第27話 謎解き
そういえば、この巾着から色々なものが出てきてたっけ。どういう理屈かは全くわからないけれど、大小様々な道具を出しては、「さぁ、ソラ。父さんの真似ができるかな?」って。
決まってそう言ってたな。穏やかな父さんの顔が思い出される。
真っ暗闇の中、本だけを照らして読んでくれたこと。本をフワフワと浮かしていたこと。ついさっきまで手元に持っていたリンゴが机の上に瞬間移動していたこと。
思い返すと手品のような本物をたくさん見せてくれてた。きっと全てに元素が関わってる。
どれからでもいい。父さんのやってたことを少しでも試してみよう。やらないよりも、迷っているよりも、今より少しでも成長できる。今より少しでも前に進むことができる。
目を閉じて意識を外に。久しぶりにゆったりと元素と向き合う。今、空間にたくさんあるのは…水と土。僕が得意な光と雷もある。
電球の方へ手を伸ばして、両手で部屋の灯りを自分の方へ引き寄せた。部屋は暗がりに包まれたが、肘から先は光の元素に覆われて、白く光っている。巾着がそれに呼応するように発光する。
光の元素を巾着に込めると、中から古ぼけたノートが一冊出てきた。宙に浮いたノートと巾着は元素でつながり、巾着からノートへ元素が流れていっているように見える。
何だろう…もしかして、元素を欲しているのかな。ノートを手に取り、まじまじと眺めてみる。
とりあえず、やってみるか。
肘から手首へ、手首から手のひらへ、手のひらから指先へ意識を集中していき、集めた光を本に移していく。ノートは光を纏い、輝きはじめた。明らかに光の元素に反応している。
…パチィン…。
うまくいったと思ったら、光が弾けて消えてしまった。元素の維持がこんなにも難しいなんて。
一定の量を一定の場所に存在させる。簡単な理屈だけど、かなり神経を削られる。当たり前のことを当たり前にすることは、大変だな。
何度か試してみたけど、なかなかうまく光を留めることができない。よくキャンプのときに父さんが簡単そうにやっていたけれど、こんなにも繊細な作業だったんだ。
目の前がチカチカしてくる。だめだ、元素を扱いすぎた。手は震えてくるし、めまいもはじまった。
「ソラァ。明日からしばらく動けなくなるよぉ。」とピートがつぶやいた。
元素疲れになったら、元も子もないか。明日、またやろう。
◇ ◇ ◇
次の日も、またその次の日も、時間が空けば、同じことを繰り返した。
何度やっても元素の微妙な扱い加減は本当に難しい。同じところでいつも止まる。
だめだ。一旦ノートを枕元に置いた。
元素の扱いができないわけではないよな。
球、三角錐、四角柱、正八面体…手のひらに元素を集めて、いろいろな形にしてみる。それを順に宙へと浮かしていく。
うん、完璧とは言えないが、形成も維持も、できてる。
「できるまでやれば、できるよねぇ。」
ピートは僕の作った立体を的に見立てて、遊びながら、そう言った。
そう、ピートの言う通り、できるまでやるのが努力だ。でも…。でも、何かが足りない。形を作ったり、照らしたりすることとは根本的に違うこと。それに気が付かなければ、ずっとこのままのような気がする。元素をうまく扱うには…何が必要なんだろう…。
……あっ…。
「ソラ。本来、元素ってのは自由なものなんだよ。くれぐれも元素の流れに逆わない。人とも元素とも仲良くな。」
流れ…か。あんまり気にしたことはなかったけど、細かに、それでいて全体を見た方がいいのかもしれない…。
そんなことを考えていると、ふと、マーサが空間を作っていたことが頭をよぎる。
お昼ご飯のたびに、マーサは居場所を作ってくれていた。多分、元素を集めて、形を変えて、具現化して、留めていたんだ。
やってみよう。幸い部屋は朝日で満ちている。窓に手を向けて、少しだけ自分の方へ光を寄せてみる。手元に集中しつつ、周囲の流れにも気を配る。
多くの光が僕に向かってきている中、いくつかの元素は僕への流れに反して、外へ外へ向かっていた。
こんな風に元素が流れていたなんて、全く気がつかなかった。何気なく集めて使ってたけれど、もしかして元素には意思でもあるのかな。
逃げていく光にも気を配り、全体が大きな流れとなるよう、光の元素に「お願い」して、引き寄せてみた。お願いのおかげかはわからないけれど、確かに全体が大きな流れになって、こちらへ向かってきている。
これだ。まるで天の川を自分で動かしているかのような調和。この流れを全て、このノートに留めることができれば、あるいは…。
天の川をノートに直接まとわせてみる。光がどんどん、どんどん移っていく。点で見るのではなくて、線で。全体を見ながら、個も見る。ノートはどんどん光を吸収していく。
それと同時に、このままでいなきゃいけない、と強く感じた。
ノートに光を留めだしてから、どれくらい経っただろう。全身汗まみれで、指先が痺れてきた。呼吸はずいぶん前から整わない。かなりの時間が流れていることは確かだろうけど。疲労もたまり、だんだんと限界が近づいてくる。じわじわと痺れは広がり、手元の感覚がなくなっていく。肩から首筋まで痺れがきたところで、ようやくノートを覆う光が徐々に小さくなってきた。
もう少し…なのか。ここまで来たら、倒れられない。丹田に力を入れて、残っている力を限界まで呼び起こす。とうとうノートは自らの発光をやめた。
ノートを光で満たせたのか…。
いけない。維持できない。ただただ迫り来る疲労と達成感に挟まれて、意識を失い、ベッドに倒れ込んでしまった。
バシャッ!!
「おはよぉ。」
顔いっぱいに水をかけられる。窓を見ると、太陽は西に傾き、机の上にはスープと豆が置かれていた。
ノートを見ると、古ぼけた表紙に文字が浮かび上がっている。右下に父さんの名前が、裏表紙には母さんや兄さん、僕、ピートの名前が刻まれていた。ハラリと表紙をめくると僕宛てのメッセージがあった。




