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第3話 仲間


「やったネ。」

「楽勝だったわね。」

三人一緒にハイタッチを交わす。みな一様に泥だらけ。まだ整わない呼吸と汗まみれの顔が僕たちの現在地を示していた。

「体、残るタイプみたいだネ。」

「どうやって持って帰る?」

「…そうだなぁ。どうしよう。」

「ちゃんと後のことまで考えておきなさいよ。じゃあ、ソラがアームドで引っ張って、わたしとゲインで通り道でも作ろうか。」

「とんでもなイ。下がっていてくださイ。お嬢様に運ばすだなんテ。下々の民がやりますヨ。」

「そんだけふざけられるなら、まだ何発かもらっても大丈夫そうね。」

ばたばたと走り回る二人を見てると、自然と疲れも吹き飛んでいった。結局、原始的だけどユンナの言ったことが一番楽で、早そうだということで、引っ張って帰ることにした。僕は電気と光の元素を組み合わせて簡単なロープを作った。二人は結界を上手に組み合わせて、道を整えてくれた。湖の主の体に特製のロープをぐるぐると巻きつける。

「もしかして、アームド拡がった?」

「そう?」

あんまり自覚ないんだけど。そうなのかな。

ゲインがまじまじとアームドを眺める。

「うん、拡がったよネ。何度見ても不思議な技術だヨ。思った通りの形になるんだっケ?」

「まだ完璧じゃないけど、ある程度はね。」

「何より、色が綺麗なのよね。透き通るような紫。それでいて深みのある。ほんっと、ソラにはもったいない。」

「ありがたき幸せ、お褒めに預かり光栄です、お姫様。」

「あんたまで…ぶっとばすわよ?」

「お嬢が言ったら、笑えないヨ。」

僕たちの笑い声がこだましていく。まだ、ユンナのバフが残っていたのか、思いの外、すんなりと引くことができた。



 ◇ ◇ ◇



結界を出て、村へとすすんでいく。森の生き物たちは引きずられるアレリグロスを物珍しそうにみている。と、奥の方に薄橙の炎がちらちらと見えた。

「うーン…おかしいナ。」

ゲインがぽつりとつぶやいた。遠くの方から坊ちゃーん、と叫ぶキツネビトたちの声が聞こえてきた。

「ゲイン、お迎えよ。」

そう言ってユンナはニヤリと笑った。

「ゲイン、今日は一体何をしたんだ?」

「館を結界で覆っただけだヨ。3重にネ。」

「覆いすぎだろ。」

「…にしては、わりと頑張ってるんじゃない?」

「そうなのか?」

「ソラはあまり感じないでしょうけど、結界を破るのって、意外と大変なのよ。」

「そうなんだ。」

「…うン。思ってたより早かったヨ。嫌だなァ。あの屋敷、窮屈なんだヨ。」

「言ってやるな。子守りする身にもなれ。」

「そうよ。あんた一応、跡取りなんだからね。久しぶりにキツネビトから色炎使いが出たんだって、うちのパパでさえ大騒ぎしてたんだから。」

「ユンナがいるじゃないカ。何も僕でなくたっテ。」

「わたしには別の役があるのよ。ってかそもそもキツネビトの一族でもないしね。」

「えっ、そうだったノ。」

「ツキガミ族はキツネビトとは似て非なるものよ。源流が違うでしょ。」

「そうなの?僕も知らなかったよ。」

「あんたたち、ちょっとはまともに学びなさいよ。ってもわたしも知ったの最近だけど。」

その後、仰々しいキツネビトのSPに囲まれながら村に戻る羽目になったことは言うまでもない。



 ◇ ◇ ◇



カラァン、

 カラァン、

  カラァン、

   カラァン、

    カラァン。


村に着くとたくさんの人たちが出迎えてくれた。湿り気のある熱気が僕の両肩にのしかかってくる。

「ありがとな、ソラ。これで安心して湖に行けるよ。」

色んな人たちにお礼を言われる。なんだかむず痒くって落ち着かない。役に立てたのは嬉しいが、いよいよ旅立ちが現実のものになるのだと思うと、素直に喜べないでいる自分に気がついた。顔を上げると、暖かい村人たちのいっとう奥で、のっそりと手を振っている父さんを見つけることができた。

「あとで、星降りの丘で集まろう。」

そう言って、僕たちは一旦別れた。



 ◇ ◇ ◇



三人で寝転んで話すのは、いつ以来だろう。それぞれが、それぞれの修行に明け暮れるようになってからは、ほとんど集まった記憶がない。

「二年ぶりくらいだネ。」

「あら、そんなになるかしら。毎日、顔を突き合わすから実感ないんだけど。」

「家は近いからね。でも、みんなでゆっくり集まるのなんて、本当に久しぶりだよ。」

「…。」

「あれっ?ピーちゃんは?」

「父さんの手伝いがあるとか何とか言ってたよ。」

「だから、湖にもいなかったんだネ。」

「…。」

「レクサったら黙り込んで、どうしたのよ。感傷にでもひたってるの?」

「…。二年四ヶ月と三日ぶりだ。」

「さすがだな!すごい記憶力!」

僕は思わず拍手した。

「そコ?ロボ族は細かいナ。いちいち計算しなくていいんだヨ。」

「ロボ族ではない。キカイ科コスモ族だ。」

「どっちでもいいヨ。」

「ふふふ。相変わらずね。レクサは。」

「褒めているのか?けなしているのか?」

「ユンナが褒めるわけないヨ。」

「…表情をスキャンしたところ…。」

「そんなもんいちいちスキャンしなくても。愛を込めて、こばかにしてるんだよ。」

「スキャン結果……小馬鹿。ソラ、すごい。」

「言った通りだろ。」

「…ユンナ、あんまり意地悪言うとシワが増える。」

「あわわワそんなこと言ったラ、木っ端微塵にされちゃうヨ。」

「…あんたたち、まとめてスクラップにするわよ。」

「ははっ。やっぽお姫様はこわいねぇ。」

「だネ。ってかレクサにそのワードは禁句だヨ。」

「実現可能率…99,99%。意思希望率…100%。危険回避モードに移行。」

「おっ、出た!レクサの丸いやつ。ゲインもそろそろ炎に戻った方がいいんじゃないのか。」

「もう戻ってるヨ。いつまでも無防備に寝転んでるのはソラだけだヨ。」

ぎゃーぎゃーと騒いでは笑い合う。落ち着かないけど、穏やかな時間。あっという間に辺りは暗くなり始めた。


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