4,怒りのバークレイ2 アリオ(セレーネ父)side
セレーネの父、アリオ・バークレイsideです。
私はアリオ・バークレイ。女神のような妻と愛らしい娘2人、逞しく育った息子2人、そして数名の騎士と使用人とで暮らしている。
我々はウィルバイツ王国でただ一つある公爵家の人間だ。領地全土に黒竜の加護があり、その妻の白竜からも祝福を受けている。そのためか容姿に竜の色が出る。セレーネと長男のハルイは黒竜、次女のティアと次男のカイリは白竜から直接加護を与えられた。
竜の加護は個人には滅多に与えられるものではない。本来であればそれは大切に扱われるものだ。
竜の加護があればバークレイ領にある魔鉱石と呼ばれるエネルギー資源が鉱山から尽きることはない。魔鉱石は人々の暮らしを豊かにし、便利にするには必要不可欠なもののはずだ。また、竜は魔物からの侵略も防ぐことができる。しかしどうだろうか。
セレーネはある日、ぼろぼろの状態で第二王子のアレクセイ殿下に運ばれて帰って来た。意識を失っているし、嫌な予感がした。
セレーネは6歳の時に魔物との一騎打ちに勝利し、契約している。名を、ロルフというが、彼がいても尚この傷なのであれば一体相手は誰なのだろうか。
「セレーネはこの格好で王宮を歩いていました。何があったのかは教えてくれたのでわかりますが、良い内容ではありません。この度は本当に申し訳ございませんでした」
アレクセイ殿下はそう言った。王族である彼が臣下である立場の私に頭を下げるのは余程のことがあったのだろう。とりあえず客室に運び込んで目を覚ましたら声をかけてほしい旨を伝え、ロルフから状況を聞くことにした。
ロルフ曰く、アレクセイ殿下はセレーネが唯一信頼できる王宮関係者らしいとのこと。セレーネに忠誠を誓ったロルフが嘘を言うとは思えないし、状況を知っているのはロルフだけだ。
「………と、いうことだ。馬車の中で声を上げて泣くセレーネの声とそれをあやすセイの声が聞こえたし、セレーネが何をされたのか知っているのはセレーネとセイだけだ。一つわかっているのはこの婚約がセレーネを、俺達の大切な人を傷付けたことだな」
ロルフからの報告を聞いて目眩がした。良い報告ではないと聞き、転移陣で緊急帰国してもらったカイリも妻も、ティアも、ハルイも全員が言葉を失った。聞いたのは一部だけでもダメージは相当だ。
「バークレイは上位貴族とはいえ所詮公爵。身分で言えば王家の下だ。セレーネが実力で高々王妃や王子に負けるはずがない。きっと立場上、耐えることを選ばざるを得なかったんだな」
ハルイの言葉が恐らく正しい。抵抗すれば家ごと干される可能性がある。私個人は対して気にしないが領民のこともある。
自分のことより他人を想うセレーネは私達のためを思って我慢し続けたのだ。
しばらくすると、セレーネがアレクセイ殿下に抱えられて居間にやってきた。顔の傷痕が痛々しく残っている。
「「セレーネっ!」」
「お姉様!」
皆が口々に名前を呼ぶ。
「迷惑かけてごめんなさい」
そして、アレクセイ殿下の腕から降りたセレーネは私達に頭を下げたのだ。謝るのはこちらのはずなのに。
「セレーネ、当時のことはロルフから聞いた。だが、セレーネ本人の口から何があったのか聞きたい。迷惑かけるとかそんなことは考えなくて良い」
やはり本人の口から聞くのが1番いい。
「わかりました」
セレーネは素直に頷き、椅子に腰掛けた。セレーネの話は酷いものだった。王家からの罵詈雑言、暴力、他の貴族からの忌避の視線、更には婚約者の浮気相手の家からも馬鹿にされ続けてその映像も水晶に刻まれていた分、フルで見た。
殺気を隠そうともしないロルフ。緊急帰国してくれていたカイリも太ももに置いた拳を蒼くなるくらいに握りしめている。こちらから見てもまるで復讐をすることを必死に堪えるようだ。ハルイは表情こそ変えなかったが居間に置いてある魔道具が壊れたことから察するに、相当怒っている。
妻とティアは椅子に座っているはずなのに今にも倒れてしまいそうなくらい顔面蒼白だ。
かく言う私も先程窓ガラスを割ってしまったのだが。怒りを抑え難い。
少しでも力を抜けばきっと屋敷を壊してしまうだろう。そして、セレーネ自身も怒りを抑えているからそれが爆発したら王家どころか国ごと破壊してしまう。
婚約破棄に加えて国を捨てることにした。ハルイは高度な転移陣を使える。新天地に領地ごと転移すれば今までとさほど変わらない生活ができる。
それにウィルバイツ王国よりもティアバルト王国の方が豊かだ。セレーネは人柄や実力から領民に慕われていた。きっと受け入れてくれる者は多いだろう。王侯貴族の中ではたった1人の味方だったというアレクセイ殿下もいるし今回の件で彼もかなり憤っていた。
こんなに心強いことはない。私達は来たる婚約破棄の日まで準備を重ねることにした。
前回と同じです。