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2,セレーネという少女 アレクセイside

今回はセレーネの婚約者の義弟、アレクセイsideです。

 僕はこの国の王と下位貴族の三女だった侍女の間に生まれた。第一王子のハルトナイツは僕の腹違いの兄で正妻の子だ。正直悪い意味で王侯貴族感があってあまり好きではない。


 顔を合わせる度に卑しい女の息子だと馬鹿にされて居心地が悪かった僕は護衛もつけずに王都の町にいることがほとんどだった。彼女と会ったのはその時だった。


 黒い髪に赤い瞳。変装のつもりなのか眼鏡をかけているが変装になっていない。一瞬でわかった。彼女は黒竜の加護を受けた人間だと。そして直接の加護を受けることができるのはこの国で1つだけしかないバークレイ公爵家。


 名前まではわからないがそこまではわかった。グレーの髪に緑色の瞳を持つ従者を1人連れている。

 「あの、道を尋ねたいのです。もしよろしければ教えていただけますか?」

 「ふぇっ!?あ、はい大丈夫です!どこまでですか?」


 激しく動揺して声がおかしなことになったが相手も気にしていないようなので無視。


 「えっと、落ち着いた色の生地を売っているお店があると聞いて、そこまで行きたいのです」

 落ち着いた色と聞いて出てくるお店は一つ。

 「黒や紺、あとは深緑などの色を無地で売っているお店なら知っています。好みに合うかは分かりませんが案内しますね」

 「ありがとうございます」


 汚名を返上すべく、僕は手芸店に案内した。黒、紺など何にでも合う色と茶色や深緑、ワインレッドなど使い所によっては使えるが使いにくい色まで売っている。せっかくなので僕も生地選びに同行させてもらった。


 「全く、俺の服なんてお下がりで良いのに」

 「良いわけないでしょ。私が新しいの用意したいの。わかった?」

 「まあ悪い気はしないし、任せるよ」

 「そうそう、私に負けたんだからこのくらい好きにさせること」

 「はいはい」


 少女と従者は仲良さそうにポンポンと会話をしながら生地を選んでいる。その近くで店員や客、通行人などがヒソヒソと話し始めたがそんなこと気にも留めていない。


 「化け物」「不吉だ」「早く出ていけ」


 そんな会話が聞こえる。この国では容姿に黒があるのは不吉として認識されている。昔は違ったのだろうが今はもう王家を筆頭に貴族も平民も同じだ。黒系統が堂々と歩けるのはきっと黒竜の加護がかかっているバークレイ領付近だけだろう。


 「あの、ありがとうございます。無事買えました」

 「あ、ああ。目当ての物があってよかった」


 これで終わりか。もう少し話していたい気持ちもあるが仕方ない。

 「それと、この後時間が空いていればの話ですがお礼もしたいので食事でもどうですか?丁度お昼時ですし」

 「あなたさえ良ければ、是非。名乗りが遅れましたね。僕はセイと言います」

 「私はセレーネです。彼は護衛のロルフです」

 「ロルフです」


 王族ということを隠したくて咄嗟に愛称を名乗ったが彼女は何の疑いもなく信じてくれた。


 買った軽食はバゲットにトマトやハムなどを挟んだサンドイッチ。女性の食べ歩きならクレープなど甘いものかお洒落なカフェでスイーツを食べるかのどちらかかと思っていたので肉が入ったものを選ぶのは驚きだ。


 本人曰く、「筋肉をつけるのにスイーツは必要ない」とのこと。貴族のご令嬢が筋肉を使うのかは謎だが甘いものはあまり得意ではないのでまともな昼食を食べることができて良かった。


 その後も、僕らは町に降りて沢山話したり買い食いをしたり、バークレイ領で買い物をして物を贈りあったりして彼女の側は僕が唯一安心できる居場所だった。セレーネが9歳になって義兄と婚約という形で奪われるまで。



 と、そんな回想はどうでも良い。いや、どうでも良いわけではないが今はどうでも良い。なぜセレーネがあんな姿で王宮にいるのか。セレーネが義兄の婚約者になったことは知っている。ただ、王族の婚約者というのを抜きにしても扱いが酷すぎる。


 「セイ……王宮関係者だったの?」

 声をかけた僕に対して驚きを隠しきれていない様子。

 「一応、王子だけど…セレーネ、誰に何されたの…?教えてくれると嬉しい」


 足の先から冷えていくように感じた。


 「ここでは話したくない。人がいないところに行きたい。護衛が外で待機してるからそこまで行きたい」

 久しぶりに聞いたセレーネの声は震えていたが、少しだけ怒気を孕んでいた。

 「……わかった。そこまで一緒に行こう」


 良い予感はしないがセレーネが話してくれるんだ。まともな教育は受けていないが見よう見まねで護衛の待機しているところまでエスコートした。因みに護衛は昔と変わらずロルフだった。変わったことといえば少年が青年になったくらいだろう。


 セレーネの格好を見て硬直している。どうやら彼も知らないらしい。ショックを受ける覚悟でセレーネに言われるがまま、馬車に乗り込む。


 「実は…えっと…どこから話せば良いんだろう」

 膝の上に置かれた手は若干震えている。僕はその手を握って今できる精一杯の笑顔を向けた。

 「焦らないで、ゆっくりで良いから」

 「ん……」



 セレーネは頷くと一度深く深呼吸して今度はゆっくりと語り始めた。


今回の登場人物

・セレーネ・バークレイ(13)

・アレクセイ・ウィルバイツ(14)

・ロルフ


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