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毎週千文字短編 1 天気予報と現代人

作者: 大谷乱介

 雨雲レーダーが反応した。

 午後から雨が降るみたいだった。未来予知みたいでワクワクする。

 洗濯物を取り込みながら遠くの雲を眺めてみる。しかし、僕にはよくわからなかった。

 洗濯物を取り込んで少しすると雨が降り出した。小雨だが、決して傘を持たずに歩きたいとは思えないほどの雨だった。しばらくは続きそうな憂鬱な雨だった。

 

 昔は雨が好きだったような気がする。いつだって今を生きていたあの僕が最強だった頃。

 乾き切らない洗濯物もびしょびしょになったランドセルにも気にかけず天からの恵みを一身に受け止めた。そして道端で踊り狂った。

 もしかしたら僕たちは雨が降ったら踊り狂うべきなのかもしれない。なんのしがらみも捨てて神に感謝するべきかもしれない。

 それが技術の進歩による未来予知で先の天気を把握して家に引きこもるようになった。

 これは果たして進化と言えるのだろうか。

 思考の海に溺れそうになった途端、家のチャイムが鳴った。

「やっぱり雨が降ってきた」

 彼女はずぶ濡れで玄関に立っていた。急いでタオルを手渡すと、一つ身震いをしたあと体を吹き始めた。

「おかえり」

「ただいま。それでさ、お兄ちゃん洗濯物取り込んでくれた?」

「入れてあるよ。見ればわかるでしょ」

 どうやらそれが心配で走って帰ってきたらしい。あまり兄を舐めないでいただきたい。

「それは良かった。昨日から雨降りそうだったしなぁ」

「は?」

 その言葉を聞いて一瞬思考が停止した。昨日から雨が降ることがわかっていたのか?

「は?って、雲の形と速度見れば大体明日雨降るかどうかわかるでしょ」

 本当の未来予知とはこのことかもしれない。いつのまにそんな能力を手に入れたんだ。

「なのにお前は傘を持って行かなかった」

 彼女の傘は乾いたまま玄関に刺さっている。

「だって、雨って楽しいじゃん」

 

 その後妹は帰ってきた母親に盛大に説教された。その最中も納得がいかない様子だったがとりあえずは謝るしかないようだった。

 

 ふと思う。彼女は未来予知のできる未来人なのだろうか。雨を喜ぶ原始人なのだろうか。

 僕はそのどちらにもなれず、未だ現代人のままである。

 

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