意外と有能な変態
ペシペシと当たるのは天使のアホ毛である。鼻にもぞもぞとふわふわななにか、そして手には柔らかな感触がある。
「うぅ…にしゃまっそこは、、、めっなの…」
「……………すまない」
柔らかなものの正体はセレーナのぽっこり出ているぽっこりボディであった。
「セリィ、今日はデー」
デートでもしよう。そう誘おうとした時、メイドが入ってくる。
「チッ………」
「ルーク様。奥様がお呼びです。」
その後も、家庭教師による授業後、昼食後、トイレ……次の日、また次の日と続いていく。呼ばれて何をするかは良くわからん。ただ、お茶を飲むだけ。終いには「お嬢様は私が担当いたしますので、ルーク様は奥様とお過ごしください」とメイドがセレーナの部屋に入らせないようガードをする。茶会を断る方法もあるが、設定上ヒステリーを起こされると困る。
「まずい。このままでは、セレーナは…」
悪役令嬢まっしぐらだ…今頃、使用人に何をされているか分からない。せめて、、、
「監視カメラでもあれば」
『無ければ作ればいいではないか?』
「そんなこと簡単にできるわけないだろ」
『はっ…お前のセレーナへの愛はそんなものか』
「は?んなわけないだろ?俺は誰だと思ってる?」
これまで数々の困難を乗り越えてきた。ストーカー中のストーカーだ。天使は今も助けを求めているだろう。
「動くとしたら…夜だな」
この世界には電気というものが存在しない。すべて魔法によって補っていると本には書かれている。例えばこの照明は魔石に魔法陣が組み込まれており、少しの魔力に反応し、装置が作動する。
魔法がある世界なら監視カメラもあるだろうと思っただろうが、この世界の文明は少し、いやだいぶ遅れている。
魔法のポケットから簡単に完成された物が出てくればいいのに。ぐちぐちと愚痴を呟いても仕方がない。
夕食後、使用人に連れてかれるセレーナを心配しつつ、作業に取り掛かる。時刻は夜中そして朝、翌日となり、研究を重ね、ルークの目の下には黒い隈ができていた。
「これは完璧ではないか?小型化したカメラにはもちろん録画機能そして音声録音機能、またセレーナが危険に晒される時に警報装置も搭載されている。なんと、人物を認識して追跡するドローンにも…、、、これは前世で欲しかった…」
己の才能に驚きつつ、ルークは使用人が動かない時間を狙って、カメラを設置した。
まずは、セレーナの部屋。もちろん浴室やレストルームにもある。カメラを使って天使を眺めてあんなことやこんなことをしたいなど、、、これは決して邪な気持ちはない。全ては悪役令嬢への破滅ルートの回避のため。
「どれどれ、セリィの様子は…おお、可愛い。ぐっすり眠っているね。ぷっくりとしたモチモチの肌が…ってまずいぞ。寝てないから思っている事が全て口に出ている。」
そして、念には念を入れ父、母、使用人、全てを監視する。モニターからは今の所異常はなし。
動きは昼過ぎに起きた。使用人3人と母親であるエレオノーラ。何やら揉めているのか。
「エレオノーラ様やはりここから離れましょう?エレオノーラ様によくありません。」
「そうかしら…でも…」
「当主様も当主様です。エレオノーラ様へあんな扱いしておきながら、離婚はしないだなんて。」
「利益の問題があるからでしょう」
「だからって…あんな養子まで…」
「…私はルークとこの屋敷から離れたい。そのために、あの人には離婚の許可がいただけるよう話すしかない。だから、今は我慢するしかないのよ。」
まさか離婚の話をしているとは、そんなこと設定ではあったのだろうか。教えてくれよ前世の同僚よ。だが、離婚してしまうと、セレーナがこの屋敷で1人となってしまう。シナリオとは違うがそれでいいのだろうか。離婚する可能性は低いが…
両親の不仲が原因としてあるが、エレオノーラがセレーナに対する不満がたまり虐待してしまうという線が濃厚だ。
「私はルークの部屋へ行きますね。」
後数分で母が来てしまう焦るルークだが、母親と近しい使用人が出ていき、残った2人の使用人の様子を観察する。
「はぁ…奥様は大丈夫かしら」
「そうね。あーは言っても、旦那様は奥様のこと愛してらっしゃると思うのだけど」
「そう?隠し子を連れてきているのよ?」
「本当に隠し子かしら…だってセレーナ様は旦那様に似ていないじゃない。ルーク様と比較してみて。分かるでしょ。」
「確かに…似てないかも。眉間に皺寄ってないし。ルーク様みたいに怖くないものね」
『チッ…怖くて悪かったな!』幼いルークはそう言うとまたルークの中に引きこもる。使用人から怖がられている事は分かっていたが、実際に言われると傷つくものである。大人な変態は軽蔑という目で見られ慣れてるので気にしないが。
「それにね、奥様は気づいてらっしゃらないかもしれないけど、別居中に贈り物があったでしょ?あれ絶対に旦那様からだと思うの。」
「どうしてそう思うの?手紙も無いし分からないでしょ?」
「見て少し考えればわかるわ。あれは───」
コンコンとノックの音にモニターを消すと、ルークはドアを開けた。目の前には優しく微笑む母。そして、一歩後ろに眼鏡のかけた使用人がいる。
「ごめんなさいね。少し顔を見たくて。ルーク、庭で少し散歩でもどうかしら?」
「はい」
奇麗な庭に日傘の影が濃く出て、キラキラと花が咲いている。何を話せばいいか分からず、ルークは視線を屋敷へと向けた。
「…………………は?」
小さな声は近くにいる使用人の耳に届かない。それには安心するが別の事に動揺して確認をと何度も見てしまう。あの目は、、、ストーカー特有の熱い視線。小さな窓にレースのカーテンが揺れ、姿がしっかりと現れる。
『まじか、、、お前とお仲間じゃん』
もう一人のルークはそう言うと、気持ち悪い物を見るような冷めた視線を向けていた。
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人が寝静まった時刻、気になっていた事があり、ルークはモニターを確認する。そう、これを見れば破滅ルートを回避できる…訳では無いが、上手くいけば少しだけ未来を変えられる。
▶再生
「それにね、奥様は気づいてらっしゃらないかもしれないけど、別居中に贈り物があったでしょ?あれ絶対に旦那様からだと思うの。」
「どうしてそう思うの?手紙も無いし分からないでしょ?」
「見て少し考えれば分かるわ。あれは、旦那様の色だもの」