をこめるとな、なんと!そこに行けるねん。すごない?」
「空間を移動できるってことですか?」
すごいな。そんなものがあるなんて。
「せや。まぁ、おんなじようなもん売ってるとこもようけあるけど、そんなんとは、わけがちゃうで。これはな、国を超えても移動できる。海を渡れるのはドロップギフトだけやねん。」
「それってすごいじゃないですか!」
もしかすると、これがあれば光の国に帰れるかもしれない。マーサも笑顔でうなずいてくれる。
「っても、行かれへんところも結構あるけどな。結界なんかが張られているところはもちろんあかんし、まぁ、なんやかんやあるわ。さっきもろた火種に比べたら、全然どこにでもあるもんやけどな。」
そう話しながら、二歩、三歩と下がっていく。
「ほしたら、そろそろ帰るわ。ソラたちも気いつけて帰りや。また、どっかで会ったら、よろしゅう!助けてもろた恩は忘れへんよって。ほな!」
そういうと、クルスは土の元素をシエラ・ストーノに込めた。
シエラ・ストーノから煙がポワポワと現れる。やがて、その煙はクルスを覆っていき、バチバチと青白い火花が弾ける。煙が消える頃には、クルスの姿はなかった。
僕たち二人はあ然として、顔を見合わせる。ピートだけは事もなげに入口に向かって飛んでいっていたけれど。
「見た?今の。すごいよね!早速使う?このまま光の国に行けるんじゃないの?」
ルンルンした声でマーサが話す。
「…無理だよぉ。あそこは護られているからねぇ。」
「…そうなんだ。」
マーサがわかりやすく落ち込む。
まぁ、そう簡単にはいかないよな。
「とりあえず大切に持っておこうよ。いざという時に使おう。レイストやドランドでは手に入らなさそうだし。」
「確かにそうだね。聞くのも見るのも初めてだったし。とりあえず今朝の樹の上までもどろっか。」
入り口から出た僕たちの影はずいぶんと伸びていた。来た時と同じように、警戒しながらも最速で進んだ。明らかに目つきのおかしいホラアナグマを遠目に二、三度見かけたが、気付かれることなく遺跡を抜けることができた。
◇ ◇ ◇
樹上で帰り道について話し合ったが、「同じところは面白くない」とマーサが言い張るので、タノモーリの中を少し遠回りしながら帰ることになった。
コウウリンに近い方の道を通ると、明らかに敵が強くて驚いた。もちろん、単純な戦闘力で手こずるような相手はいなかったけれど、行きに比べると動きが速くなり、攻撃も重く、防御も固かった。
同じように一対一の修行スタイルが基本だったが、時折、黒帯をしめている相手がいたり、周りに弟子がいたりなど、クスッと笑える瞬間がたくさんあった。
帰り道はマーサがほとんど相手をしていた。元素で闘う練習がしたかったのか、完全にスイッチが入っていた。
本人は強くなっていくのが嬉しそうだったが、闘うたびにすさまじく上達している姿をみて、何度か身震いした。末恐ろしいとは、まさにこのことだ。
麻痺や毒を武器にする相手もちらほらいて、その部分に関しては一筋縄ではいかなかった。だが、何度も毒や麻痺をくらうなかで、僕もマーサもそれらに対応する術を身につけられた。
ピートはというと、道すがら美味しそうな実を片っ端から食べていただけだった。とても幸せそうに。
丘の広場に戻ってくると、あの時のおじいさんが同じようにベンチに腰掛けていた。
「こんにちは。帰ってきました!」
少し大きめの声で呼びかける。
「トットさん!ただいま!」
マーサが手を振る。
トットさんは帽子を左手に持ち替えると、右手を軽く上げて、手を振りかえしてくれた。
二人で、おじいさんの横に腰掛ける。
「男子三日会わざれば…というやつかな。二人とも見違えたねぇ。」
「そうですか?」
隣でマーサが、ふふふっ、と嬉しそうに笑った。
「タノモーリはどのルートを通ったんだい?」
「はじめは森の真ん中を、帰りはコウウリン沿いを通りました。」
まぁ、帰り道はマーサが駄々をこねたのだが。
トットさんは僕たちをじっと眺めながら、
「これは…驚いた。二人とも体は何ともないのかね?」と言った。
「はい、二人で助け合いながら、何とか毒や麻痺にも対応できました。ソラは元々毒に強くて。私はこれのおかげかな?あっ、でも、毒と麻痺は元素で消せるようになりました。」
スカーフとブレスレットを見せた。
「ふふふ、すっかり冒険家の顔だね。ところで、目当ては見つかったのかい?」
「はい。これかな、と思いまして。」
洞穴から持ち帰った石を見せた。
トットさんは右手でもつと、太陽にかざし、それから、にっこり笑った。
「いやはや、たいしたものだ。これはウルシゴクだよ。それも特大の。」
「よかったねー!ソラ!なんだか、ホッとしたよ。」
「ソラくんが見つけたのかい?」
「はい。あの…信じてもらえないかもしれないですけど…石に呼ばれました。」
「ほぉう…。石に呼ばれたと…。」
トットさんの目がにんまりと細くなる。
「信じるとも。信じるとも。昔を思い出して、血が騒ぐ思いだ。」
トットさんは慈愛に満ちた目で僕のことを見た。