表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/55

第19話 文字結界

 「ねぇ、ゲイン。これって結界?」

  「…だネ。相当古いものだヨ。」

  「僕たちで破れたりしないかな?」

  「どうかナ。」

  円い形をした石っぽいものがいくつも宙に浮かんでいる。ゲインはそれぞれを凝視しながら頭をひねっている。

  「たたいたら、壊せるかな?」

  「壊せたら、結界の意味ないよネ。それにこれ、文字結界だヨ。」

  「文字結界?」

  「簡単に言えば、なぞなぞみたいなものだヨ。」

  「なぞなぞ?」

  ゲインはうなずきながら、石に刻まれた模様を指さした。

  「結界を張るときに、解くためのヒントを外から見える形で残すんだヨ。」

  「わざわざ?」

  「外から破れる状態にする方が、かえって破りにくくなるんだってサ。」

  「解けたら破れる?」

  「解くだけだと難しいかナ。条件は一つとは限らないしネ。」

  「結界っていっても、色々あるんだな。」

  「そうだネ。でも、『結界の彩りは本質。想いに応えよ。』って、じいちゃんもよく言ってたシ。解けないものでもないんだヨ。」

  「じゃあ、解けるまでやれば、解けるな。」

  「とはいえ、むやみに触れたらだめだ、とも言ってたヨ。結界の周りには絶対に守護者を配置するってサ。」



ゲインの警告はそうそう外れない。

「とりあえず今日は引き返そう。」

「せっかくここまできたのに?」

「何の準備もしてないし。結界内にむやみに進んでも良いことないからさ。それに、何より…。」

「そろそろだよぉー。帰った方がいいかもねぇ。」

そそくさとピートは後退りをはじめる。

「えっ!何?何?草木が勝手に動いてる?」

「やっぱり、守護者だ。早く戻ろう!」

僕たち3人は慌ててきた道を引き返す。でも、不思議と怖くなかった。僕たちはケラケラと笑いながら崖の階段まで、一息に駆け抜けて行った。



階段を登り終えたところで三人組の女の子に声をかけられた。マーサのほおがひきつる。むくれたピートと目が合った。さっきから感じていた悪意はこいつらだったんだな。

「あら、これはこれは。神様からの使い様じゃない。」

「……。」

「本当、マートルの言う通り。相変わらずのご尊顔だこと。」

マーサの目が小さく震えている。

「あんまり関わっちゃだめだよ。神様なんだから。あたしたち下々の民には畏れ多いんだから。」

チロチロと先又の舌を出しては、クスクスと笑い合っている。ぎょろっとした目が僕たちを捉えて離さない。マーサはぎゅっと拳を固めて、唇を少し噛んでいる。

「あなた、だぁれ?マーサ様と行動するなんて。」

「ほら、こっちに来なさいよ。うつるわよ。神様の空気が。」

真ん中に立つ水玉模様の蛇女が吐き捨てるように言った。毒々しい柄だな。隣の二人も手招きしながら、目をギョロギョロとさせている。

「きゃぁー、かわいい、あの龍。」

「ほんとね!あなたたち早くこっちに来なさいよ。」

「私たちが案内してあげる、わっ!」

ヒュッと風を切って小石がいくつか飛んできた。明らかにマーサめがけて弾き飛ばしている。尻尾癖の悪いやつらだ。何だ、こいつら。マーサが顔をかばう。僕もとっさに光の元素で壁を作った。

と、マーサに向かってきていた小石が全て空中で消えてしまった。

「えっ、何?」

「消えたわよ。」

などとひそひそと話している。

「また、昔みたいに遊びましょうよ。」

挑発的な笑顔でこちらを見つめてくる。初対面だけど、もうすでに嫌いだ。ピートが耳元でささやく。

「やっちゃっていい?」

僕はコクリとうなずいて、「ほどほどにね。」と伝えた。



よほどカチンと来たのか、ピートがニコッと笑って、さらに耳打ちしてくる。

「ほどほどじゃなくて、あいつら、還してもいぃ?」

「だめだよ。絶対だめ。マーサの知り合いなんだから。」

マーサの世界。僕たちがしゃしゃりでるわけには、まだいかない。マーサはじっと固まっている。こんな顔ははじめて見た。なんだか無性に腹が立ってきた。

「マーサ…。」

僕はマーサの手を取り、歩き始めた。だめだ、やっぱり待てないや。

「あんたたち、なに無視してんのよ。」

「何とか言いなさいよ!」

横の二人が大きめの石を弾き飛ばそうとする。それを見るなり、ピートは霧状になり僕たちをくるんでくれた。


“トラヴィディブラ”(透過壁)


それと同時に僕は雷の元素を脚に取り込み、強く地面を蹴った。一足で三人を置き去りにし、崖から遠ざかった。後ろの方で怒号と悲鳴が飛び交っている。

「今の何?体が嘘みたいに軽くて、びっくりするくらい早く動いちゃった!」

「雷の力を借りたんだ。僕の手を通じて、マーサにも帯電された。身体機能を上げるバフみたいなもんかな。」

っても、こんなに速く動けたっけ…?

「ピートちゃんは?」

「僕たちを隠してくれてるよ。」

「どういうこと?」

「僕たち今、透明だから周りから見えてないんだ。元素感知されたら、もちろん見つかっちゃうけど。」

「元素感知…?」

「後で教えるよ!ピート、ありがとう。もう大丈夫だよ。」

「おっけぇー。」

ピートがもとの姿に戻り、ふわふわと飛びはじめた。視線が合わない…やってんなぁ。

「ピート…。」

「な、なにも、して、してないよぉー。」

「嘘つくの下手すぎだろ。」

「ちょーっとだけ、女蛇族の子たちの水分を奪っただけだよぉ。」

絶対ちょっとじゃないな。思いっきりいってるはず。変温する種族っぽかったから、結構なダメージだとは思うけど、まぁ、あいつらが悪いから、いっか。

「んー、でも、還さなかったんだし。ピートにしては耐えたかな。えらい、えらい。」

「でしょぉ。」

ピートはニコニコしながら、マーサの腕にまとわりついた。

「ピートちゃんも、ソラもありがとう。」

ピートはマーサになでられて、目を細めている。マーサは先ほどまでの緊張が解けたかのように息をふぅーっと吐いた。何かあったんだろうな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ