第36話 雨宿りの森
僕たちは少し休んでから、もう一度、作戦会議を開いた。
「明日からどんな感じで進もうか?」
「うーん、ママからは意外と最短距離が安全だよって、聞いたけど。」
地図を拡大して、雨宿りの森を詳しく眺める。
「結構危なそうな森だね。マーサはこの辺りの元素はどんな感じ?扱えそうな元素ある?」
「うん、ドランドよりは土が少なくて、雨や緑が多いから、全く困らないよ。ソラは?」
「雷が全くないから少し不安かな。まぁ、光があるから、なんとかなると思うけど。」
雨が降っているのに、雷の元素が全くないなんて信じられない。
「元素の偏りがひどいよねぇ。雨が多いのは嬉しいけどぉ。」
「ピートちゃんも、頼りにしてるね!」
まぶたが重たい。さすがに今日は疲れたな。
「じゃあ、そろそろ寝ようか。」
おやすみ、と僕たちは口々に言ってノソノソと布団に入る。布団から左手を出して、ドア近くの明かりを掴む。一瞬で夜が来た。
布団に吸い込まれるとは、まさにこのことだ。生きてる今に感謝。
「………ちょっと待って!ソラ!もう一度、灯りつけて!」
身体がびくつく。僕は左手を開いて、灯りに光を戻した。
「どうしたの?」
「どうしたの、って言いたいのは、こっちよ!今、何したの?」
「光を消して、つけただけだよ?」
「どーやるの?」
…あぁ、だめだ。キラキラした瞳でこちらを見てくる。
しばらく寝れなさそう。でもものすごく眠たいんだよな。なんとかごまかせないものかな…無理か。仕方ない、きちんと説明しよう。
「どうって…光の元素を引き寄せて、元の場所に置いたんだ。」
マーサは部屋中をまじまじと見ている。
「うーん、どの元素だろう。私には合わないのかな。全く感じないよ。」
「そこら中にあるにはあるんだけど。」
そういえば、光の元素は特殊な元素だ、って父さんか母さんが言ってたような。ってことは…。
「マーサも光の国に行ったら、感じられるようになるかもしれないね。」
「そっか!なんだか光の国に行くのが。ますます楽しみになってきたよ。」
意外とすんなり納得してくれた。良かった。
もう一度、灯りを落とす。
光の国…。もう一度、くちびるを動かしてみる。不思議だ。口を動かすだけで、なんだか少しだけ身近に感じた。
僕は、「光の国へかえる」、そう三度、無音でつぶやいて、眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
太陽が昇る前に、僕たちは宿を発った。
雨宿りの森に近づくにつれて、小ぬか雨は霧雨、小雨となり、絶えず湿気と植物とが混ざった匂いが漂っている。
「ねぇ、ソラ。なんだかじっとりしてない?」
言われてみれば少し湿度が高い気もする。
「そう?どうなんだろ、よくわかんないけど。」
「ずっと砂漠の中で育ってきたからかな。水気が多すぎて、ちょっと気持ち悪いよ。」
マーサは目には見えないH2Oと格闘している。
「全然違う?」
「全然違うよー!あっ、閃いた!」
マーサは手のひらを地面に向けると、何かを引っ張るように空へと腕を上げる。
「マーサってば、やるねぇ。ソラも見習ったほうがいいよぉ。」
全くわからない。何が起きてるんだろう。
僕の顔を察したピートは「感知ぃ。」と一言つぶやいた。
あれ?
常に感知しているつもりだったのに…気が付かないうちに途切れてしまっていた。
なるほど、砂を逃がす要領で、水を逃したんだ。マーサってば発想もそうだけど、緻密な元素コントロールがほんとに上手だな。
◇ ◇ ◇
森の入り口に着く頃には風も出てきて、気がつけば、びしょ濡れになっていた。頭の奥がぐぐぅっと痛み、歯がカチカチと鳴った。
「あそこ!あそこまで行けば大丈夫だよ!走ろう!」
ぎゅっと身を縮めたマーサが指さす方向に一際、大きな葉をつけた木々があった。分厚い横広ギザギザ葉が幹の周りを覆っているのが見える。
近づくにつれてマーサの言葉の意味がよくわかってきた。放熱されているのか、寒さを吸収しているのか、なんだかよくわからないが、この木々の周辺だけは全く寒くなかった。
マーサによるとハダケオオキという植物だそうで、砂漠にも小さいものはあったらしい。
「ピート、ちょっと乾かしてよ。」
「仕方ないなぁ。二人ともこっちに来てぇ。」
ピートが一吹きすると、頭痛も歯鳴りもすっかり消え去った。マーサはぐーんと腕を天に伸ばしている。
少し腰を下ろして、地図を確認する。どうやら、雨宿りの森を抜ける主な街道は三つあるようだった。
「えーっと、今いるのはここだよね。」
「いやー、どこなんだろ?実は方向音痴だから、地図ってあんまり得意じゃないんだよね。」
マーサは大きくかぶりをふっている。
「ピート、北ってどっち?」
「北はねぇ…」
ピートはチラリと空を見上げると、向こうの方に少し大きめの水玉をとばしてくれた。あっちね。
「ありがと、ピート。ということは今いるところは、大体ここか。」
「ピートちゃん、すごいね!」
「でしょぉ。」
森は全体的に薄暗く、目を凝らしても奥の方はおろか、少しの先も見えなかった。軽く光を投げて、奥まで照らしてみる。さしあたり近くに危険はなさそうだ。向こうが北だとしたら、今いる場所は…もう少しこっち。この辺かな。




