第24話 徴収と清算
どれくらい経ったのだろう。
「もういいよぉ。」というピートの声までの間、果てしなく長く感じた。
「徴収と清算?」
「みたいだねぇ。多分、気づかれてはない思うけどぉ。」
「血禊って相変わらず、よくわからない原理だよな。」
僕とピートとの会話を、マーサがまじまじと聞いている。今すぐにでも詳しい説明を求めてきそうな目をしている。
「父さんが言うには血禊っていうのは、とても強固で変更のきかない契約みたいなものなんだって。」
「それって、結んで、何か得することあるの?」
「得られる力が爆発的なんだよぉ。想像を軽く超えてくるほどにぃ。」
ピートはあたりをキョロキョロしている。
「徴収と清算って何なの?」
「んー、約束が守られていない場合に、埋め合わせるってことかな?ピート、合ってる??」
「簡単に言うとねぇ。」
と、突然、タンスが縦横左右にうねうねっと歪みはじめた。うねりは大きくなったかと思うと、次第に小さくなり、やがて元に戻った。
「解除、かなぁ。良かったねぇ。」とピートは言って、ティバールの方を見た。
と同時にタンスの底から様々な声や振動がやってくる。
タンスの中から白いふわふわの耳が現れた時、ティバールはわぁっと崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇
〜数日後〜
まだ手を振っている。ずらっと並んだ兎たちは一歩も動こうとしない。
さよならしてから、ずいぶん経つのに、ほんと律儀だな。でも、もうすぐ見えなくなる。僕たちも精一杯両手をあげて、声を出した。
「ねぇ、ソラ。」
「なに?」
「わたしね、少しはこの町が好きになれそう。」
手を振る横顔は軽やかで、すごく涼しげだった。
角を曲がると看板の下に見覚えのある立ち姿が見えた。
「あっ、パパだ!」
「ロッツさん!」
僕たちは暑さも忘れて小さく駆け出した。風に舞った砂が肌にぺたついてくる。
「よしっ、みんなで帰ろうじゃねぇか!」
ん?????
あらぬ方向から声がする。僕が立ち止まって、きょろきょろしていると、「秘技、砂分身」といって後ろからケラケラと笑うロッツさんにパシッと背中を叩かれた。してやったり、と顔にかいてある。
「迎えにきてくれたのに、ややこしいことしないでよ。」
マーサは上がった目尻でロッツさんをじっと見ている。
「わりぃ、わりぃ。いやぁ、ソラくんの驚く顔が見てぇと思ってよ。」
驚くも何も、ただただ困惑したよ…悔しいな。これからは常に感知しとこう。
「ピートくんは、はなっから気づいていたみてぇだったけどな。」
「えっ、そうなの?」
「だってぇ、どう見ても中身が違ったからぁ。」
…元素感知、苦手なままなんだよな。つい気を抜いたら、忘れてしまう。そんなことを考えていると、懐かしい感触が背中によみがえってきた。
バシッ!
「相変わらず隙だらけだな。」
兄さんに背中を強く叩かれる。そこまで痛くはないけど、全く気取れないから、心底驚く。
「だって、後ろは見えないよ。」
「言いつけを守ってないからだ。」
「だって、忘れちゃうんだもん…。」
「忘れるなんてのは、ただの言い訳だ。」
「だってぇ…。」
「だってぇ、じゃない。人の話を聞く。それだけだ。心を向けて、きちんと刻む。そうすれば行動を変えられる。」
「でもぉ…。」
「でもぉ、じゃない。次、言い返したら、はっ倒すからな。」
今、兄さんがいたら何て言われるだろう。今度こそ、本当にはっ倒されそうだな。自然と笑みがこぼれてしまう。
と、急にフェイクロッツさんは砂になって消えてしまった。
「あぁ、もう砂になっちまったか。まぁ、目的は果たせたから、よしとするか。」
「何がいいのよ!ほんっとに、もう!」
「はははっ!まぁ、いいじゃねぇか。さっ、乗った、乗った!」
ロッツさんが指笛を鳴らすと、僕たちの目の前の砂がせりあがり、巨大なワニが現れた。砂がさぁーっと流れ落ちていく。額のところからは肉厚のサボテンが、肘や膝など主要な関節の上には様々な果実木が生えている。
「わぁっ!久しぶりっ!元気だった?」
そう言ってマーサはワニに駆け寄り、ほっぺたをすりあわせた。そして、横腹にある階段を駆け登り、愛おしそうに背中をなでた。僕は恐怖のあまり声も出ずに、立ちすくんでしまった。僕が固まっている間に、ピートはすでにワニの背中で寝転んでいる。
「乗って!この子、この辺じゃ一番速いのよ!」
僕は震える足をぎごちなく動かしてワニに登り、恐る恐る背中に座った。背中の部分にはちょうどいい具合に凹凸がついている。ソファーやテーブルのようになっていて、座り心地は最高級のもふもふだった。
「たまんねぇだろ?こいつぁな、ハイヤワニのデザートタクシー種。俺たちの戦友でスチュアートってんだ。俺のひいじいさんの頃から世話になってる。」
ほんとうに世界は広い。僕の常識なんて、ちっぽけなものだ。でも、おもしろい。知らないから、わからないから、楽しいんだ。
この国をだんだん好きになってきている自分に気づく。こうやって周り道をしながら、いつか三賢人に会えたら、最高だな。




