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第21話 兎のまと

僕は左肩から手先へとアームドを展開して、光の元素を集めていった。見張りはもちろん、誰にも気づかれないように細心の注意を払った。

「これくらいでいい?」

両手にあふれんばかりの元素を持っている。

「ありがと!」

僕は急いで雷と光を混ぜ合わせる。圧縮する際に少し放電してしまう。細かいコントロールは相変わらず難しい。ただ、派手に光らなくてホッとした。

「速いね!手品みたい!」

「そう?ありがと。」

「矢?」

「うん。」

「弓は?」

「こんな感じかな。」

腕から一体化したアームドをマーサに見せた。しなりも効いていて、我ながらいい感じだ。

「あれっ?さっきと形が全然ちがう。」

「大体イメージした形になるんだ。」

そう言いながら、僕は目を閉じて、矢の通り道をイメージする。ぐぐうと弓を引き絞る。頼む、あたってくれ。


“トリアッチ・ルーモ”(3本の光の矢)


そして、狙いを定めて、ひょうと放った。矢は空を裂いて上がっていき、美しい放物線を描いて、兎卯族の煙突に向かっていく。途中、で矢は分身し、3本の光が降り注いでいく。

元素を感知したのか、何名かが家の中から飛び出てきた。ちょうど二つの煙突の間に突き刺さったかと思うと、瞬く間にあちらこちらに伸びる雷が高台を覆っていく。二、三秒、たっぷり光り輝いていた。

「ソラ…。」

マーサの泳いだ目とぶつかる。

「やりすぎじゃない?」

「そうかも…。」

あとには、焼けこげて今にも崩れそうな煙突がぽつりと残されているようだった。想定以上の威力に僕は戸惑った。二人で恐る恐る高台に向かう。



 ◇ ◇ ◇



高台に登ると、周囲の衛兵らしき者、家から出てこようとしている者など、ほとんどの兎卯族はのびているようだった。

急にがらがらと音を立てて、家が崩れ出す。中には、一際大きな体躯を持ち、仁王立ちしている者がある。

「ものすごく大きなウサギさん…?」

驚いた様子でマーサが小さくつぶやいた。

その立ち居振る舞いは美しく、一目で長だと理解できた。長らしき者は僕たちの姿を見つけると、一歩一歩大地を揺らしながら、近くまでやってきた。額の一本傷が余計に僕たちの恐怖心をあおった。向かい合うだけで肌がぴりぴりする。マーサも小さく震えている。僕はマーサの斜め前に陣取った。

「今のはお前か?」

どすのきいた声。上から下へねめつけるような眼差し。思わず後退りしてしまいそうだ。

「そうだ。」

額から汗が噴き出てくる。だが、目をそらすわけにはいかない。戦いは避けられそうもない。そう覚悟を決めると、不思議と穏やかな気持ちになれた。僕は丹田に意識を集中しながら、にらみあった。

と、途端に巨体が視界から消えた。目線を下げると、もふもふとした白く美しい毛がうなだれていた。

「ありがとうございます!ソラの兄貴ですね?おかげで助かりました!非礼をお許しください!」

僕とマーサは何が起きているのか、全くわからなかった。眉間にしわを寄せながら、二人で首をかしげあう。

「二人とも遅かったじゃないかぁ。」

どこからともなく声がする。目の前の巨体は小刻み揺れている。

「ピートちゃん、無事だったんだね!良かった!」

目の前にうっすらとピートの姿が見えた。

「捕まってたんじゃなかったのか?」

「いやぁ、すぐに出してはくれたんだけど、あまりにジロジロ見るからさぁ。」

あー…。多分、手当たり次第にいったな。

「ピートちゃんに何したの?」

マーサはぷりぷりしている。逆だよ、逆。一足遅かったか。

「まさか盗んできたのが御龍様だなんて思いもよらず。神棚に上げて、みんなで拝んでいたんです。」

伏したまま、話し続けている。

「えっ?拝まれてたのぉ?そうだったんだぁ。ごめんねぇ。」

…やっぱり。

「拝んでただけなの?他に悪いことしてない?」

マーサが長に詰めよる。

「全く何も。」

「ちゃんと目を見て話して。」

マーサ、強いな。見てるこっちがはらはらするよ。

「では、失礼して。」

先ほどまでとはうってかわって、つぶらで穏やかな目をしている。

「御龍様の神々しき御姿、しびれるような御力。一族の者はみな心が洗われた思いです。」

「…もう悪いことしちゃダメですよ!」

マーサはまだプンスカしている。

「誓って。決して。さて、手前、兎卯族の長をやらせてもらってますティバールと申します。お詫びと言っちゃなんですが、一席設けさせてください。」

「いや、そんなの…。」

僕が断ろうとすると、ピートがニマニマしながら割り込んできた。

「ありがおとぉ。ご馳走になるよぉ。」

嬉しそうな声が響く。いやいや。焼けこげた家、倒れている兎たち。一体、この状況で何を言ってるんだ。

「ピート、それは難しいんじゃないかな…。」

「いえいえ、ご心配には及びません。では、少しお時間をば。」

ティバールは立ち上がり、大きく息を吸いこむと、「野郎ども!働け!」と一声あげた。ティバールの号令とともにほとんどの兎卯族が起き上がり、てきぱきと働きはじめた。

本来、ものづくりが得意な血族なのかして、あっという間にガラクタを片付け、新しい家を建てていく。全く惚れ惚れとする手際良さだ。ものの十五分ほどで新築の豪邸ができあがっていた。



 ◇ ◇ ◇



「どうぞ。何もない家ですが。」

何もないどころか、とんでもなく立派な空間だった。機能的で美しく、過ごしやすさと合理性が調和している。

「御龍様はこちらへ。」

一段高いところにピート専用の座所がある。

僕たちはリビングでお菓子とお茶をよばれた。少し話をしてみると、根っからの悪人たちというわけでもなさそうだった。だけに、余計に今回の騒動が不可思議に思えた。


「なんでピートを?」

いい加減に仲良くなりたかったので、面と向かって、単刀直入に聞いた。ティバールは視線を少し下に逃した。

「とても大きなエネルギーをお持ちだったので…。」

「だからって、なんで?」

マーサも不思議そうに尋ねる。

「それは…。」

そう口ごもった後、しばらく沈黙が続いた。

「頭!もしかしたら、この方たちなら…。」

ティバールの側近が静けさを破る。

「だが、巻き込むわけには…。」

「何かあったのぉ?」

ピートがイキイキしながら飛んできた。

「むぅ…。…実は…。」

ティバールは自分たちの身に起こった不幸について、途切れ途切れに話してくれた。



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