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降り積もるもの

作者: 枕返し

一年ぶりに実家に帰ってきた。

毎年恒例の親戚の集まり。

子供の頃は好きだったなぁ。

いつもと違う料理。

普段は会うことのない親戚。

お酒を飲んで機嫌のいいおじさん。

お年玉をもらって、いとこと遊んで。


でも、今は・・・。



私は「少し散歩してくるね。」と言って家を出た。

皆にはどう思われただろうか。

お酒に酔ったから覚ますためと思われただろうか。

それとも久しぶりの田舎の景色を見たがっていると思われただろうか。

・・・そうだといいな。



玄関を出て外に行くと冷たい風が吹いた。

昨日から降る雪で町はうっすらと雪化粧をしている。

美しい、と言えなくもないけど、現実は寒さが厳しい。何が楽しくて私はわざわざこんなつらい環境に出ていくんだろう。

例え綺麗に見えても、自由があるように思えても、それは楽観的な幻想だ。

こんな中に出て行っても良いことなんかないのに。

・・・どうせ寒さに耐えられなくなって帰ってくるだけなんだろうな。

帰ってきたらきたで、出ていく前と様変わりした景色に適応できなくなって。

そんなこと今ならわかることなのに。

わかるはずのことなのに。

それでも私は外に出た。

もう、あそこは私の居場所じゃなくなったから。

それは変わらない事実だから。



そんなことを考えながら少し歩いていると、子供の頃、友達の住んでいたアパートの前に来た。

その友達は中学生の時に遠くに引っ越しているけど。


その家を見ながらふと思う。

子供の頃に何度も遊びに行ったあの家。

今は違う人が住んでいるのかな。

もしかしてあの子の家族が入居する前にも誰かが住んでいたことがあったのかも。

そうしたら、前に住んでた人も私たちを見ながらこんな気持ちだったのかな。

・・・私にとっての楽しい思い出がある場所は、その場所としてずっとそのままあり続けるんだろうか。

それとも新しい人に、時間に、上塗りされていってしまうんだろうか。

ああ、そしたらいま私が住んでいる家にしてもそうなのかもしれないな。



またしばらく歩くと、子供の頃によく行っていた公園、学生の頃に通った道、遊んだ場所、思い出の場所を次々通り過ぎる。

全部、全部。思い出がたくさんある大事な場所。

でも私が出て行ってからの数年ではまだあまり変わっていないけど、私が知っている頃とは随分違う。変わっている。

公園の遊具は危ないからと撤去されてしまって、今の公演はただの広場のようになっている。

通学の時に通っていた道、そこに面していた色々なお店はなくなり、コンビニになっていた。

遊んだ場所はなくなったり、残っているところも随分とくたびれた外観になっている。

私の大切な場所っていうのは何なんだろう。

何をもって私はそう言えるんだろう。

時間が雪のように降り積もって、辺り一面、世界一面を銀世界に変えてしまったら、そこは私の知っている場所と言えるのかな。

私の思い出の中と、今が、その全てが変わってしまっても、私はこの場所を大切な思い出の場所と思えるのかな。

等とぼんやり思っていたら不意に足が止まった。

行きたい場所が、もうない。



ああ、そうか。

私にとっての幸せはこの下にあるんだ。

子供の頃が、一番楽しかったんだ。

これから広がる世界に夢なんて見れない。希望なんてない。

これから起こるかもしれない辛いことに目を背けたい。

この下の世界に戻れないなら、せめて今がずっと続けばいいのに。

何の変化もないままのこの景色がずっと降ってくればいいのに。

これ以上の変化に、私はきっと耐えられない。

私は、変わってゆく景色を見るのが怖いんだ。

止むことなく降り続ける時間が、身動きしない私を埋めてゆく。

積もってゆく時間に埋もれながら、狭くなってゆく視界の中、私はただただそれを見ていることしかできない。

時間に抗うことなんて、できるわけがないんだから。


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