異能
本来なにも持たない凡人であるはずだった。
復讐に命を燃やすこともできず、できるだけ多くの魔物を巻き添えに自決の道を進むはずだった。
だが、武器を得てしまった。
魔物を殺す道に、現実味が帯びてきてしまった。
もう引き返せない。家族を見殺しにした僕に、それ以外の道はない。
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爪に裂かれた傷を何度も作りながら2匹目の魔物を仕留め、疲労感と達成感を感じながら座り込んだときだった。
...おそらくこれが「殺気」というものなのだろう。
自分の座る位置、そこを囲むように突き刺すような気配を感じる。
既に囲まれているのは間違いない。だが、僕にはもうこれ以上動ける体力がない。だから残った気力でできることを。
背後から魔物が襲いかかってくる。それと同時に叫ぶ。
「助けてー!!」
風を切る音がした。
振り返るとそこには、矢で射抜かれ木に刺さる魔物の姿があった。
「2匹とも仕留めるなんてすげぇじゃん!セツナ!」
「カインさん...」
「残りは俺とユースリスに任せな!」
そう言い残したカインさんは、剣に炎を纏わせて、飛びかかる魔物へ一太刀を浴びせに走っていった。
レンさんから、教会でも使っていたガラス瓶を受け取った。
ポーションという物だそうで、教会で素質のある人間が材料と祈りを捧げることで出来る、人類に驚異的な回復力をもたらす薬らしい。
僕の村にも教会があったが、あのように教会を建てておくことでいざという時にすぐポーションを作れるようにしておくのが一般的とのこと。レンさんは、
「使うつもりなら初めから言ってよ、ユースリス...。言ってくれれば余分に作っておいたのに...」
とぼやいていた。
ポーションを怪我した箇所へ直接かける。すると小さな傷はもちろん、最初に食らった太ももの噛み傷もたちまち治っていった。思わず「すごい」と声が出た。
しばらくすると、もう炎のついていない剣を担いだカインさんと弓を手に持ったユースリスさんが戻ってきた。
「駆除完了だ。そっちはどうだ?」
「治療は終わったよ。2人ともお疲れ様」
レンさんと会話をするも、ユースリスさんは僕の目を真っ直ぐ見つめてくる。
「セツナ君。君は先の戦闘で何かを掴んだ。そうだね?」
「...はい」
「私たちに話してくれないか」
「...例えるなら、体に油が入っているような。その油を腕に流したら、いつもと比べ物にならないくらい速く動かせました」
「...なるほど?」
そう応えるユースリスさんの表情は固まっていた。
「...君のいうそれは、間違いなく異能だ」
その日の夜、そう告げられた。
対巨人戦で巨人が遅くなった理由にはならないが、それは置いておいて自身を「加速」させる異能を得ているのは間違いないだろう、そう言われた。
「一般的に、使用者本人にのみ効果がある異能は弱いものが多い。だがセツナ君のものはその中では十分強いものだと思うよ」
とのこと。
異能つながりで、他の異能についても教わった。
「異能は主に4つに区切られる。まずはセツナ君の持つ『対己型』。2つ目はカインの異能が入る『対物型』。あいつの異能は自分の触れたものに炎を纏わせるものだ。」
「じゃあ手から炎とかは出せるんですか?」
「いいや、『対物型』はあくまで物に対して発動する。あいついわく、『とりあえず掴めるものなら炎は出せる。でも燃やしてるものに影響はない』らしいが...燃やされたことが無いから本当に熱くないのかは分からんがな」
「残りの2つは?」
「残りは『対界型』と『対星型』なんだが、実際会うのは対星型以外の使用者だろうな」
「どういうことですか」
「対界型は簡単にいえば空間に作用する異能だ。手から炎を出せるのはどちらかと言えばこの型だと思う。これの上位互換が対星型だと言われていて、対星型は発動すれば世界を変える、らしい」
「なんで『らしい』なんですか?」
「...対界型は、強い冒険者の中に使用者がいることがあるんだが、対星型はあくまで伝聞なんだ。実際に居たのかも怪しい。一説によると対界型を極めて範囲を世界全体に広げたものが対星型だとも言われているが...結局のところ分からない型なんだ」
「じゃあなんであるかも分からないのに4つ目の区分があるんですか」
「そこまでは知らないさ。本当に居たのかも知れないぞ?」
かくして、僕が知らないことを少しずつ教えてもらいながら進むこと10日。
僕たちはついに、中央都市ヘミスフィアにたどり着いたのだった。