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第11話 ドランド/レイスト

「そうだったんだね、辛いこと聞いてごめんね。」

マーサは目を伏せた。

「そんなことないよ。聞いてくれてありがとう。」

少しだけ胸のつかえがとれた気がした。

「そりゃあ、おとっさんや村のみんなのこと、心配だわなぁ。」

「心配ですけども、わからないことは考えてもわからないので。きっと、父さんなら大丈夫だと。」

「そうだよな。それがいい。」

ロッツさんは眉をハの字にしながら、何度もうなずいている。

「だから、マーサも気にしないで。」

なんとかして光の国に帰りたい。でも、現実的に考えて、手立てがなさすぎる。まずは、この国について知らなければ。そして、これからどうしていくか。しっかり考えないと。

「しっかし、あの雲の中に本当に国があったとは。おとぎ話かと思ってたぜい。」

「懐かしいわね。わたしたちが小さい頃、何度も聞かされた夢のような話ね。」

二人とも懐かしそうに話している。

「どんな話?」

マーサがきらきらした瞳で問いかける。

「あら、マーサにもよく、読んで聞かせたわよ?神話の絵本でね、『国々と神』っていうの。覚えてないかしら。」

マーサはかぶりを振った。

「おめぇ、大好きだったじゃねぇか。あんなぱっとしねぇ終わりの絵本。」

国々と神…か。聞いたことない題名だな。

「どんな本なんですか?」

「ふふっ、よくある国物語の絵本よ。昔々…。」



むかし むかし、

よにんの かみさまが いました。

よにんは とてもなかよしで、 いつも いっしょに あそんでいました。


たいようが だいすきな おにいさん。

おつきさまが だいすきな おとうとくん。

かくれるのが とくいな おねえさん。

みつけるのが とくいな いもうとさん。


あるひ、おとうさんがいいました。


「もうすぐ わしは とおいくにへと いかねばならん。これからも みんな なかよく くらしておくれ。」


そういうと おとうさんは たいせつにしていた たからものを よにんに わたしました。


おにいさんには ちからを。

おとうとくんには ちえを。

おねえさんには こころを。

いもうとさんには ちせいを。


はじめは みんなで なかよく ちからを あわせていました。

しかし…



「…あっ!思い出した!神様なのに兄弟げんかするやつだ!」

「そうそう、それよ。」

「懐かしいー、細かいところは覚えてないけど、なんでだか好きだったってのは、よく覚えてる!」

アンナさんとマーサはきゃっきゃ、きゃっきゃと盛り上がっている。

仲良さそうでいいんだけど…僕は続きが気になるなぁ。なんて言えそうもないか。


「おいおい、2人とも。ほんと困ったもんだよ。ソラくん、続き、気になるだろう?」

さすが、ロッツさん、男心をおわかりで。僕はこくりとうなずいた。

「絵本でよければ、また見つけたら持っていくからよ。その絵本を元にした小説なら確かマーサがこないだ読んでたような…。」

「また、見つかったらお願いします。」

まぁ、今は気になっているけれど、明日になったら、気にしていたことを僕が忘れてそうだ。

「国々と神」か。仲良しきょうだいでこの国の神様は幸せだな。確か光の国にも「ひとりぼっちの神様」っていう絵本があったけど、悲しくってあんまり好きじゃなかったな。

そう言えば、ここってなんていう国なんだろう。食事の後にでも聞いてみよう。



 ◇ ◇ ◇



「さっ、やっと片付いたわね。じゃあ、ソラくん、いくよ。」

アンナさんが手で机をなぞると、半透明の地図が浮かび上がってきた。ホログラムみたいだな。

「すごーい!前よりも細かい地図になってる!」

「ふふふ、最近、調査の調子がすごくいいのよ。じゃ、ロッツ、あなたの出番よ。」

「よしきたっ!」

ロッツさんは、それらしく2、3回咳払いをするをどこから持ってきたのか、指示棒で地図をコンコン叩きながら、話し始めた。

「いいかい?今ソラくんがいる、ここは地の国の中でもドランドって呼ばれていて、国土の半分は常に乾季。砂漠が広がっていて、地震や洪水が頻繁に起こる。こっから、こっち。あとの半分は常に雨季で、でっけぇ水滴みたいな水山がある。乾季の方がドランドで、雨季の方がレイスト。」

ロッツさんの声に合わせて、アンナさんは地図に文字を浮かべてくれる。

「この国は全体的にみて、水や土の元素は豊富だが、決して住みやすい場所じゃねえ。そもそも…」


懸命に身振り手振りを加えながら、ロッツさんは誇らしげに説明してくれる。途中、話が小難しくなってきたところで、アンナさんから止められていたけれど。


地の国か…土の国のことだ。父さんからそんな話を聞いたことがあった気がする。国土が雨期と乾季で二部されている国。環境こそ整わないけれど、穏やかな種族が手を取り合って、支え合っている国。



「…と、まぁ、こんな感じだ。」

「ありがとうございます、すごくわかりやすかったです。」

ロッツさんは、勝ち誇ったようにアンナさんを見た。

「ソラくん、いいのよ。気を遣わなくて。あんまり褒めると、すぐ調子乗るんだから。」

「ガッハッハ、いやいや、もっと褒めてくれてかまわねぇぜ!…っと、そういえば、ソラくん。腕につけてたアレ、とれたのかい?」

僕は自分の両腕を交互に見た。

「引っ張っても取れなかったから、そのままにするしかなくてよ。」

…あっ、アームドか。

「取れました。…取るというより、解く、って感じですけども。」

解く、という言葉が腑に落ちなかったのか、ロッツさんは首をかしげている。どう伝えれば、伝わるのか思案していると、ふと、父さんの言葉を思い出した。



「アームドはこの世界に二つとない。ソラの体の一部だよ。わかるかい。」



「えーっと…あれはアームドといって、僕の体の一部みたいなものなんです。使い方は様々ですけども。」

「…そうかい。よくわからねぇが、まぁ、窮屈じゃねえなら何よりだ。」

「はい。」

「そうだ、マーサ。またよ、ソラくんにこの辺を案内してやりな。ご神木のあたりとかよ。見ず知らずの土地ってのは座りがわりいもんだ。」

「そうね、それがいいわ。何か手がかりがあるかもしれないし。よろしくね、マーサ。」

「任せて!」

マーサは弾むように言った。

「そうそう、ついでに縦雲の様子も見てきてちょうだいね。」

「うん!」

和やかな歓談は続き、へしゃげていた僕の気分もだいぶと晴れてきた。良き家族に出会えて、本当に救われた。


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