6 炎と土の王子
女装した弟と共に馬車で登校する。弟はお話好きなので、車内でもずっとお喋りしていた。朝から元気だわ。
このアルカナ王国では精霊信仰が栄えていて、風、水、炎、土の各精霊王の血を引く家門が国家の中枢を担っている。
弟のルイスは、こう見えて風の精霊王の直系で王太子、他の精霊王の血族は3大公爵家に収まっており、現在は学園にそれぞれの嫡男が通っている。
王族と公爵家は校舎に入る際に一般の昇降口を使わず、専用の入り口を利用していた。
ジゼルが用意した室内用の履き物に足を通していたら、聞き慣れた声が響いた。
「おはよう、殿下。エストリアの皇太子とは、うまくいってる?」
炎を司るワンズ公爵家の長男、アレンだった。今登校したと言うよりは、私を待っていたようだ。護衛騎士はついていない。
「カミラ姉様、先に教室へ行ってるね。もうディア姉様が来てると思うし」
弟が居なくなり、私はアレンに向き直る。
「そうね、少しは仲良くなれたと思うわ」
右手に付けたもふもふのブレスレットに触れながら告げる。
「ふぅん、そう。良かったな」
アレンは私の横に立った。背が高いので、見上げないと目が合わない。
「教室まで送るよ」
そう言われたので、並んで歩き出す。しばらくして、聞き覚えのある声がした。
「おーい、おはよう! カミラ殿下とアレン、ちょっと待って」
土を司るペンタクルス公爵子息のシリル・ペンタクルスだった。
「おはよう、ペンタクルス卿。また他の教室に行ってたのね?」
駆け足で来た彼は私の前で足を止めて笑った。琥珀色の瞳が細まる。
「そうだよ。優秀な人材をうちの領地に連れて帰りたいからね‥‥カミラ殿下も俺と結婚したくなったら、いつでも言って。大歓迎だから」
そうして、エスコートしようと腕を差し出す。
「教室はもうすぐだし、必要ないわ」
断ったら、彼は苦笑した。
「寂しいなぁ、リーディア嬢ばかりじゃなくて、たまには俺達にも構ってよ」
「私は女性同士の友情を育てたいの」
「それじゃあ、俺達も女装して混ざるか、なあアレン?」
「俺は無理があるだろ? 一人でやれば」
「‥‥まあ、そうだよな‥‥俺とディランがギリギリか?」
「馬鹿なこと言ってないで、行くわよ」
私は歩き出す。羨ましそうにこちらを見る令嬢が何人もいた。幼馴染の公子達や弟が何かにつけて絡んでくるので、嫉妬混じりの妙な噂が流れたりするのよね。
「そう言えば、土魔法のレベルは上がった?」
隣を歩くシリルが再び話しかける。
「ええ、中級になったわ」
「さっすがー! そしたらさ、次の土魔法の実技の授業、俺が手伝ってあげるよ」
‥‥そう言えば、リーディアも夫のディランに魔法の訓練を毎日受けてるって言ってたわね。
あそこまではしないにしても、上級者にアドバイスしてもらうだけでも上達に繋がるはず。私は風の血族で土魔法は適性がないから、助かるわ。
「ありがとう、シリル。よろしくお願いします」
「うん、任せておいて殿下」
「炎も中級なんだろ? 俺も見てやるよ」
「そう? ではアレンもよろしくね」
水の精霊魔法は、カリス公爵家のリーディアとその護衛騎士に学べるから大丈夫ね。
両脇を二人の公子に挟まれながら教室に向かった。チェリーピンクの髪の女生徒がこちらを睨んでいたけれど、気にしないでおいた。