表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

6,下町の景色


 「わぁ、びっくりするくらい変わってないね。安定してる証拠だ」


 翌日、私はロルフと2人で町に降りていた。

 昔、セイを連れ回した軽食屋や初めて贈りあったアクセサリー店、気前の良いおじさんがやっている肉屋、常に新鮮な八百屋や魚屋。全てに昔と変わらず活気がある。


 色は皆瞳は赤か琥珀色、髪は黒とプラチナという風に決まっているので容姿で馬鹿にされることはないし化け物と罵られることもない。

 他国には他の竜達もいるようだし会ってみたい気持ちもある。


 「あ、セレーネ様だ!」

 「セレーネ様!これ、作ったの!あげる!」

 「ずるい!僕もあげる!」

 「あらあら、セレーネ様、久しぶりにウチのサンドイッチ食べてみないか?」

 「セレーネ様、ウチのコロッケもいいぞ!」


 私に気づいた領民たちが次々に声をかけてくれる。

 「ありがとう皆。美味しく頂くよ」


 コロッケとサンドイッチを手に、私達はまた歩き始めた。貰った花冠やネックレスもつけた。活気のある商店街も相まってお祭りに来ているような気分だ。


 そして私も家と領以外では封印していた話し方を解禁した。「〇〇ですわ」とか「〇〇でしたの」とかいう話し方は戦闘では舐められるし気持ち悪いので正直使いたくはなかったが学園では王子の婚約者ということで仕方なく矯正していたのだ。最も、謝罪ばかりでまともな会話はしていなかったが。


 王都で唯一信頼しているセイの前では普段の砕けた喋り方をしている。セイがそれを望んだから。

 少し落ち着いたらセイと一緒にまた町を回るのも良いかもしれない。今まで我慢した反動か、欲が溢れ出している気がしないでもない。


 お父様にそれを伝えたら「我慢を強いていたのだからこんな時くらい我儘になっても良い」とのことなのでセイのことを忙しいのは承知の上で誘ってみた。


 「うん、セレーネさえ良ければ僕はいつでも良いよ。ティアバルト王国との接触は良い感じに進んでいるしあとは大体カイリに任せられるところまで行ったから。セレーネと出かけるのは久しぶりだね。楽しみだ」


 セイはいつの間にかカイリお兄様と仲良くなっていて初めはカイリ殿と読んでいたのが今や呼び捨てだ。

 まだあの事件から1ヶ月も経っていないのに不思議なものだ。どこで意気投合したのだろうか。


 「また町に降りてみようと思うんだ。ロルフとは行ったけど今のバークレイ領を見せたい。ほとんど変わってなかったんだ。まだ昔行った軽食屋もアクセサリー店もあったよ」

 「それは凄いな。王都では流行っては廃れ流行っては廃れで長く続く店はほとんどないから。やはり移民が少ないと安定するんだな。僕は堅苦しい王都の雰囲気よりも息がしやすいここの方が馴染み深いしこっちで知り合いもいる。当日、楽しみにしてるね」

 「うん」


 そして私達は5日後、町に降りる約束をした。


 因みに、セイが今どこに住んでいるのかというとバークレイ公爵邸の客室だ。私が初日に運び込まれたあそこ。親(国王王妃)が何か言ってくると思ったが、セイは「自分がいない方が王宮の皆も義兄を王にしたい他の貴族も幸せに過ごせる。セレーネが僕を必要としてくれたから僕はここに居られる」と言っていた。そして今のところ何も言われていない。


 親としてそれはどうかと思うがそのお陰で私はセイと散歩デート?ができる。流石に婚約を正式に破棄するまでは大っぴらにすることはできないが私達の想いは既に通じ合っている。

 事が片付いて移住も済んだら婚約も予定している。    


 もともと私はセイと一緒に居たかったのを王命とかいうゴミみたいな制度のせいで引き剥がされていたのだ。セイのことを空気同然に扱っているどころか疎ましく思っているのならこのくらい良いだろう。



 当日。

 私は昔と変わらずシャツにズボンだった。ただ一つ違うのは訓練でもないし想いあっている相手と出かける。つまりデート。少年スタイルの短パンはデートには不向きと思いネクタイを緩く締めていてスラックスを履いている点だろう。


 ティアはそんな私を見て「お姉様がイケメン過ぎて怖いです」と顔を赤らめて言っていた。褒め言葉と受け取っておこう。お母様も「やっぱり貴族らしく伸ばしているよりセレーネの髪は短い方が似合っているわ」と言っていたし今の私が女性ウケする見た目であるのは間違いないだろう。


 実際この前町に降りた時も子供達に格好良いと言われたばかりだ。悪いとは思っていなかったが長らく容姿を貶されてきたからこの反応は相当嬉しい。


 「セイ、お待たせ」

 「いや、僕もさっき来たところだよ」


 婚約破棄前なので一応手は繋がずロルフも常に側に居させた。不貞だと言われようが別に良い。先攻はお前だ第一王子よ。特大ブーメランだ。


 「……?どうしたの?セレーネ、なんか、オーラが黒いよ…?」

 「当然だね、私は黒竜の力が使えるから。オーラも黒くなるよ。まあそう滅多なことでは怒らないから安心して」

 「………まあ、そういうことにしておこう」


 諦めたようなセイに、呆れたようなロルフの視線を相殺して私は歩き始めた。今日は何を食べようか。


今回の登場人物

・セレーネ・バークレイ(13)

・アレクセイ・ウィルバイツ(14)

・ロルフ


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ