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第20話 兎卯族

「次、どこにいく?」

マーサはつとめて明るい声を出しているようだった。この町のこと、あの子たちのこと、色々と聞きたい気持ちもなくはなかったけど、なんだか忍びなくて聞くに聞けなかった。話してくれるまで、待とう。

「んー、やっぱり、近い順に回る?」

「そうしよぉー。」

「ふふふ、そうしよっか。次はね、古龍の群像だね。きっとピートちゃん、びっくりするよ!」



 ◇ ◇ ◇



古龍の群像。

目の前に広がる光景に僕は驚きを隠せなかった。龍の形に彫られた岩が何体も並び立っていた。大小様々、何種類もの龍がひとかたまりになって海に向かっている。大きなものだと、僕たちのいる崖よりもまだ上に頭があった。


「地の国興しの伝説があってね。この龍たちが海の中から、地面を引っ張り上げたんですって。この国は龍と縁深くて、他にも龍にまつわる伝承はたくさんあるんだよ。」

マーサの瞳がきらきらと光る。ピートは崖の淵から、じっと群像を眺めていた。

「すごい…。」

壮観過ぎて、その後の言葉が出てこなかった。

「ピートちゃんの親戚もいるかもしれないね。」

マーサがピートに笑いかける。

「ほんと…そうだよねぇ。」

ピートは海に向かってつぶやいた。

よく見ると、岩はそれぞれ色合いや岩層が異なっていた。それに光が反射すると、海岸全体がなんとも言い難い雰囲気に包まれていた。

龍の足元は原生林に覆われている。その深緑は辺り一帯を飲み込んでいた。

「ねぇ、マーサ。ここには、さっきみたいな階段ある?」

「いや、なかったんじゃないかな。ちょっと待ってね。」

そう言ってマーサは地面に両手をついた。

「うん。やっぱりここから降りれる階段はないよ。」

「そっか。でも、なんだかこの下がすごく気になるんだよけど。」

「元素に呼ばれてる?」

「うーん…っていうか…。」

「…飲み込まれそうだよねぇ。」

ピートと目が合う。どうやら同じことを感じたらしい。

「不気味なことには違いないよね。」

マーサも深くうなずいた。

何かにじっと見られている。張り付くような視線に嫌気がさしてきた。観光もほどほどに、そそくさと三人で黄泉がえり沼に向かう。地図を見ても、入り口はそこまで離れていない。



 ◇ ◇ ◇



黄泉がえり沼の入り口はかなりごった返していた。この国に来てから、はじめて人に囲まれている。人混みにいるにも関わらず、見張られている感が消えない。

「はぐれないようにしようね。」とマーサが確認してくれたのも束の間、後ろから激しくぶつかられて僕たちは転んでしまった。

「大丈夫?」

「うん。ありがと。ソラは?」

「僕も大丈夫だよ。」

あれっ?いない!

さっきまで近くにいたピートの姿が見えない。とっさに元素感知を拡げてみる。

ずいぶん離れたところで反応があった。

「あっ!あれ!ピートちゃん!」

僕の感知と同じタイミングで、マーサもピートを見つけてくれた。どうやら先ほどぶつかってきた二人組が袋に入れて連れ去って行ったらしい。二人組の片方が振り返る。ちらりと目が合った。

「ピート!」

僕の声が聞こえたのか、二人組は高く跳ね上がって、人混みを抜けていく。僕とマーサは必死で追った。しかし、かきわけても、かきわけても人の波に足を止められてしまう。やがて二人を見失ってしまった。

「あの跳び方は兎卯族ね…。ソラ。どうする?」

「なんとしてでも見つけるよ。付き合ってくれない?」

「もちろんだよ!」


僕たちは痕跡を丁寧にたどりながら、ようやくそれらしい場所までやってきた。

「あそこじゃない?」

マーサが木の影からすこし身を乗り出して言った。

「だね。」

ピートの反応がある。あそこで、間違いない。兎卯族とやらのすみかだ。

そりたつ壁を登った高台に大きな家があった。明らかにうさぎの耳を模した煙突が突き出ている。自分たちの縄張りはここだ、と言わんばかりに威圧感を放っている。壁のところどころには罠が仕掛けてあり、見張りの姿も見えた。

「どうする?」

マーサが不安そうに僕に言った。

「とりあえず逆感知されたら面倒だから、少し離れよう。」

「どこまで戻る?」

「少し戻った海岸沿いに身を隠せそうな林があったよね?」

「高台の次に見晴らしのいいところね。そこまで戻る?」

「うん。そーっとね。目視でも気づかれないように移動しよう。」

「急ごう、ピートちゃん、心配だしね。」

いや、違うんだよ、マーサ。ピートより兎卯族のみんなが心配なんだ。

それにしても、マーサって元素に隠れるのが抜群にうまいな。



 ◇ ◇ ◇



「着いたね。どうする?」

マーサは林に背中をつけながら、スパイさながらに言った。

「友達をさらうなんて、雷を落とさなきゃだよ。」

「そうだよね。そりゃ、怒るのも当然だよ。」

まじまじと同意される。

「いや…。」

「わかるよ。」

「あの…。」

「わたしも同じだもん。」

力強く何度もうなずいている。

「…そうじゃなくって。言葉通り、あの家に雷を落とそうかな、と。」

「えっ!そんなことできるの?」

声が大きいよ。僕はそっと口元に人さし指を持っていく。マーサはこくんとうなずいた。

「マーサと一緒にやれば、ね。手伝ってくれない?」

僕は雷の元素を二つ三つ集めるとマーサに見せた。

「もちろん!雷の元素を集めるの?」

「両手にいっぱいくらい。」

「おっけー!」

「ありがとう。」



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