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15,契約


 翌日は地面に叩きつけられる雨音で起きた。なんか当たったら痛そう。



 ベッドを覗く。氷竜はまだ眠っている。もう一度、温かく濡らしたタオルで体を拭き、過剰に傷を刺激しないように寝返りをうたせた。流石に同じ格好で寝ていると床擦れで新たな傷を生み出しかねない。 


 朝の鍛錬の時間になったのでベッド脇のチェストの上に水だけ置いて部屋を出た。戻る頃にはまだ起きないかもしれないが一応、念の為に。



 今日は雨。中庭は雨が入らないようにしてあるのでそこで柔軟などをやる。自分の周りに結界を張って外周を走る。これは私の朝のルーティーン。結界を張るのは雨予防もあるが、常に魔力を使う訓練をすることで魔力欠乏などで戦闘不能になるのを予防する意味もある。



 最も、領地ごと転移したとかいうあの時のは除く。あれはレアケースどころか戦闘では絶対ないから。精々自分の転移くらいだろう。まあ、それも転移陣がないとできないが。つまり私はできないね。ハルイお兄様ならできる。


 よほど油断をしていなければ負けないのでよし。



 カッカッカッっと規則正しいリズムを刻むのは心地が良い。




 朝4時半から6時までは鍛錬の時間。それが終われば部屋の風呂に入る。本来ならメイドに着替えも入浴も全て任せるものだが恥ずかしいので自室の風呂でしている。洗濯も、下着だけは自分で洗うし。


 だから正直氷竜の体を拭くときは辛い。女性相手でも恥ずかしいのに男性の裸を見るのはもっと恥ずかしい。目のやり場がない。だからといって目を瞑れば傷にダイレクトアタックしてしまうかもしれない。


 セイも全て1人でやっていたようだしこの気持ちはわかってくれるはず。



 同じ性別だしロルフにやってもらおうかとも思ったがロルフの指は尖った爪があったことを思い出し、仕方なく私がやっている。


 「ふぅ…さっぱりした」

 タオルで髪を拭いているとき少しだけ声が聞こえた。



 『セレーネ、ごめんなさい』 



 振り向くと額に汗を浮かべた氷竜がいた。潤んだ瞳でこちらを見ている。


 「何がごめんなさい?」


 私には謝罪の真意がわからなかった。確かに精神干渉は大変だったけど幻の竜と会えたことに変わりはないしもっと話してみたいとも思ったほどだ。


 『ボクはセレーネを殺そうとした。その立場でいきなり変なこと言って困らせた。どうしても会いたくて勝手に部屋に入った。自業自得なのに応急処置までさせてしまった。だから、ごめんなさい』


 私はベッド脇チェストの前に椅子を持って行ってそこに座った。少し額に触れると熱を感じられる。


 「別に私は怒ってない。怒りに任せて君を傷つけたのはこちらだ。父と黒竜が君を傷つけた。説教したら反省したようだけど君を凶暴な存在だと思っていたことに変わりはない。私は本当の君と喋ったことがあるから違うって言えるけどね。ここで君が傷ついた。手当てをしないのは非情だろう?」


 『セレーネ、ボクはあの時変なこと言ったけど、本当はキミの魔物の子みたいに、契約したかった。初めてボクのことを、ボクの気持ちを知ってくれて、それでもボクを否定しないでいてくれた。

 キミがもし許してくれるなら、ボクはこの命を捧げるよ。一生キミに従う。それを、伝えたかったんだ』


 氷竜と契約、か。悪くはない。周りの反応が若干気になるところだが黙らせる。決闘で。


 「そうか。私と契約か。一度結んだ契約は二度と破棄できない。私が死ねば契約した者も死ぬ。反対もある。今のはそれを知っての言葉?私は自分の身は自分で守れる。でも黒竜クラスの敵なら確実に死ぬ。それでも良いのか」


 『セレーネはボクが守る。セレーネを死なせたくない』


 「私を死なせたくないなら君も死んだらいけない。契約とはそういうことだよ」


 『うん。知ってる』


 「わかった。君の名前は――」


 私が氷竜の名をつけた瞬間、氷竜の体が淡い虹色に光った。






 『シサーカ、ボクは今日からシサーカだ』






 噛み締めるように私のつけた名を繰り返し口に出す。


 「んで、何で怪我が治ってるの?」


 虹色の光から解き放たれた氷竜、シサーカの傷は無くなっていた。


 『契約を結ぶと一度リセットされる。だから割れた頭の骨も破裂した内臓もなかったことにされるよ。ありがとう、セレーネ。今日からボクはキミの従者だ』


 「契約したくらいで喜んでくれるならまあ良いけど。そのうち服も作らないとな。今度買いに行くからそれまでは竜の姿でいるかバスローブ着てて」


 私はシサーカの手当てがしやすいように前で開けられるバスローブを着せていた。


 『あ……///』


 シサーカは今の自分の格好を見て顔を真っ赤にした後すぐに小さな竜の姿になった。私はそんなシサーカを抱えてお父様のいる執務室に報告に向かった。事後報告だ。


 お父様は契約したことに対して良い顔をしなかったが絶対に破棄することができないので最終的には可と言うしかなかった。作戦通り。


 ロルフはヤケクソでシサーカに決闘を申し込んでいたが結局負けていた。子供同士の喧嘩かよ。



 後から聞いたことだが、氷竜の能力はアイスクラフトらしい。氷の彫刻や氷の城が作れるそうだ。私も使えるようになったことだし今度やってみよう。




 あ、あと私はセイと婚約した。今日。


今回の登場人物

・セレーネバークレイ(13)

・氷竜(以後、シサーカ)

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