運命の出会い
学校帰りに寄り道をしている女子高校生、仕事帰りに飲みに行くサラリーマンやら人通りが多い道。足音や五月蠅いくらいの笑い声が聞こえるいつも通りの日常。
そんな日常の中に一人の男は平凡に過ごしていた。
「はぁ……癒やしが足りない」
スマホを取り出すとロック画面には、とあるアイドルの写真が写っていた。
「…今日のももたんも可愛い」
ニヤニヤしている姿は他者から見ると不気味で気持ちが悪いだろう。だが、他人のことなど気にしない。
「ライブまであと1ヶ月…」
そんな幸せを感じていると、背中を押されたような気がした。
ドスッ
背中に走る激しい痛み。押されたのではない。刺されたのだと気づいた時には遅かった。
「きゃぁぁぁあ!!!!!」
女子高校生の悲鳴により周りの人達も状況に気づく。
「人が刺されたぞ!」
その場から逃げる人もいれば、スマホで動画を撮る人もいる。包丁を持った男を取り押さえようなど考える人は誰もいなかった。
(何故、俺が…)
「だ、、れ、か、、、、」
死ぬわけにはいかない。推しのライブを観るまでは死ねない。死にたくない。
男を刺した犯人は人混みに紛れ姿を消し見えなくなった。
「大丈夫ですか!!」
誰かが男に駆け寄るとポケットから出したタオルで傷口を押さえている。
たまたまだろうか、それともこれが最後の人生だからと神様が慈悲を与えたのだろうか。その声は好きな人に似ていた。
「もうすぐ救急車が来ますから!諦めないで下さい!!」
少しでも希望があるのなら…だが、天気は味方をしてくれなかったらしい。
ぽつぽつと身体に打ち付けるように雨が降り、排水溝へと赤く染まった血が流れていく。意識も朦朧としてきて寒さという感覚は無くなり、歪んだ視界は白黒へと変わった。
誰かが俺の手を握ったように見える。その誰かは……
─────…
ハート・アット・リングル───なんとも可愛らしい名前は歴史ある王国の国名である。誰しもが魔力を持って生まれ、魔法が日常的に使われる。そんな王国の侯爵家に生まれたルーク・キャンベルは金髪と青眼というクールな風貌でありながら不機嫌に立っていた。
「今日からここの家族となる。お前より5つ下の義妹だ。」
自身より身長のある同じ顔の男は言った。同じ顔ということで男は自分の父親だということを理解する。
そんな父親の一言に雷に打たれたような衝撃が走った。目の前にいる天使からは天使の輪っかならぬキューティクルが凄い。
くりんとしたお目目。小さな唇。
全体的に白く、細い体。3歳児のガキとは思えんほどの大人しさ。クリーム色の髪がふわりとそよ風になびいた。
はぁっはぁっはぁっ!!!!
なんだ…この気持ちはっ!
この気持ちはなん〜だろぉ〜♪
トゥンクとリズミカルなビートがルークの中にあった記憶(前世)を呼び起こす。
「………(乙女ゲーム、悪役令嬢……)」
そう、思い出してしまったのだ。ここは、前世で元同僚が好きだった乙女ゲームの世界であると。ちなみに我が義妹は未来で悪役令嬢とともに断罪されるのだ。ポジションは悪役令嬢の周りに群がるモブ。
そして、ルークは悪役モブ義妹の義兄で、異世界転生しちゃった前世はアイドルの元ストーカー。
「(自分のことはいい。それより、問題なのは…義妹が可愛いすぎる!!!!)」
無言なルークの様子に気づき天使の顔が強張る。
ルークの顔は真顔だと怖い…笑っても怖いが…。
「(自慢ではないが人1人殺してきましたって顔をしているからな…自分で言ったら悲しくなってきた。)」
「よろしく。俺はルーク。お前は?」
「……しぇれーなでちゅ」
父親の後ろに隠れて上目遣いで挨拶をする天使。まさに小さな美しい鳥の鳴き声のようだ。
舌っ足らずな義妹を愛らしく思いルークの口角が少し上がる。
「ふぇ……」
今にも泣きそうな天使は瞳をうるうるとさせた。答えは明白である。目の前にいる男の顔のせいだ。
「ルークはセレーナを部屋まで案内するように」
ビクッと天使の肩が揺れる。
(父親ー!流石に天使が可哀想。こんな鬼のような顔の俺に案内なんて。今にも泣きそうじゃん、、、天使。)
「・・・。行くぞ」
なるべく怖がらせないようにしても、思ったことと言葉が違いすぎる。こんな無愛想な人間ではないのだが、8年間捻くれていたルークの自我が強いため、前世の自分では制御ができない。
セレーナの前を歩き部屋まで案内すると、後のことはメイドにまかせ、ルークは自室へと逃げた。
ドアの鍵を閉める背筋がヒヤリとした。これは不味い状況だという事、男の中にある警報が鳴り響いている。だいたい乙女ゲームとはなんぞや?なにそれ、美味しいの?とぶつぶつ言いながら、カオス状態な頭の中をノートに書き状況を整理していく。
セレーナは見た限り酷いことをするような人間には見えなかった。という事は今は純粋な子どもであるということ。
───始末すれば簡単だ
頭の後ろでは8歳のルークが悪魔のような提案をする。
───いや、駄目だ
前世のルークが頭を振る。前世のルークがいた日本は平和であり、道徳教育もあった。人を殺せるような人間には育っていない。
なによりあの純粋な瞳を見ると、この先の未来をあの天使を守りたいという気持ちが強くなる。
ならばどうすればいいか。答えは簡単だ。セレーナが悪役令嬢にならないように、すればいいだけの話。
───失敗したらどうする。巻き込まれて最悪死刑だ
8歳のルークは優秀らしい。このまま進めばどうなるか未来を分かっている。だが、、、
───お前にできない事はない。怖気づいているのか?
──────…
「はぁ…今日も残業すか?」
「まぁな」
記憶にある前世の同僚がスマホを取り出すとぺちゃくちゃと話しだした。
「見てくださいっす!ハトプリ!王子ルートまであと少しっす!でもこの悪役令嬢が鬱陶しくて…その取り巻きのセレーナはやばいっすわ…元平民?んで、それから養子に引き取られたらしいっすけど、貴族の世界で上手く行かなくて性格がネジ曲がってるすよ…顔は可愛いんすけどね。それに…」
「へー…」
同僚の話は右から左へと流れる。真面目に聞かなかったため、少ししか内容が覚えていない。唯一、覚えていると言えるのはゲームの名‘‘ハートのプリンス、略してハトプリ’’だけ。
「それでですね、これ乙女ゲームなんですけど、セレーナは悪役令嬢に好意を抱いてるっていうガールズラブも入っていて、、、」
は?天使が悪役令嬢を?
なぜそうなるのか気になって記憶を探るが思い出せない。
無理だ。お手上げ状態。よくある転生モノならば前世でプレイしたことのある乙女ゲームだから未来は変えられると意気込むことができるが、ルークの場合はほとんど覚えていない。というかゲームをプレイをしたことが無いのだ。
──使えねぇ
小さいルークは呟く。グサリと胸に刺さるが、その通りで何も言えない。
前世(記憶)は期待できないため、他を考える。
何かいい方法は無いだろうか。例えば特技。
特技は前世でアイドルのストーカーをしていたことだけ…
「まてよ?この方法があったではないか!」
簡単だ。今世でも趣味をすればいいだけだ。
対象が義妹になるため、ロリコンいやシスコンと思われても仕方ない。全ては義妹の人生を守るために。
こちらでは初めての投稿です。使い方もよく分からないです。生暖かい目で見てやってください。よろしくお願い致します。