第45話 偵察
タタカウマにファイトナカイ、ケンカンガルー、イッポンタヌキ、ワザアリクイ、セイケンタウロスなどなど。種族の主と出会うことがなかったので、特に強い相手とは闘えなかった。
でも、驚くべき発見をした。それはマーサが近距離格闘技にとても長けていたこと。
それにしても、なんなんだろう。この森。変な動物ばかりだ。途中、ブドウサギに稽古をつけられているパーティーを見かけた時は、思わず笑ってしまったけれど。
泉までけっこうな距離があったように思っていたが、頻繁に戦っていたこともあり、あっという間だった。気がつくと太陽は西に傾いており、泉の近くまで来ていた。
泉からはイヤシミズが湧き出ており、付近で休息するパーティーをちらほら見かけた。
僕たちは泉の近くではなく、少し離れた木の上で休むことにした。というのもチョコのように甘ったるい匂いをピートが嫌ったのだ。
「あれは、絶対だめな甘さだよぉ。」としきりに僕たちに言っていた。幸い、樹上で休むに適した木が見つかって、ホッとした。マーサは慣れた手つきでエダヒラスギに小屋を作ってくれた。
“ムッロ・ミラージョ”(蜃気楼壁)
僕は視覚的に気づかれないように小屋の周りに細工を施した。光の屈折を利用した簡単な元素の壁だけど、これで、まわりからは木々と同化して見えるはず。あとは鼻が効く生物と音に敏感な生物への対処だけど…。
光と土を混ぜようか、降っている雨足をピートに強めてもらおうか、などと思案していると、マーサが緑の匂いでカモフラージュしてくれた。音はピートが対策してくれて、何とか一番しっくりくる形で小屋を整えることができた。
整え終わる頃には雨粒は一段と大きくなり、力強く降ってきた。
陽が落ちた途端、雨に混ざって昼間とは異なる耳慣れない鳴き声がいくつも聞こえてくる。
たくさんの敵意とともに夜がやってきた。
翌朝、地上に降りて、はっとした。ざわざわが止まらない。
急いで泉まで戻ってみると、無残に破壊された宿、大量の還魂片、大規模な戦闘の跡が明らかだった。三人で顔を見合わせる。ピートはチラリと僕を見て、テントを指さして、口元にそのまま指を持っていった。
僕は慌てて地図を広げる。泉の中心から外に向かって小さな矢印が書いてある。僕たちはそそくさとその場を後にした。
◇ ◇ ◇
しばらくは、同じような日々が続いた。
明るいうちはできるだけ進み、暗くなる前には樹上で休む。過ごしてみてわかったことは、安全に夜を越えるためには樹上生活が欠かせないということ。途中、見かけた部族たちも樹上で暮らしていることがほとんどだった。
困ったことにタノモーリは存外広く、道中で頻繁に闘いを挑まれることもあり、なかなか前へ進まなかった。
何日かの後、ようやくタノモーリを抜けるところまでたどり着いた。夕方だったこともあり、タノモーリの樹上でもう一晩だけ過ごした。
太陽と月が出会う頃、僕たちは樹上から地上へ降りた。雨は横から上へとぐるぐる回りながら降っている。小雨だからあまり気にならないけど、大粒だったら少し困るだろうな。マーサも僕も身支度をして、コレクトダイスを整理し、出発準備は万端だ。
「ねぇ、ソラ。遺跡が意外と大きくて、迷いそうだよね。」
困り顔でこちらを見る。
「うん、ほんとだね。」
遺跡は二階建ての建物も多く、先を見通すのが難しい。道も入り組んでおり、かなりの注意を要するだろう。
「じゃあさ、樹の上から見てみない?」
ナイスアイデア。それが最善だ。ただし遺跡側から登ると僕たちの姿が丸見えだし……タノモーリ側から登っていくのが良さそうか。
「そうしよう!さすがマーサ!」
マーサは親指を立てて微笑んだ。
あっという間に椅子や肘掛けをつくって、快適な監視スペースを作ってれる。
「じっとしててねぇ。」などと言い、ピートは僕たちを小さな霧で包んでくれた。
これで向こうから見つかることはない。
樹上から見る遺跡はかなり広く、東西は見切れるほどだった。北向きも海辺までずーっと遺跡が続いていた。
ここに昔ものすごく大きな街があったのだと思うと、何とも言えない気持ちになった。
目的の白い塔とモレビ洞穴は今いる場所から北東の方角にあった。上から見ると、ところどころに生き物の巣らしきものがあり、立っているクマが見える。ホラアナグマだろう。
旅人たちに手を振り、お辞儀をしている。愛らしい様子に見えたのか、ホラアナグマと触れ合ったり、物を与えたりしている。旅人がホラアナグマから離れていくと、二度、三度、体を震わせた後、静かに追っかけていく。旅人たちは気づく素振りもない。
「僕たちはああならないように、気をつけて進もう。」
「そうね。おばさんたちの言っていた意味が少しはわかった気がするわ。」
遺跡の道は碁盤の目のようになっているので、恐らく迷うことはないだろう。けれども、良くも悪くも角が多く、直線が長い。慎重にルートを選ばないと危険だ。
三人で相談して、一番、対応しやすそうな道を選んで歩くことにした。




