表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/41

1,発覚

2作目です。前回は男の子主人公だったので女の子を主人公にして書きました。令嬢感はあまりありません。


 「なんなのよこのまずいお茶は!この程度もできないで王家に嫁ごうって言うの!?やり直して!」


 そんな怒声が王宮の一室に響き渡る。声の主は私、セレーネ・バークレイの婚約者のハルトナイツ殿下の母である王妃。そして私はと言うと、頬を叩かれた挙句、かけられた紅茶で濡れて無様な姿で床に座り込んでいる。


 ああ、またこれかと内心イライラする。最近はずっとこれだ。毎日毎日妃教育という名の王妃のストレス発散の道具として扱われている。

 そしてその婚約者は男爵家のパルレラとかいう令嬢にお熱でなにもしてくれない。思えば最初から扱いは酷かった。


 私が婚約したのは9歳の時。当時の私には町で会ったセイという好きな人がいたが王命といえば断ることもできず、嫌々ながらも結ばれたものだった。


 初対面で放たれた言葉は挨拶ではなく「気持ち悪い」の一言だった。「こんな不細工が婚約者だなんて信じられない」と、そう言われた。

 私が不細工なわけないだろう。親兄妹があり得ないくらい美形で私だけ不細工ならそれはバークレイの子ではない。まあそんなことを言う訳にもいかず、私は「申し訳ございません」と頭を下げた。正直力では私の圧勝だが立場、身分がこちらの方が下だ。表情を消して感情を殺した。


 「次会う時までにその見た目をなんとかしろ」と言われたので次は眼鏡をかけた。


 「不細工が目立つ」と言われたので前髪を伸ばした。


 「陰気だ」と言われた。


 もうどうしようもない。黒い髪と赤い目は黒竜の加護を持つ証。それを気持ち悪いと否定するのは黒竜自体を否定しているということ。悔しくて仕方がなかったが何も言い返せなかった。

 そのせいで格下であるはずのハルトナイツ殿下の浮気相手の男爵家にもバカにされる始末。


 「ちょっと!聞いているの!?全くこんな愚図が息子の婚約者だなんて私は恥ずかしいわ!もう早く掃除して帰ってちょうだい!」

 「申し訳ございません。今、すぐに」

 現実に戻ってきた私は湧き上がる怒りを抑えて頭を下げた。


 翌日。


 「あ!ハルトナイツ様ぁ〜、今日もお弁当ご一緒しませんか〜?パルレラ、ハルトナイツ様のためにお弁当を作ってきましたの〜」

 「パルレラ。ああ、じゃあいつものところで」

 私は一体何を見せられているのだろうか。まあ見るまでもなく婚約者とその浮気相手の逢瀬の現場だろうが。これは見つかる前に退散するが勝ちだな。


 「あら〜?セレーネ様じゃないですか〜。相変わらず陰気くさい格好してるんですね〜。そんなのでよくハルトナイツ様の隣に立とうだなんて思えますね〜。あ!もしかして鈍臭いから気づいてないとかですか〜?」


 何も言わずに退散しようとした私を男爵令嬢はわざとらしく呼び止めた。振り返ると彼女は婚約者の腕に胸を押し付けているし婚約者は満更でもなさそうな顔だ。本当に反吐が出る。確かに私は女性らしい部位といえば肩幅や筋肉のつき方くらいだがそこを気にしたことはないし胸など戦闘では邪魔でしかないと、なくて良かったとまで思っている。

 胸を押し付けるその行為は恐らく私の体を馬鹿にしたものだろう。ダメージはないが。


 「パルレラ、あの女に構う必要はない。せっかくの飯が不味くなる。おい愚図、早く消えろ。視界に入るだけでイライラする」

 「申し訳ございません」

 正直婚約者でなくてもこの態度はどうかと思う。


 「セイは、あんなのじゃなかったな。会いたいな」


 心の中でつぶやいたその言葉は誰にも聞かれることなく空虚に消えていった。


 学園が終わるとまた王宮に直行だ。ただ、1人で行ってはいけない。必ず婚約者を連れて行かなければ王妃にまた殴られる。まあ殴られる前から馬車の中で血を流すことになったが。


 「お前のせいでせっかくの昼食が台無しになったじゃないか!それにパルレラはずっと睨まれて怖かったと言っていたんだ!普段からいじめをしていたに違いない!もううんざりだ!卒業パーティー、覚悟しておけ!」


 そんなこんなで馬車内の装飾に頭を掴まれてぶつけられているのだ。そんなことして何が楽しいんだろうか。少なくとも私は楽しくない。頭がガンガンする。こんな状態でアレに会いに行くのか。勘弁してほしいものだ。


 暴力に耐える時間が終わり私は相変わらず無様な格好で王宮を歩いている。私のオリジナル魔法、幻影魔法で傷を見えなくすることも考えたが我慢の限界だった。甘ったるい紅茶をかけられたのでベタベタして非常に気持ち悪い。


 「セレーネ…?セレーネ、なの?どうしたのその格好……誰かに何かされたの…?」

 震えた声が聞こえて振り向くと町で会ったセイが立っていた。

 「セイ……王宮関係者だったの?」


 セイは婚約してから一度も見ていない。年が違うこともあってか、学園にもそれらしき影はない。

 「一応、王子だけど…セレーネ、誰に何されたの…?教えてくれると嬉しい」


 真っ青な顔して私を見るセイにこれ以上の心労は酷かと思ったがここで逃げようにも逃げられない。

 「ここでは話したくない。人がいないところに行きたい。護衛が外で待機してるからそこまで行きたい」

 「……わかった。そこまで一緒に行こう」


 エスコートをしてもらったのはいつぶりだろう。思い出せないくらい昔か、エスコートをされたことがないか。考えても無駄だ。

 城門まで行くと、私の護衛であるロルフが見えてきた。私の格好を見てその体を硬直させた。


 家族に、話せると良いが。


今回の登場人物

・セレーネ・バークレイ(13)

・ハルトナイツ・ウィルバイツ(16)

・アレクセイ・ウィルバイツ(14)

・パルレラ

・ウィルバイツ王国の王妃

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ