3 理想の男性
“もし恋をするなら、どんな人がいい?”
適齢期を迎えた子なら、一度は考えた事があるのではないだろうか。
私は王宮に住んでおり、各公爵家の男性陣や見目の整った従者を見慣れているので、美しい外見に関しては耐性があるつもりだった。
だけど、国外のまた違ったタイプの美形には弱かったみたいだ。
艶やかで豊かな黒髪、長い足に均整の取れた身体、綺麗な白い肌に色気を含んだ金色の瞳が微笑んでいるのを見ると、勝手に頬が熱くなる。
我が国の王侯貴族は精霊の血を引いているからか、その造りが繊細なのに対して、隣国エストリアの皇族は、悪魔の血が入っている影響か、蠱惑的で思わず見入ってしまう。
その日、私は夜になっても肖像画を開いたり閉じたりを繰り返していた。
この気持ちを早く友人にも話したい。
「まあ、これは‥‥!」
週末の観劇後に寄ったスイーツ店で、リーディアに肖像画を見せた。幼馴染の彼女なら、皇太子殿下の外見が私の好みだと分かるだろう。
「素敵な方ですね。秋にはこちらにいらっしゃいますし、直接お会いするのが楽しみですね」
私は頷いて応える。どうやら気付いてくれたようだ。
数ヶ月先には皇太子殿下の訪問を控えている。それまでに、エストリアの諸々を復習しておかないと。リーディアも協力を申し出てくれたので、二人で準備を整えた。
外見は好みても、内面はどうか分からない。
けれど、政略結婚するなら、外見が良いだけでも運がいいと思わなければ。
期待しすぎないように、これは、私が王女として生活するうえで培った考え方だった。
「お姉様」
王宮に戻ると、公務帰りの弟が訪ねて来た。
今日は新しく出来た施設の竣工式に出席したそうだ。こうして普通に王太子の格好をしていると、綺麗だしまともに見える。
「公務お疲れさま」
スイーツ店でお土産に買ったタルトを、お茶と一緒に出してもらう。
「とうとうカミラ姉様も婚約が決まりそうだね」
美味しそうにタルトを頬張っていても、ため息は出るらしい。
「私の姉様が二人とも他の男のものになるなんて‥‥はあ‥‥国が絡んでるから、あんまりワガママも言えないしなぁ」
「あら、ルイスも我慢なんてするのね?」
「もう! 私はディア姉様の時も、あの方が幼い頃からディランをずっと慕ってるの分かってたから、我慢したんだよ」
「そうだったわね、偉いわ」
「カミラ姉様‥‥」
弟が隣に移動して来て泣き真似をするので、頭を撫でた。やっぱり弟は可愛い。すると調子に乗って抱きつこうとしたので、ぐいっと押し返した。
「こら、それはやりすぎよ?」
「姉様、可愛い弟が心配じゃないの?」
「‥‥あなたにも、いずれ素敵な婚約者が見つかるわ」
「そうかなぁ? 二人の姉様以上の人なんていない気がするけど」
ルイスは小さい頃から、私とリーディアに懐いている。他の令嬢を紹介されても、冷たくしたりはないけれど、その場限りで終わってしまう。私達以外の女性にはまだ興味がないのね。でも、年齢的にもそろそろ他のご令嬢にも目が行くはず。
少し変わった趣味を持っている弟だけれど、いつか、この子を理解してくれる方が現れますように。