13,大告白事件からの事件
大告白事件の後。ただ今、私はピンチに陥っている。
「あ、あの…セイ、近くない?」
私の心臓の音まで聞かれてしまいそうなくらい近い。
「近くないよ、セレーネ。夢の中で僕以外の誰かに求婚されたんでしょ。誰かは知らなくて良いけどセレーネが奪われるのは我慢できない。どこにも行かないように閉じ込めていたいくらいなんだ」
「閉じ込められるのは嫌だなぁ」
恥ずかしさで蒸発してしまいそうだが私はセイには抵抗できない。いや、できないことはないができない。力では私の圧勝だが惚れた人に危害は加えられない。私が全力で抵抗すれば確実に怪我をさせてしまう。だから抵抗できない。
あ〜(泣)なるべく早く忘れてくれますように。
まあそんな願いも無駄なようで。
例えば私が訓練場に行こうとすると「僕も行く」と言う。ロルフがいるからと言っても「僕も行く」を貫き通し、結局勝負の見学をされる。
セイも一応剣術は齧っているようだが私やロルフには絶対勝てない。だが、その穴を埋めるかのように見学してからのセイの腕はメキメキ上がっているのだが。
剣術指導の先生が顎外れるんじゃないかというくらいに口をあんぐりと開けていた。驚いているらしい。私だって驚いている。
大体、体ができてくると体力や身体能力は伸びにくくなるはずだ。実は14歳を名乗る歳下とか?んな訳ないか。
私より歳下で私より恋愛テクニックがあるのならそれは前世でモテまくった人か恋愛小説を読み漁った人くらいだろう。ちなみに私はセイの顔が近づいただけでもアウト。頭がパンク寸前になる。そんな私を見て「セレーネ可愛い」と言われるともはや意識を保つことすら困難になる。
思い出すだけで顔が熱くなってしまう。体調不良の方がまだマシなのではと思う。
「セレーネってちゃんと女の子なんだな」
地面に座る私と膝に顎を乗せてくるロルフ。犬かよ。……一応、犬だな。
「それは…慣れてないし。ロルフもどうせ恋人の1人2人いたでしょ。イケメンだし。それなら今の私の気持ちは共感できないんじゃない?昔は違ったかもしれないけど」
私が口を尖らせるとロルフは少し考え込んだ。
「群れにいた時に恋仲にあった奴はいたな。でも、振られたよ。セレーネに負けて、忠誠を誓って。そしたら弱い男は嫌いだ、と。あっさり鞍替えされたし、きっと前から浮気をされてた。信じていたからショックもあったけど怒涛の日々すぎて忘れていたな」
「弱い…ロルフが?最近は私も危機感感じてるけど。当時の私が昔のロルフより強かっただけじゃない?今はギリギリ勝ててるけど明日はわからないし」
ロルフでも振られることはあるんだな。なんか今の話の振り方、申し訳ない。
「ああ、俺はそれなりに強かった。でも、仲間が敵視していた人間との真剣勝負で負けて、たかが人間にも勝てない弱い男ってレッテルを貼られて半ば追い出される形でセレーネについていったんだよ。群れの中で俺より強い奴はいない。あの時はなるべく穏便に済ませたくて仲間が逃げられるだけの時間稼ぎをしたんだけどな」
「ここでの生活は幸せだ」と言ったロルフは二度と群れに戻ってほしくない。
本人が望むなら止めることはできない。でも、ロルフは数少ない友人みたいな存在でもあるから。
「ロルフが傷つくなら私は傷つけた奴タコ殴りにするけど」
参りましたって言うまで徹底的に。いや、言ってもやる。
「平気だ。俺はセレーネの従者でいることが一番の幸せだから」
頭を撫でる私の手に気持ち良さそうに頬擦りをした今のロルフは犬の姿のはずなのに甘えるイケメンが見えた。やはりこやつ、強いな。顔も。わかってはいたが。
しばらく上を向いて風に流される雲を眺める。セイが剣の稽古をしている音をBGMに、ゆっくりと目を閉じる。眠ってしまう直前、公爵邸の壁がガラガラと崩れ落ちた。私の真上だ。
ロルフがすぐさま人の姿になって結界を張ってくれたから直撃は免れたがそれがなければきっと下敷きになっていただろう。驚きのあまり反応が遅れた。
「セレーネ!大丈夫?怪我してない?」
切羽詰まった様子のセイが私の肩を掴んで聞いてくる。若干涙目だ。
「うん、平気だよ。ロルフが結界を張ってくれたから。訓練場の外に出たのがいけなかったね。次からは中にいるよ」
「そうして。全身の体温持っていかれたかと思った…」
ぎゅうぎゅうと苦しいくらいに抱きしめてくるセイを、まあ今くらいは、と受け入れた。
それにしても…誰だろう。
拒絶魔法で結界を張ってあるから悪い奴は入ってこないだろうけど。屋敷関係者だったりして。…違うか。
その時はのんきにそう思っていたがまさかすぐ後に真実を知ることになるとは思っていなかった。
今回の登場人物
・セレーネ・バークレイ(13)
・アレクセイ(14)
・ロルフ