表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/224

第175話 ゴールデンウイーク明けの行事

「来週からテストです。頑張ってくださいね」


 ゴールデンウィークが明けてすぐに、担任の先生から無情な宣告がされた。

 あちこちで悲鳴が上がる中、相も変わらずのタイミングの悪さに、悠斗は大きく溜息をつく。


「本当にままならないな……」


 美羽との距離を更に近づけようとするとこれだ。

 もしかすると、悠斗は呪われているのかもしれない。

 とはいえテストからは逃げられないし、担任の先生のせいでもないので、恨むつもりはないのだが。


「取り敢えず、テストが終わってからだな」


 美羽の隣に立つ者として、勉強を疎かにしないと誓っている。

 それに、悩みがあるから順位を落としたなど、言い訳にもならない。

 悠斗の頭では、勉強しながら別の事に思考を割く事など出来ないのだから。


「……それはそれとして、何をするか考えないとな」


 勉強を頑張りはするが、どんな時でも気を張ったりはしない。

 悪いとは思いつつも担任の先生の連絡事項を流して、ああでもないこうでもないと悩むのだった。





 先程まで悠斗なりに悩み続け、ようやく良いアイデアが浮かんだ。

 晩飯を終えて部屋に戻り、悠斗の膝に乗って寛いでいる美羽へと問い掛ける。


「なあ美羽。テストが終わったらデートしないか?」


 テスト終わりとなれば、勉強の疲れを発散したいはずだ。

 デートに誘うのは、不自然な流れではないと思う。

 しかし明確な目的があるからか、妙に畏まった声色になってしまった。


「デートのお誘いは嬉しいけど、そんなに緊張してどうしたの?」


 悠斗の態度がおかしいのか、美羽がくすくすと軽やかに笑う。

 デートなど軽く誘えばいいのかもしれないが、今回ばかりは緊張するなという方が無理だ。

 それに、叶えたい願いがあるからこそ、まずは美羽に楽しんで欲しい。

 悠斗だけが満足するデートなど、彼氏として失格なのだから。


「まあ、いろいろあってな。それで、どうだ?」

「もちろん、喜んでだよ。行く所は決まってるの?」

「ちょっと離れてるけど、遊園地に行こうと思ってる」


 行った事はないが、どうやら近場に遊園地があるらしい。とはいえ、電車を使わなければならないのだが。

 また、とっくに冬の寒さはなくなり、陽気が溢れているので、厚着をせずに済むはずだ。

 それにゴールデンウイークや夏休みでもないので、人は少ないと思う。

 結構良い案だと思ったのだが、美羽が頬を不満そうに膨らませた。


「……それ、私を子供扱いしてない?」

「何でそうなるんだよ……。遊園地にデートに行くのは普通だろ? 意識し過ぎだ」

「あう。……ごめんなさい」


 苦笑しつつ額を軽く突くと、美羽が申し訳なさそうに眉を下げた。

 遊園地というのは、定番のデートコースだろう。子供が居なければ入ってはいけないというルールなどない。

 とはいえ、カップルだけでなく子供向けのアトラクションがあるのは確かだ。


(美羽をそういうのに乗せないようにしないとな)


 似合いそうだとは思うが、間違いなく地雷なので、口にはせずに飲み込む。

 それに遊園地に行くとは言ったが、何もせずゆっくり見回るだけでも美羽となら楽しめるはずだ。


「という訳で改めて、遊園地はどうだ?」

「うん! いいよ!」


 美羽が嬉しそうに表情を緩めて頷いた。

 詳しい内容は決めなかったが、ある程度は悠斗が決めておくべきだろう。

 ただ、最後に何に乗るかは既に決めている。

 何はともあれテスト後の予定は決まったので、横抱きになっている美羽の膝を抱えて持ち上げた。


「ひゃっ。な、何?」

「テスト前だから、ちょっと勉強を多めにしようかと思ってな。美羽はゆっくりしてくれ」


 遊園地は心躍るが、それはそれ、これはこれだ。まずは目の前のテストを確実に片付けなければ。

 驚きに目をぱちくりとさせている美羽は驚く程に軽く、あっさりと持ち運べる。

 ベッドの上に優しく置くと、美羽が僅かに頬を赤くした。

 

「お姫様抱っこ……」

「これは子供扱いじゃなくて、彼女扱いだからな」

「……うん、分かってる。ありがと」


 一応、怒られるかもと警戒をしていたが、お姫様抱っこというものには憧れていたらしい。

 美羽が頬をゆるゆるにして、嬉しそうにはにかんだ。

 喜びをこれでもかと態度に表されると、流石に照れくさい。


「それじゃあ、俺は勉強するから」


 魅力的な笑みから視線を外し、勉強道具を用意し始める。

 すると、美羽が慌ててベッドから出てきた。


「私もする。悠くんが頑張るんだから、私も頑張らないと」

「……俺が運んだ意味がなくなるじゃねえか」


 悠斗に付き合う必要などないし、これでは先程のお姫様抱っこが無駄骨だ。

 ぽつりと呟けば、とろりと蕩けた笑みが向けられる。


「意味ならあったよ。私が嬉しかった」

「……それなら、いい、のか?」

「いいの。機会があったらまたやってね?」

「気が向いたらな」


 あっさりと悠斗へと身を委ねる発言に、さらりと答えつつも心臓が高鳴った。

 先程のように美羽をベッドに運ぶ理由は、そう多くない。

 おそらく、本人に悠斗を誘惑した自覚はないのだろう。単に嬉しかったからもう一度要求しただけだ。


「それじゃあ、勉強道具を持って来るね」


 美羽が一階へと道具を取りに行く。

 扉が閉まったのを確認して、大きく溜息をついた。


「……全く。俺が何もかもぶん投げて求めたらどうするんだか」


 一緒に寝たり、美羽を抱き締めながら過ごしてはいるが、それでも一線は超えていない。

 悠斗の欲望を実現させるよりも、美羽に笑顔で過ごしてもらうのが一番なのだから。

 しかし、ああいう誘惑をされると心臓が持たない。

 呆れ交じりの呟きを落としつつ、美羽を待つのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 間の悪い男、芦原悠斗。連休が明けてすぐにテスト期間がくるのは大変だ。もっと上の順位を目指す、ってくらいの向上心はなくとも成績を落とすのは悠斗自身が許せないから頑張るしかないな。 デートの…
[良い点] だいぶ悠斗くん美羽ちゃんに触れるの抵抗無くなっててよきよき [一言] あ、察し(ワクテカ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ