17,買い出し
今日は王都に行く。家具も新調しようと思ったがまあ店が国外なので先にシサーカの服を作るためにもティアバルト王国の中心部を知るためにも行こうと思う。
お父様は渋りつつも了承してくれた。シサーカのことが関わるとお父様と黒竜は強気に出られない。
「ロルフ、シサーカ、行くよ」
「はいはいっと」
『うん!』
契約してから大分時間が空いてしまってシサーカには申し訳ない。ロルフは人型になってクローゼットから着る服を選んでいる。シサーカは相変わらず私の肩の上だ。氷竜というだけあって少しひんやりしている。
卒業パーティーの日から1か月くらいしか経っていないのでまだ春だが6月以降くらいになったら便利な温度だ。上機嫌で頬擦りしてくるシサーカの鱗がくすぐったい。
屋敷の敷地から出る直前、呼び止められた。
「セレーネ、どこ行くの?」
セイだ。一体誰に聞いたんだか。お父様に頼まれたんかな。
「王都だよ。シサーカの服の生地を買いに行こうと思って。ついでに何か良いのあったらソードフック用の革も」
ソードフックというのは私が使ってる言葉なので普及はしていない。
最初は家族にも「何それ?」みたいな顔されたし。 正式名称があるかどうかも知らないのだ。一応帯刀するときに剣を入れるための袋みたいなもの。茶色の革で作って腰に引っ掛けるので年々剣の重さなどで擦り切れていくのだ。せっかくなのでそれも新しくしようと。
「僕も行く」
ですよねー。わかってた。準備万端だもんね。私のこと好きすぎるもんね。
「じゃあ4人で行こうか」
『どこにでも現れるなんて。重い男は嫌われるよ』
シサーカが突然現れたセイに言い放った。そういえば恋敵か。精神干渉で直接プロポーズされたし告白されたし。
私は別に重くても平気だが。重量の話でないことはわかる。束縛が激しい系かな。
でも束縛されるより一緒に色々なところに行きたいな。
「じゃあ行こう。セレーネ、お手をどうぞ」
男装でガチ男性にエスコートされるとは。だが差し出してくれた手を無下にするわけにもいかず、大人しくエスコートしてもらった。これから王都に行くのに。大半の平民はエスコートなどせぬよ。仕方のない人だ。
もともと荒野だったのもあり、領はウィルバイツ王国にいた頃よりも平坦で歩きやすい。そして相変わらず変わっていない。活気があるのは良いことだ。
ここは王都からそれなりに離れている。前まではウィルバイツ王国の王都に行くための転移陣が固定で屋敷にあったが取り外しができないので上に色々な物を置いて封鎖している。
そこで新しく転移陣を描いた建物を用意した。近くにある領なら良いが持ち領が広い貴族もいるしハルイお兄様が提案し、各領内に固定の転移陣を置けるようになった。ウィルバイツ王国の方にも一応報告だけはしていたが下に見られすぎてまともに話を聞いてもらえなかったな。
ティアバルト王国の貴族が篩にかけられていてよかった。
転移陣がある場所まで行って王都に転移する。お腹の辺りがヒュンッてして初めは変な感じがしていたが回数をこなすうちに慣れた。せっかくなので荷馬車くらい大きい物も転移できるように大きくなっている。
「セレーネ、待ってたよ」
転移先で一番最初に見たのはカイリお兄様。
くっ……!イケメンが過ぎる。背景に青薔薇が見える。
「王都は初めてでしょ?案内するよ」
「ありがとうございます、カイリお兄様」
忘れていた。王都には一度も来たことがない。危うく道に迷うところだった。行きたい場所を伝えるとカイリお兄様はすぐに案内してくれた。
ティアバルト王国とその周辺諸国の地理は常に最新版を維持しているようだ。凄…。
『セレーネ、ありがとう。セレーネがその生地で服作ってくれたら勿体無くてもう二度と竜の姿に戻れないかも』
今回買った生地は濃紺と緋色。あとは屋敷にある分の黒の買い足し。刺繍糸。私の分の革。ついでに良い感じのベルト。カイリお兄様が案内役だったのもあってか、良い感じの店に行けた。
「でも竜の姿も可愛いよ。黒竜はお世辞にも可愛いとは言えないでしょ?あれはゴツい。白竜はスレンダー美女って感じだし。可愛い竜は好きだよ。なでなでしたくなる」
『ふふん、いくらでも撫でて良いんだよ。アレクセイは駄目だけどセレーネはいくらでも撫でて』
「僕だってお前など撫で回したくないな」
ああまたか。この人達は。隙があればすぐ争い出す。この程度ならまだ平和か。魔法を使い始めたら止めれば良いか。止めたらやめてくれるくらいの理性くらいは残っていると良いが。
「「おかえりなさいませ」」
「ああ、ただいま」
出迎えてくれた使用人達にそう告げて私は自室の服飾倉庫と化しているウォークインクローゼットに生地を置いた。この後は夕方の鍛錬があるので作るのは明日以降になりそうだ。
今回の登場人物
・セレーネ・バークレイ(13)
・アレクセイ(14)
・カイリ・バークレイ(15)
・ロルフ
・シサーカ