16 エストリア5
「もう大丈夫だよ。縄の跡がついてしまったな‥‥怖い思いをさせてごめんね」
拘束が取れて、ルシファー様が私を抱き起こす。色々尋ねたかったけれど、話せないので見つめていたら、頬に唇が触れた。
「君が精霊魔法で反抗しないように、薬を使用したようだね。後で医者に診てもらおう」
側にはベリーもいる。心配してくれているのか、ルシファー様の反対側から私の顔を覗き込んでいた。
「もうすぐ母の使い魔が皆を連れてここへやって来る。この部屋を制圧したのは、私ではなくベルだ‥‥分かるね?」
彼の言葉に、理由を問うため見つめると、続きがある。
「カミラ、私は身内以外の者には能力を伏せておきたい。だからあなたにお願いしている」
底知れない金の瞳に見つめられ、私は瞬きで沈黙を約束した。国にはそれぞれの事情があるものね。
「ありがとう‥‥ベリー、ベルが到着したら指輪に変化して回収して貰いなさい」
鉄のような匂いが漂う部屋で皇太子殿下は続ける。
「では、私は本体に戻らないと‥‥あなたは寝ているといい」
床に体を降ろされ、彼が額に触れると睡魔が襲った。ルシファー様の“‥‥デウスか”と言う呟きが聞こえた気がした。
次に目覚めた時は離宮に戻っており、心配していたであろう弟とリーディアが駆け寄って来た。
その頃には声も出るようになっており、医師の診察も終えて、部屋に侍女姿の弟だけが残った。
「カミラ姉様、少しでも辛いなって思ったら、私を呼んで。約束だよ?」
もう大丈夫だからと寝不足の弟にも部屋に戻って貰って、目を閉じる。色々あって疲れたわ。とりあえず今は眠りたい‥‥
◇◇◇
「‥‥の準備は整っている。後はこの生贄で上級魔族を従えたあと‥‥に‥‥る‥‥を‥‥放てばいい」
あら?
「別邸の準備は整っている。後はこの生贄で上級魔族を従えたあと別邸の地下に拘束している中級魔族を街に放てばいい」
私は目を開けた。思い出したわ!
首謀者以外はこの離宮で手引きした者も全て処分したって聞いているけれど‥‥この件もルシファー様はご存知なのかしら?
起き上がり、隣で大人しくしているベリーに話しかけた。
「ねえ、おまえも聞いていたわよね? 犯人の別邸の地下に中級魔族が拘束されているって‥‥あれって、どうなってるのかしら?」
その瞬間、ベリーが天井を仰いで叫ぶようにクチバシを開いた。赤く光るサークルが私を取り囲む。床が無くなる感覚が再び襲い、気付くと薄暗い空間に座っていた。




