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第40話 クレイ

「さぁ、先を急ごう。」

還り際の贈り物。アマヤドラのドロップギフトを受け取り、先へ進んでいく。地図によるとプルセツォーノまで、あと半分ほどだ。

途中、旅の一団と木々を挟んですれ違った以外にめぼしい出会いはなかった。プルセツォーノに近づくにつれて、動植物は穏やかになっていく。雨粒は大きくなったり、細かくなったりしたが、降り止むことはなかった。

薬や道具を作るのに必要なものを採取しながら、注意深く進んだ。日が西に傾いたころには、プルセツォーノに着いた。


プルセツォーノの周りは空気の全てがしっとりとしていた。目に見えるほどの霧雨が降ることもあった。

入り口は東西南北に一つずつしかないらしく、それ以外は蔦のような植物が巻き付いた柵に覆われていた。街はホザートに比べてもかなり広く、あちらこちらに店があり、たくさんの人が行き交っている。彩りの豊かな街並みは、ひどく見慣れない。人の多さに酔いそうになった。とりあえず入り口近くの宿に泊まることにした。


 翌朝からアンナさんの実家を探すが、なかなか見つけることができない。宿を転々としながら、プルセツォーノを何日も歩き回り、クレイについて訪ねても、よそ者には言わないといった感じが大半だったため、情報を得ることは困難を極めた。

あまりに手がかりがなさすぎて、途中から街を楽しみがてら情報を集めよう、ということになった。

街の端から端まで探索した。武器屋や防具屋、道具屋など様々な店に入り、いろいろな品物を手に取った。食べ歩きストリートや、土産物市なんかもあり、光の国とは大違いだった。

マーサも驚くことばかりのようで、学校で習うこととはまた違う発見がたくさんある、と嬉しそうに話していた。


何日も何日も街を歩き尽くした頃、ようやくアンナさんの実家を見つけることができた。

偶然、迷い込んだだけの話なのだが、大通りから一筋外れた通りの民家と民家の間にある細い路地を抜けた先から、さらに入り組んだ道の奥にそれはあった。

こんなところに小道なんかあったのか。


「あった、ここだ。ママの実家。」

小さな一軒家に古びれた看板が立ててある。

“クレイ“と筆記体で書いてあった。

「クレイはね、ママの旧姓なの。」

「そうなんだ。マーサはおばさんたちとは会ったことあるの?」

「ないの。写真と手紙のやりとりくらいよ。それもずいぶん前の話。なんだか緊張するね。」


カラカランッ!カラァン、カラァン…。


急な物音に体がビクッとなる。

中から大柄なおばさんが出てきた。髪は赤く、目は碧い。雰囲気がアンナさんとそっくりだったので、すぐに妹だとわかった。

「何突っ立ってんだい。マーサちゃんだろ?おっきくなったねぇ!目元がアン姉にそっくり。ほら、ソラくんにピートちゃんも、入って!」


中に入ると建物は見かけ以上に広くて、思わずマーサと顔を見合わせた。

木で造られた空間をあたたかな電灯が照らしている。お香のいい香りが辺り一面に広がり、今まで張り続けていた緊張の糸が一気に緩んだ。

入り口にはテーブルやソファが置いてあり、落ち着いた雰囲気を醸しだしている。

少し先から廊下が奥へと続いている。


「中が広くてびっくりしたんじゃなくって?」

ドアの横に座り、何やら作業をしている青髪の小柄なおばさんに話しかけられた。

びっくりして固まる僕らのことは気にもせず続ける。

「アンナ姉様から何も聞いてないのかしら?」

「こらこら、あんまり話し続けるんじゃないよ!まったく。あとで夕食をとりながら聞けばいいだろ!」


そそくさと部屋に案内される。階段や廊下の壁には先祖と思しき人物の絵や古文書のようなもの、地図や昔のレイストの絵などが飾ってあった。天井には昔の魔法使いだろうか。碧銀の元素をまとって、杖を振るう老人の姿が描かれていた。

通された部屋は建物の入り口と同じように、ドアの見かけ以上に奥行きは広く、二人で悠々と過ごせそうだった。レモンとハッカを混ぜたような香りが充満している。

猫足のテーブルにピンクのベッド。反対側には深い紺のベッドに金のししゅうがほどこされたコの字のソファーがあった。天井や壁には伝承や伝説がたくさん描かれていた。


マーサは部屋中をいそいそと回り、はしゃぎながら、「かわいいー。すごく広いね!はじめてきたのに、なんだか懐かしい匂いもする。」とすごくリラックスしている。

「ほんとだね。外から見た感じとずいぶん違うね。」

僕たちは荷物を下ろし、一息ついた。


リラックスタイムを満喫した頃、「二人ともー!夕飯にするから、降りてといでー!」と、部屋中にドレさんの声が響き渡った。声が部屋のあちらこちらから聞こえてくる。周りに音声を大きくさせるようなものは見当たらなかった。一体、どこから聞こえてきているんだ?



リビングに入る前から食欲をそそる良いにおいがしてきた。

「美味しそうなにおいがしてるね!」

「雨肉だったら嬉しいなー。」

「あれ美味しいよね、フライドポワレも食べたいなぁ。」

小さめのドアを通ると、広々とした食堂に出た。他の客はいないようで、僕とマーサとおばさんたち三人だった。


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