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8 髪の訳

 水の中央精霊神殿に、精霊王の試練を受けるよう神託が下され、選ばれたのは親友のリーディアとその兄のカリス卿だった。試練の内容は知らされていない。


「他国の神だから、何とも言えないが‥‥その試練の内容次第では、協力できるかもしれない。明日また説明があるらしいから、それを待とうかな」


 ルシファー様はゆったり構えている。その姿を見ていると、私も落ち着いてきた。


「なぜ、そんなに良くして下さるのですか?」

「それはもちろん、カミラが私の婚約者であり恋人だからだよ。愛しい人の危機には必ず駆けつけるものだろう?」


 それは、私が愛読しているロマンス小説の話ね? 実践して下さっているのは嬉しいわ。

 膝に置いたベリーを撫でながら少し微笑むと、殿下はその様子を見て安心したようだった。


「そうだ、もし良ければ、この件が落ち着いたらエストリアにあなたとリーディア嬢の二人で遊びに来てくれないかな? うちの母が以前からお二人に会いたがっているんだ」

「ええ、それは構いませんが‥‥冬休みもありますし」

「ありがとう。私もあと少しで国に帰らないといけないから、寂しく思っていたよ」


 そうね、この方がアルカナに来てから、もうすぐ一カ月経つのね。

 最初の頃は丸いテーブルを挟んで向かい合わせに座っていたものが、今では隣り合わせになっていた。手を伸ばせば触れられる距離だ。


「いつも綺麗に髪を巻いているんだね」

 こちらを見つめていた彼が、私の巻き毛を一房手に取った。金の瞳に色香が混ざり、絡め取られそうになったので目を伏せた。

「いつか、巻いてないところも見てみたいな」

 この気配は、私の髪に口付けているのだろう。そんな大人のお誘いは‥‥恋人同士であれば、ありだわ。

「分かりました。最終日のパーティーでは、あなたの為に髪を巻かずに出席します」

 そう答えるのがやっとだった。隣からくすくす笑う声がする。

「私の恋人は恥ずかしがりやなんだね。ありがとう、楽しみにしてる」


 大好きな歌劇の主人公に憧れて、髪を巻き始めた。それが習慣になっていたけれど、たまには変えてもいいかもしれないわ。


 ルシファー様も髪が長いけれど、何か意味があるのかしら? 私の視線を受けて、彼は緩く三つ編みをした自分の髪を持ち上げた。

「これはね、たまに切って私の使い魔にあげたりしているよ」

 ああ、まさかの餌用だったなんて‥‥まだまだ知らない事が多いわね。


「ベリーの他にも使い魔がいるのですか?」

 尋ねたら、距離が近くなり私の体に彼の腕がまわった。思わず目を逸らしてしまう。

「私に興味を持ってくれるなんて、嬉しいな」


 先程は神託の件で混乱していたから気にならなかったけれど、こんなすぐ側で色気のある彼に話しかけられて、恋に落ちない人がいるかしら?


「帝都の城に置いて来ているけれど、他にも使い魔を持ってるよ。あなたにも紹介したいな」


 名前を呼ばれたので彼の方を向いたら、唇が重なった。抗いがたいこの空気は不可抗力だと思う。

 赤くなった私を見て、また彼は微笑んだ。

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