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「これって 腕輪の持ち主が下層から上がってきたって事なのか?」
私の記録はダンジョン探索中に通り過ぎた順路の魔力の反応とパーティー付近の映像だけでダンジョン全体を見られるわけではないだがパーティーが3階に降りた後に入れ違うように2階に上がった魔力反応と3階深部から上がってきた反応があった事を僅かな反応で捉えていた
「休憩中の探鉱者にちょっかい出してたのは間違いないわね」
ロレーヌが会議室の魔力で書き示せるホワイトボードの様な記録板に行動予測を書き込みながらそう呟く
「目的がいまいちわからねぇな」
バージルが腕輪から何かのジャーキーを出して咥えながら頭をポリポリと掻くその後ろではポーラがお茶を淹れ始めた
黙々とロレーヌがいくつかの可能性を記録板に書き出すと頷いては斜線を引いてと考えを詰めている様子だったのでポーラにお茶を頂くとサッと差し出されたお茶うけを噛みながらその様子を眺めていた
「フリオやバージルの経験的にこの相手は誰だと思う?」
10分ぐらい記録板と状況の記録をにらみながら予測に行き着いたであろうロレーヌが意見を求めてくる
「手口と装備から言って余程の金と腕と教会にコネがある裏家業の傭兵チーム」
「リンディス教団とかね」
バージルの返答に重ねるように私が答える
同じ結論だったらしいロレーヌが深くため息をついた
「仮にそうだとして目的は?」
ロレーヌがさらに質問を重ねてきたがさすがにバージルは両手を仰いでわからないとハンドサインを出す
「確か最近このダンジョン採掘者が不足してて3Fの大型採掘出来てなかったはず」
「不足の原因はお貴族様のごたごたのせいでしょ?」
「あー半年前ぐらいにダンジョンコアの相続を誰にするとか言ってたなぁ」
私が近況の話題を伝えるとマーセラとバージルがそれに反応する
「リンディスが暗躍するにはちょうどいい機会じゃない?内部のごたごたに加担して行方不明者出して腕輪の入手経路得られそうだし・・・リンディスの目的はどうせダンジョンコアの破壊か崩壊させてこのダンジョンシティーを破滅させたいだけだろうし・・・このダンジョンは効率重視で放置すると危険なボス強制停滞型の成長促進ダンジョンだから後3か月もすると臨界超えた蟒蛇がスタンピード起こして飛び出してくるだろうし」
「でもそれならおとなしく黙ってた方が3階の状況に目が向かないし都合よくないか?」
「そんなのは黙ってても危険な事をギルドは知ってるから・・・ギルドはもう動くんでしょ?」
ロレーヌが頷きバージルは「まぁそうだな」と相槌を打つ
今回の調査から蟒蛇が育ちすぎているのは明白なのでギルドは既に大規模採掘を計画してるだろう
「ギリギリまで貯めこんで事件起こしたから・・・おそらくだいぶ割り込んでどこかのお貴族様とか採掘計画押し込んでくるんじゃないかな?・・・そこは織り込み済みでその計画自体も怪しいけど・・・きっとリンディスが紛れ込んで同行者に洗脳とかした二つ返事で頷くダンジョンコアの相続人が紛れ込んでるとか・・・」
「その上でボス討伐時のダンジョン更新を乗っ取ってその場にあるクリスタ払って強制的に強烈な書き換えして一気に暴走させるとかそんな筋書きじゃないかな?」
「フリオさんの発言が事情通な上に悪魔的発想でビビります」
ポーラは手からお茶うけのお菓子を落としながらそう言った
「なんだフリオはいつから探偵業始めたんだ?」
「なーに言ってるんですか」
長い時間ミーティングをした為にだいぶ夜も更けてそろそろお開きと言う雰囲気を出しながらバージルが問いかけてくる
「結局フリーで長いこと採掘者やってると厄介な同業者の動向には敏感になるでしょ?」
「ん-なんか違くね?」とバージルは首を捻る
個人的レベルでは確かにやりすぎかもしれないな
「親の仇ってか?」とバージルが切り替えしてきたので視線を外して「そうだな」と私が返すとバージルは啜っていたお茶を噴き出した
「・・・おまえ こういうのであんまり冗談は言わないよな?」
「そうだね・・・昔話はしてやらないけどな」
バージルは「しまった」と言う面持ちをするとやり取りを見ていた女性陣は既に凍り付いていた
昔話はしてやらないよ?と思いながらバージルの様子を眺めているとなんだかおかしくなって私が噴き出すと「まぁちょっと本腰で調査してみるわ」とロレーヌは引き攣った面持ちで締めくくりその場はお開きとなった
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「ねぇマーセラ」
「どうかした?」
ギルド会館にある職員専用の食堂内でロレーヌとマーセラが遅くなった夕食を取っているとロレーヌが切り出す
「フリオって随分と突っ込んだ事情知ってるみたいだったけど」
「そうね・・・そう思うわよね・・・どうやら13地区の生存者って言うのは知ってるんだけど」
「あの最悪のダンジョンテロって言われてた13地区って住民に生存者なんていたの?」
ロレーヌはそう言うと事件の記憶を思い出す
「リンディス教団がダンジョンコアの乗っ取りを計画して失敗したから影響力を弱めるために破壊活動を行ったらそのままダンジョンが暴走して住人も貴族も関係者もろとも巻き込んでダンジョンが破壊されて当時のダンジョンシティーの範囲は重度の環境汚染地区になって誰も立ち入れなくなったと言う話だったわよね?」
ロレーヌの言葉にマーセラは頷きながら話を続ける
「発生当時はだいぶ緊急回避した腕輪があってすぐに救助隊が編成されたりした様子だけど進行も早くて発生したモンスターも相当な高ランクで結局救助も採掘も間に合わずにモンスターがダンジョンコアに到達して・・・50万人ぐらい居たとされるダンジョンシティー内の人ははほぼ全滅」
マーセラが食事の手を止めてさらに続ける
「実力がある採掘者もほぼ落ちた中でフリオさんは当時12歳だったみたいなんだけど腕輪が大人用になる前だったらしくて体が入らなくて緊急回避出来なかったそうよ」
マーセラの話にロレーヌが少し驚く
「よほど危険な中を抜けて助けられたのね」
そう言ってロレーヌが感心しているとマーセラは手を振りながら
「それが違うのよ・・・腕のいい傭兵に助けられたとか 何とか隠れて同行したとか・・・公式の情報だとそもそも脱出できた傭兵たちも無我夢中で仲間が開けた突破口を何とか抜け出したとかそう言うギリギリの状況で腕輪回収したりフリオさんの事を助けたってちゃんと覚えてる人は誰も居ないのよね」
マーセラがさらに続ける
「その記録で200ぐらい腕輪が回収されてるんだけど 持ち主の断片的な証言として・・・小柄な男が緊急回避した腕輪を回収しながらAランク難度辺りのモンスター採掘してたとか・・・危機状態になった傭兵チームにどこからともなく支援砲火が飛んできて助かったとか・・・緊急回避する前に見た事がないモンスター同士が戦ってたとか」
「どういう状況なのか分かりかねるわね」
マーセラの言葉にロレーヌがふうっとため息を吐き出した
「それぐらい混乱してたのよ・・・とにかく何とかフリオさんは助かるんだけど その後は孤児になって孤児養育プログラムの探鉱者養成学校で過ごして 成績が優秀で卒業したから奨学金を貰って高等学校や学院で魔力学を修めて しばらく大きな魔法具研究所に勤めてたらしいわ」
マーセラの言葉にロレーヌがふうっとため息をついて聞く
「すごい経歴ね・・・でもその話だとご両親は本当に?」
「そうね 記録だと爆心地となってるダンジョンで両親は勤めていたそうよ」
マーセラは済んだ食器をトレーに納めると立ち上がりながら言った
「親の仇ってどれぐらいの気持ちかは分かりかねる部分はあるけど」
「あの目つきだと言った話が冗談と言う事は絶対にないわね」
ロレーヌが同じように立ち上がると食器を返却口に戻しギルド会館内の職員宿舎へ消えていった
日曜日に物語の構成を考えていたらどんどん楽しくなって今の話を詰めていくのを忘れてました
フリオさん割とハードラックに生きてました
学園編はあるのかな?ないのかな?SUG〇I DEKAI後輩はいるのかな?