9 パーティー
精霊王の試練の前ではあるけれど国交も大事なので、9月最終日のパーティーは王太子、そして各公爵家の嫡男は強制的に全員参加だった。
「カミラ様、今日は髪を巻いていらっしゃらないのですね!‥‥素敵です!」
従姉妹のリーディアが私の髪型を見て興奮している。こんな時期にパーティーなんて大丈夫かしらと思っていたけれど、意外と元気そうで安心だわ。
今回は公式の場なので、彼女は上質なレースで肌を覆うドレスにカリス公爵家を現すブルーのサッシュを肩から斜めがけにしている。髪飾りは私と色違いだ。
「なになに、殿下その髪どうしたの?」
シリルとアレンも集まって来る。男性陣はそれぞれの色のケープを纏っていた。挨拶回りをしていた弟もいつのまにか側にいる。
「カミラ姉様の髪って、そんなに長かったんだね、いつも巻いてるから分からなかったよ。どうして今日は巻かなかったの?」
「たまには違う髪型にしようかと思ったの」
「ふうん?‥‥まあいいや。姉様、ダンスは私と踊ってよ」
弟が片膝をつき、手を差し出す。それを見たアレンとシリルが、同じように手を差し伸べた。もう、こんな場でもふざけているのね?
他人から見ると一人勝ちしているような光景に、溜息をつく。だから私は他の令嬢に嫌われているのかもしれないわ。
「失礼」
低く、ゆったりした声が遮った。ルシファー様が私の腰に手をかける。
「私は今夜で滞在も最後だから、申し訳ないが殿下を借りて行くね‥‥その髪、似合ってるよ」
身体の距離が近くなり、こめかみ辺りの髪にキスをされた。頬が熱くなる。
皆の顔が『ああ、そう言う事ね』と理解した表情になっていた。恋物語が好きなリーディアに至っては、碧緑色の瞳を輝かせながら口を両手で覆っており、カリス卿が宥めるように背中をとんとん叩いている。
「では、行こうか」
ルシファー様にエスコートされ、私達は中庭に出た。日が落ちかけていて薄暗くなっており、代わってランプの灯が行先を照らしている。
「寒くない?」
彼が自分のマントをかけてくれる。優しい肌触りで暖かかった。花壇にはダリアが咲いていて、近付いて眺めたら、小さな虫がとまっていた。
「虫は苦手?」
隣にルシファー様が腰を落とした。
「いえ‥‥友人の影響でガーデニングを手伝ったりするので、害虫でなければ大丈夫です」
「そう、良かった」
嬉しそうに微笑む‥‥エストリアって、もしかして虫が多いのかしら? 尋ねようと思い少し首を傾げたら、頬に手が添えられて唇が重なった。
「‥‥あまり、恋人らしい事はできなかったけれど、今度会った時は、もっとあなたを教えて」
再び唇を塞がれる。体勢が崩れそうになったところで顔が離れて、彼に手を引かれるままに近くのベンチに座った。