後輩に秘密を知られてしまったが……全身全霊で推されてるのは何故?
ーー春。それは別れの季節であり、また、出会いの季節でもある。ーー
------------
…………春。それは別れの季節であり、出会いの季節でもある。………とは、誰の言であったろう?………まあ、どうでも良いが。
「……………今年も来たか………。」
「何だ?誰が来たんだ?」
「………春が来たんだ……。」
「そりゃ、来るだろ?ここは日本だぞ?春に来てほしくなきゃ………寒帯あたりに引っ越すか?いっそのこと北極とか。」
………違う、そうじゃない。
「………お前は僕のことを何だと思ってるんだ。……季節としての春が嫌いなわけじゃない。……知ってるだろう。」
「まぁな………そう怖い顔、すんなよ。これから始業式だぞ?新入生が泣くぞ?」
………失礼な。だが、まあ今の自分が酷い顔をしていることは、自覚している。
「わかってる………だから、お前……茉夏にしか、言っていないし、見せていない。」
「ほいほい、ありがとさん。ほら、行くぞ。」
「……………憂鬱だ。」
春。それは別れの季節であり、出会いの季節でもある。それが誰の言であっても、どうでも良い。………そう、何故なら………僕、海谷斗冬は、昔から春が………大っ嫌いだからだ。
------------
「………本当にするのか?」
「もちろん!おーい、冬も参加ー!」
「マジで!?」
「よっし!授業での借りを返してやる!覚悟しろ、かいちょー!」
「…………貸したつもりは、ない。」
「今日もドライっ!!」
「ははっ、冬は俺にしか心を開かないからな。」
「「「嘘つけ。」」」
「何で冬まで!?」
「別に、夏だけじゃない。」
「はんっ!振られてやんの!」
「ぐぅっ!」
「はいはい、ほら校庭行くぞー。」
…………夏だけじゃなくて、他の人にも開いていると言ったつもりだったんだが……伝わらないか……。
------------
「………ふっ!」
「嘘ぉ!?」
「何で三対一で俺らボロ負けしてんの!?」
「冬、ちょっと手加減しろ!」
「………してる。証拠に一対三だろう。それに………オーバーヘッドもしてない。」
「手加減の次元が違うっ!」
「あ~…………また負けた………!」
「嘘でしょ!?サッカーしてる会長に興奮しないの!?」
「…………何だ?」
「んー………あそこは………あー、一年の教室だな。海谷ファンクラブの誰かが叫んだんだろ。」
「ぬぅ…………サッカーでも負け女子人気でも負け………もはや勉強しか……!」
「残念、冬は全国模試2位だ。」
「天に二物どころか五物くらい与えられてんじゃねぇの!?」
「…………別にそんなんじゃない。」
…………そして、嬉しくもない。確かに学業は出来た方が良いだろうし、運動も出来ないよりは出来た方が良いだろう。………でも、女子人気は、いらない。
自分の一挙手一投足が騒がれる原因になるんだぞ。………それを嬉しいと感じる奴は、ラノベ?の主人公だけだろう。
「まず!斗冬と言う名前に負けないあの白い肌!雪の妖精か!?女子からすると滅茶苦茶羨ましい!お手入れ何してるのあれ!?」
「そしてあの制服の袖を捲り上げたことによって見える肘下!白いのはもちろんだけど、細く見えるのに実は結構筋張ってて筋肉が見え隠れしてる!最高!」
「おうおう。語られてんねー。」
「………何故、僕の外見をそんなに気にする。」
「そりゃあお年頃だからだろ?恋に恋するってね。アオハルですなぁ。」
……………いちいち気にされる身にもなってみろ。普通に怖いぞ。
「極めつけはやっぱり顔!」
!?
「いや、だって冗談抜きで国宝級よ!?」
「そう!確かお祖父さんがロシア人だとか何とか……!その遺伝子に感謝だわ!毛先が白みがかったサラサラな黒髪!青と緑が溶け合ったようで、まさに雪の妖精ような切れ長な瞳!天然で長い睫毛!」
「お、おい?海谷?」
「かいちょー?………顔怖いぞ?」
「………悪い、抜ける。」
「お、おーい!?」
「あちゃー………。」
…………顔、顔か……全部……この……顔のせいで!
「しかも運動神経滅茶苦茶良いし!確かこの前の全国模試2位でしょ!?完璧すぎ!」
…………完璧じゃない。完璧なら1位をとれていたはずだ。………僕は、完璧でないとならないのに。
「あーもう最高っ!この学校入って良かった!」
……良かったな。……僕は、入学して3日で入学したことを後悔したが。
------------
はあ、イライラする………まだ放課後に生徒会業務があるのに………今日は、行けないな。
「「「キャァァァァ!!!」」」
!?何だ………僕は今、特に何もしていないぞ!?
「あぁ!会長が廊下歩いてる!」
「歩いてるだけ!?」
嘘だろうこの学園の女子達!君達は僕が廊下を歩くだけで叫ぶのか!?
そして最後の子!よく言ってくれた!その通りだよ!僕は歩いてるだけだぞ!久しぶりに普通のことを言ってくれた!ありがとう!
「…………はあ………。」
「「会長がため息……………カッコいい……!」」
ああもう!だから春は嫌なんだ!
------------
「……………やっと終わった………。」
「お疲れさん…………!」
「お、疲れ様々でした………。」
「お疲れ様でしたっ!」
「あぁ………お疲れ……。今日もありがとうな、河原、山畑、夏もな。」
「あぁ。今日は桁外れの忙しさだったな……。」
「…………学園長が、色々な案件を持ってきたからな。」
「ホント………勘弁してください………!」
…………二年の河原や山畑にとっては初めての修羅場だったからな。疲れるのも無理はない。
「あぁ、今日のは流石に酷い………僕から学園長に言っておこう。すまないな、河原。」
「頼むよ冬……。」
「あたしは大丈夫ですよ!信貴山先輩と一緒にいる時間が長くなるので!」
「俺はもっと別の用事で一緒に居たいよ……。」
「そ、それはデートのお誘いと受け取っても!?」
「それは違う。」
「そんなぁ………。」
「ま、まあまあ。」
「………山畑は相変わらず夏が好きだな。」
「はい!幼馴染みの兄ちゃんですから!小さい頃から一筋ですよ!」
「だ、そうだ。」
「はいはい嬉しいよー………。」
「めっちゃ棒!茉夏兄酷い!」
「学校で茉夏兄はヤメロ。」
「…………仲良いですね。」
「………そうだな。」
まあ、そういう事情がなければ、この生徒会に今、山畑はいないだろうが。
「ま、夏音………じゃない山畑がこうじゃなきゃ、生徒会役員はまた違ってただろうけどな。な?冬?」
「そうなんですか?」
「ほら、冬ってモテるだろ?」
「あぁ、そういう………。あ、もしかして過剰なスキンシップもそれの対策………?」
「いや?これがあたしの素だよ?」
「素なんだね。」
「まあ、趣味と実益………ではないが、実利があるからな。だから、僕も夏も止めていない。」
「そゆこと。俺も色々あるしな~。」
「え!?あるの!?筋肉オタクの信貴山先輩に!?」
「おうこら。何だ?やるか?お?」
「いやいや!あたしはそこも魅力だと思ってるから!安心して先輩!」
「安心出来ねぇ。」
「あはは…………あ、もうこんな時間!」
「ん?…………6時半か………良い時間だな。今日はこれで解散にしよう。みんな、ありがとう。また明日も頼むよ。お疲れ様。」
「「「お疲れ様でした。」」」
さて、帰るか………今日は間に合いそうで良かった。
------------
……………7時………よし、更新されてるな。
『~~~♪︎』
…………我ながら、中々恥ずかしい歌詞だと思う。だが、仕方がない。思ったことを書いただけなんだから。
…………コメントも………身バレは絶対にしないように気を遣っているし………あ、感想きた。……また来た。
……………いつも感想くれるな、この《春日》さん………。………みんな………特に夏が聞いたら驚くだろうな。まさか…………品行方正で通ってる、生徒会長が歌い手をやっていて、そこそこ人気だなんて、な。
------------
「終わったぁぁぁぁ!」
「はあ…………大丈夫か、二人とも?」
「「な、何とか………!」」
「すまないな………。」
「いやいや、仕方ねぇよ……。」
「………まさか、体育祭が前倒しになるなんて思わなくてな……。」
「予想出来てたら逆に凄いですよ………。」
「ははは………それじゃ、俺らはこれで帰るわ~。」
「お疲れ様でした~!会長、また明日です!河原君もまたね~。」
「うん、またね山畑。先輩も、また。」
「おー、またな。冬、そんじゃな。」
「あぁ、うん。また。」
「それでは会長、俺もこれで失礼します。」
「ん。お疲れ様。」
…………よし、今日は、行けそうだ。久しぶりに行くか。
------------
「失礼します。」
ーガラッ
「ん?あ、海谷君。どうしたの?」
「第二音楽室の鍵をお借りしたくて………。」
「あぁ!他の先生達から聞いてるわ!………はい、どうぞ。」
「……ありがとうございます。」
「に、しても凄いわねぇ……。」
「え?」
「だって、式典のピアノの練習のために借りてるんでしょう?それも、一年生の時からずっと。真面目ねぇ。」
「…………あはは、ありがとうございます。」
「それじゃあ、7時までに返却してね。」
「はい。………失礼しました。」
ーガラガラガラ
「…………真面目で凄い、か…………。」
………確かに、本当にピアノを練習しているのなら、そうかもしれないが。…………何とも自分贔屓な誤解だ。
「本当は、ただ歌っているだけなのにな……。」
…………少々の罪悪感が襲ってくる。まあ、仕方のないことだと割りきるしかないのだけど。変に思われるより、随分とマシだ。
「~~~~~♪︎」
…………気持ちが良い………歌っている時だけは………全部……忘れられる…………
「………ええい!女は度胸!失礼しまーー」
「~~♪︎………はっ!?」
…………そこには、天使がいた。一年生の色である青色のリボンタイ。これから下校するのだろうか、肩に鞄を提げ、手にはスマホを持っている。
髪は亜麻色で、長く、よく手入れされているのか、サラサラだった。瞳は綺麗な透き通るような、優しい淡い緑色。まさに、そう、まるで春の天使のような………。
そこに居たのは………あの場で、唯一マトモに、歩いているだけだと言うことを指摘していた………あの子だった。
------------
「海谷先輩ー!もっと声だしていきましょー!」
「……ん?」
あの日から、僕のファンが一人増えた…………せっかく僕に、普通に接してくれそうな子が現れたと思ったのに。
「「「海谷先輩こっち向いてくださーい!」」」
くっ…………あの子の叫びに釣られて声が増えた………!
「……………またか………。」
「はははっ!相変わらず、大人気だな冬!」
「………うるさい………別に嬉しくない。」
「はいはい。何てったって…………冬には心に決めた人ーーモガァッ」
…………何を言い出すんだこいつは。違う、そんなんじゃない。断じて違う。…………絶対に、そんなものでは、ない。
「……………それ以上話したらシバく。」
「悪い悪い。まあ、本人には聞こえようがないし、大目に見てよ、な?」
「…………本人いる前で言ったら、ホントにシバくからな………!」
変に誤解されるのも嫌だが………彼女に迷惑をかけるのも忍びない………。
「わかってるって!」
「海谷先輩は存在してるだけで尊い!そしてあの声はホントに尊い!神みたい!………あれ?もう先輩が神で良いのでは……?」
待て待て待て!それは危ない宗教の思想だろう!
「あーもう!ホントに良い声!」
声!?顔や外見で騒がれたくないと思っていたらまさかの君は声なのか!?
「その手があったか!?」
どの手があったんだ!?
「…………待っててくださいね、先輩!必ず私からの愛を余すことなくあなたに伝えてみせます!」
「……!?………………は!?」
「…………どっちもどっちなんだよなぁ…………はははっ……。」
……………っ断じてっ!そんなんじゃ!ない!