14,大告白事件からの事件2
私達は一度鍛錬を中断し、壁が崩れ落ちた場所、私の部屋に向かった。間違って誰かが落ちないように穴はロルフが結界を張って塞いでいる。
廊下がざわざわしている。
「何があった?」
何か知っているかもしれないと思い、使用人に聞いてみる。
「えっと…見ていただくのが一番かと…」
言われるがままに入室するとそこは酷いものだった。
「えぐ……」
大切なものは基本的に亜空間に入れて常に持ち歩いているので壊れているのは家具などだけだが羽毛布団は引き裂かれ、鏡は粉々になっている。そして床だけでなく壁まで血だらけだ。
要は、足の踏み場がない。ベッド脇の壁はほぼないので景色は抜群だ。直すのが面倒だったら全部窓にしよう。
…って違うだろ。
部屋の真ん中には綺麗な白い髪をもつ少年、そしてお父様と黒竜。
「何をしているのかな?」
私達が来たことに気づかないくらい興奮状態にあったのか、2人は私を見てギョッとしたような顔をした。そんなに驚くことか。
ハルイお兄様は部屋の外にいる。妹とはいえ女性の部屋に入るのは憚られるのだろう。カイリお兄様は王宮なので不在。
「ここは私の部屋ですよ、お父様、黒竜。何があったのかは分かりかねますが2人がかりでタコ殴りにしたのですか?」
少年の方は血だらけで意識を失っている。
『セレーネ、これはセレーネの精神に干渉して殺そうとした、幻とも言われる氷竜だ。良い噂は聞いていなかったがここまでとはな。セレーネの部屋に来て直接危害を加えようとするなど』
黒竜がそう言った。そういえばなんか声が流れ込んできたな。私に夢の中でだが求婚してきた少年は彼か。
「お父様、黒竜。彼のことは私が許しました。それに悪意は感じられません。とりあえず、傷を見るので彼を解放してください」
この子が私に危害を加えるとはとても思えない。渋る2人を半ば押し除けるように近づく。
『解析魔法』
これは上位魔法で王宮の魔術師団と呼ばれる組織の中で隊に1人居れば良いというくらいのレア魔法だ。私は気合いで使えるようにした。魔力が多く、努力すればいけるのでは?という考えだ。ザ・楽観視。
怪我の部分が浮き上がってくる。
頬の骨に亀裂が入っている。内臓も大分損傷していて頭蓋骨も割れている。これは人間なら確実に死んでいる。
「酷い怪我だ」
恐らく私の命が危険に晒されていたから怒りにまかせて大怪我をさせてしまったのだろう。全く…本人の意向も聞かずに。仕方のない大人達だ。根は悪くないのだが興奮すると少々周りが見えなくなるのが困りダネだ。
私はささっと風魔法で羽毛を吹き飛ばし、予備の布団を新しくベッドに敷いてその上に置いた。メイドがやろうとしたが丁重にお断りした上で部屋に結界を張った。
これで黒竜以外は入れない。が、黒竜はしょげているのでいるのは実質私とこの子だけだ。
服を脱がし、火魔法と水魔法でお湯を作り、タオルで汚れた体を拭く。違う種類の竜なので当然拒絶魔法は使えない。応急処置をして安静にして自然回復を待つしかない。
応急処置を終え、お父様と黒竜に説教したら部屋を片付ける。まだ結界を張っているので誰も入れない。
これを機に部屋をリフォームしてしまおう。ベッド脇を全部窓にするのでベッドの位置から変えねば。とりあえず壁をなんとかしよう。
仮でベッドを部屋の真ん中に置いて土魔法で壊れた部分を上書きする。凸凹があるところに新しく流し込むイメージだ。ぺちぺちと軽く叩き、固まったことを確認したらロルフの張った結界を解く。
風魔法で自分を浮かせて外側を装飾する。色付けは昼で良いだろう。ある程度形ができたら中に戻って血だらけの壁紙とカーペットを剥がす。そのうち捨てよう。血は完全には落ちない。そして私の部屋の床も壁も白っぽい。床は完全に白。壁はアイボリー。血が目立つ。
入り口から見て左側にベッドを置いた。天蓋などはついていないシンプルなデザインでフレームは黒、シーツは白だが毛布は黒。全体的にモノトーンだ。ソファーだけブラウンの革だがそれ以外は大体白か黒。ベッドに合わせて壁紙も床も変える。また買いに行かねば。
私は家具の素材には拘りが強いのだ。わざわざ国外に買いに行く。商人を呼べという話だがやはり自分で選ぶ方が良い。
あらかた片付けを終えた私はソファーに毛布を置き、そこで一夜を明かした。流石に心に決めた相手がいる中で他の男と添い寝する気にはならないから。
今回の登場人物
・セレーネ・バークレイ(13)
・ハルイ・バークレイ(18)
・アリオ・バークレイ
・黒竜
・氷竜(意識不明)