10 別れ
「ベリーは私の使い魔でもあるので、遠くに離れていても会話ができるんだ。手紙を書く代わりに、ベリーに“会話”と命じてくれたら、私と話ができるから」
恋人同士のように寄り添いながら、ルシファー様は仰る。
「分かりました。ではそうしますね」
答えつつ思う。私が望んでいたとは言え、実際に恋人のように触れられると、嬉しい反面複雑な気持ちになるわ。だって、この方は皇帝陛下のご命令でこうしているだけで、私を愛してはいないのでしょう?
なぜそんな気持ちになるのか、自分でも分からない。ひとつ願いが叶ったから、欲が出ているのかしら‥‥こうやって優しく接して下さるだけでも十分だわ。
考え直し、彼を見つめて微笑んだ。
「次にお会いできるのは、冬休みですね。楽しみにしています」
彼の瞳を見ていると、私の欲を容認するような金色に捕らえられそうになり、そっと目を伏せる。肩を抱き寄せられた。
「エストリアを訪問する際は、信頼できる騎士を必ず何名か付けて下さい‥‥不安にさせて申し訳ないが、私達の婚約に反対する者が悪さをするかもしれないので。けれどあなたの事は必ず守ります」
「分かりました、ルシファー」
名前を呼ぶと、耳に彼の唇が触れた。
「カミラ‥‥待っているよ」
直接注がれる艶やかな声の破壊力がものすごいわ‥‥!
耳が赤くなっているのが分かったのか、くすくす笑われた。恥ずかしかったけれど、嫌ではない。彼の腕の中は心地良かった。
「もう少し別れを惜しんでくれると思っていたが、あなたはそうでもなさそうだね」
「いえ、残念に思っております」
「本当に?」
顔を覗き込まれて、頷いたら頬を撫でられた。唇が触れる。こんなに優しくされたら、勘違いして彼に依存しそうだわ。
カルミア宮の自室に戻ると、お留守番だったベリーがソファーの上に座っていた。
「ベリー、ただいま」
話しかけると、こちらを向いて瞬きする。
ジゼルに手伝って貰って着替えを済ませ、ベリーの隣に座った。
「‥‥まずは試練ね。エストリアの訪問はその後だわ」
部屋に出しておいた、リーディアとお揃いで作った鎖帷子を見る。友人のものには辺境伯夫人のエリアナ様が赤いお花の刺繍をしていたけれど、私のそれには王家のお祖母様が青いお花の刺繍を施してある。
お父様からは、もしもの時を考えて、私も試練を受ける心構えでいなさいと言われていた。
どうか、親友が無事に試練を終えられますように‥‥!
リーディアとカリス卿は、試練の宣告があった後は、毎日その対策となる訓練を受けていた。私も可能な限り同席している。
少しでも大切な友人に寄り添いたかった。
寝支度を整えてベランダに出る。
「今日も護衛ありがとう」
日課の挨拶を済ませてベッドに入った。ベリーも隣に運んでいる。
とりあえずは、今日が無事に終わった事に感謝しよう。
ここに出て来る“くさりかたびら”は、中太の毛糸で編んだノースリーブのミニワンピース、もしくはチュニックのようなイメージです。




