第31話 三人旅
「2人とも、ありがとよ!しっかし…とんでもねぇな。」
そう言って、頭をぽりぽりかきながら、目を丸くしてこちらを見ている。よくわからないが、お役に立てたならよかった。
「ありがとう。ソラくん、ピートちゃん。あなたたちがいなければ、こんなに美しいブレスレットはできなかったわ。」
物に力を込めるということがここまでとは。肩から背中にかけて、けだるさがのっかっている。腕がすんなりあがらない。全身、かなりの脱力感に見舞われていた。
…これが父さんの言っていた元素結合ってやつなのかな。モノを強化したり、形を変えたりできるんだって話はよく聞かされてたっけ。
マーサがブレスレットに触れると、ブレスレットは拡大しながらフワフワと浮き、マーサの左腕に合わせて、すっぽりとおさまった。
「準備万端って、やつだな。」
ロッツさんは僕とマーサの頭にポフっと手を置いて、髪の毛をわしゃっとした。
「もぉ、パパやめてよ。」
「ロッツ、嫌われるわよ。」
何気ない笑い声に包まれる。信じ合える仲間とこれからも一緒に過ごすことができるなんて、嬉しい限りだ。おかげさまで、安心して旅立つことができる。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、マーサ、ソラくん、元気でな!時々、手紙でも送ってくれい。」
何やら二人は仕事があるらしく、日が昇る前に街を出るということだった。
「レイストは寒いわよ。くれぐれも暖かくして行きなさいね。」
「うん。ママもパパも元気にしてね。」
「街の北側にママの実家があるわ。クレイという店を探しなさい。今も妹たちが住んでるの。宿屋を営んでいるから、泊めてもらうといいわ。」
「でもよ、大丈夫かい。二人だけ行かせて。」
ロッツさんは横で眉をひそめている。
「そうね…あやしいかも。家に着いたらホゴイロツバメを送って、細かい事情を伝えておくわね。…ロッツ!あれ、渡して!」
「おぉっと、忘れるところだったぜ!」
そう言って小さな正八面体のサイコロをいくつか投げてよこした。
「これは、なぁに?」
マーサも見たことがないものらしい。
「コレクトダイスといって、サイズに関係なく、いろいろなものを収納できる代物なの。ドロップギフトを入れるのには最適よ。」
また会った時、気恥ずかしくならないためなのか、それとも旅する民の風習なのか、2人とも笑顔で手短に別れを告げて去っていった。
僕たちは後ろ影が見えなくなるまで見送った。
マーサは空を仰ぎ、フゥーッと息を吐くと、真っ直ぐこちらを見た。
◇ ◇ ◇
街に戻り、レイストまでの道を調べてみる。すると、商人の一団から、ドランドとレイストを結ぶ定期船が欠便していると漏れ聞こえてきた。なんでも、二つの都市の境にある「隔ての川」が激しい毒風にさらされているらしい。
とはいえ、特に当てもないので、とりあえず船着場の近くに行って情報を集めることにした。
船着場へは街を出て、ドライ草原を東に向かうルートが最短だった。
枯れた草地が一面続いている。近づくにつれ、硫黄のような悪臭がひどくなってきた。鼻の奥が、えもいわれぬ刺激に襲われた。遠目に見ても、川の色は一面どどめ色をしている。
「これ以上は規制されてて進めないね。」
「そうね…あっ、あそこにいるのって船頭さんじゃない?」
そう言って、マーサは駆けていく。
いまだに再開の目処はたってないらしい。僕らが途方に暮れている様子を見かねたのか、
「なんとかして雨壁をこえて向こう岸まで渡してやりたいけども…しばらくは難しいでなぁ。どうしても急いどるというのなら旧地下道から行くにはいけねぇこともねぇけれど…」と、地下道までの行き方を教えてくれた。
僕たちは船着場を後にして、早速、旧地下道へと歩を進めていく。吹き抜ける風が肌寒い。いつの間にか太陽は雲の彼方へいってしまったらしい。
「ねぇマーサ、雨壁って何?」
「隔ての川のことよ。昔はそう呼んだみたい。途中、雨が壁みたいに降ってるんだって。ママとパパもそう呼んでたわ。
「どうやって、その壁を突破するんだろう。」
「詳しくはよくわからないけれど、なんでも特殊な船でないと通れないんだって。」
そんな強力な雨に加えて毒まで広がれば、そりゃ、通れないよな。欠航するわけだ。
地下道の前に着くと、寂れた長屋があり、三、四組の冒険者らしき人たちが、めいめいに旅支度をしていた。
マーサは特に気にもしていなかったが、地下道から流れ出てくる濃い土の元素に僕は息が詰まりそうだった。
長屋の壁には無数のメッセージが書き込まれている。無事を祈る言葉、達成した喜び、弔いなど。
とりあえず奥の方に誰もいないスペースを見つけたので、そこで支度を整えることにした。
もう一度、船頭の言葉を思い出してみる。川幅は十キロメートルほどあり、中の洞窟は複雑に枝分かれしている。目印となるものは、あちらこちらにあるものの、たいしてあてにはならない。
準備を終えた旅人から順番に地下道へ向かっていき、とうとう僕たちだけになってしまった。




