14 エストリア3
皇太子殿下は私を婚約者として皆様に紹介して下さった。好奇な目で見られたりもしたけれど、私達の親しげな様子を見て、非難する者は誰もいない。私がどうとか言うよりも、貴族達は皇太子殿下や皇帝陛下を恐れているようだった。
ひと通り紹介が終わると私達を椅子席に案内して、彼は『まだ用事があるから』と他へ行ってしまった。まだ一緒に居られると思っていたので、少し寂しい。
しばらくして皇帝陛下の使いが私とリーディアを迎えに現れた。陛下の使い魔は、ベルと言う名の上級魔族だった。見た目は人間と全く同じで、よく喋る。
「なるほど、こちらのお嬢様が皇太子殿下の婚約者様でいらっしゃると‥‥お美しいですね、その魂も極上のようだ」
血のような赤い瞳に見定められ、居心地が悪く思っていると、
「ベル、そんなに不躾に見るでない」
陛下が嗜めて下さり、それを受けてベルは深くお辞儀をした。
「かしこまりました、陛下。私共悪魔の好むお姿でございましたので‥‥どうかお嬢様、ご無礼をお許しください」
言動は丁寧だけれど、そうは思ってなさそうだわ。陛下の玉座を挟んで向こう側に座っているリーディアも、眉を下げていた。
ルシファー様がお話しになっていた通り、皇帝陛下は私とリーディアを歓迎して下さっていた。今も壇上の玉座の両脇に席を設け、そこにそれぞれを座らせると言う、破格の待遇だ。普段着けていらっしゃる、宝石が三つ輝くペンダントは、今日はないのね。
とりあえず、パーティーが無事に終わりそうで良かったわ。何かあるかと私もアルカナの皆も心配していたけれど、大丈夫そうね。
私は胸を撫で下ろした。
頃合いを見計らってパーティーを退出する。
「リーディア、今日はありがとう。また明日ね」
「はい、カミラ様もお疲れさまでした。それでは失礼致します」
部屋の前でリーディアと別れる。護衛騎士のケイ・ロスが室内に異常がないか確認した後、廊下に彼を残して弟と中へ入った。
私を護衛する騎士はもう一人、クリブランド卿もいるので、二人で交代しながらの警護となっている。
「カミラ姉様、お風呂の用意をしてくるね。ソファーに座って待ってて」
侍女の格好をした弟が隣のバスルームへ移動した。彼は昔から女装が趣味で、ドレスの着付けなどにも詳しいため、今回の訪問では私の着付けを手伝ってくれている。
下着姿を見られても、恋愛感情などは全くないため気にならない。本当の侍女みたいに思って貰っていいから! と言われているので、そうしている。心配だから側に居たいそうだ。
パーティー用のドレスのまま、お留守番していたベリーを撫でようとソファーに向かって歩いた、その時だった。
急に床が赤く光り、踏みしめていた筈のものが無くなった。垂直に落ちる感覚が襲う。
悲鳴をあげながら手を伸ばすと、白い塊に当たった気がした。
そして訳がわからないまま、意識を失った。




