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第160話 男三人の集まり

「そういう仲だったのか。何というか、凄い巡り合わせだな」


 哲也と悠斗を蓮が交互に眺め、呆れ交じりの感想を漏らした。

 美羽がクラスの女子に連れて行かれ、今日は悠斗が暇だ。そして、蓮もちょうど部活が休みだったらしい。

 更に、帰るだけだった哲也を引き入れ、学校近くのファミレスで親睦会のようなものを開いている。

 そのついでとして、それぞれの自己紹介とどういう関係なのかを改めて説明したところだ。

 

「それでも悠と仲良くするんだから、肝が据わってるというか何というか……」

「覗きの件は許してるし、悠斗と友達になるかとは別問題だ。いつまでも引き摺ったままじゃいられないよ」

「……普通は引き摺るもんだと思うけどな」


 内心では割り切れてはいないのかもしれないが、悠斗の目には哲也が完全に立ち直ったように見える。

 本当に立ち直っていたとしても、恋敵と仲良く談笑するなど、おそらく悠斗には無理だ。

 苦笑しつつも尊敬の念を哲也に向ければ、呆れ交じりの笑みを返される。


「それに、東雲さんは悠斗が迎えに来ると、笑顔の質が変わるんだ。誰だって脈なしなのが分かるよ」

「悠……。さてはお前、俺と綾香と一緒に居る時のような事をしたな?」

「あの時ほど酷くないっての。まあ、美羽が嫉妬してくれた時はあったけどな」


 蓮や綾香と旅行に行った時のような事は、哲也の前でしていない。

 美羽が一度だけ嫉妬に怒り狂った時はあったものの、あれはどうしようもなかった。

 きっぱりと答えたが、哲也の目がじとりと細まる。


「あれで酷くないって、普段どんなやりとりをしてるんだか。それに……」

「それに?」


 哲也が唐突に言葉を切り、しまったという風な表情になった。

 そんな態度をされれば気になってしまう。

 思わず聞き返せば、哲也が微笑ましさと気まずさを混ぜ込んだ笑みを浮かべる。


「内緒。悠斗は愛されてるって事だよ」

「はぁ……」


 何が何だかさっぱり分からないが、悠斗が美羽に愛されてるという証拠があるらしい。

 呆けた声を出した悠斗に、哲也がくすりと笑う。


「にしても、以前から知り合いだったとはいえ、二人は随分仲が良いよね」

「ああ、そうか。哲也は悠の家がどうなってるか知らないのか。なら仕方ないな」

「悠斗の家? 付き合ってるんだからお互いの家に行く事はあると思うけど、そんなに関係があるのか?」


 生温い笑みで告げられた蓮の言葉に、哲也が首を傾げた。

 説明しても構わないが、流石に哲也が傷付きそうな気がする。

 蓮も同じ事を思ったようで、渋面を作った。


「ある。あるんだが、これを聞くと哲也は後悔するかもしれない。それでもいいのか?」

「俺はどうせ振られた身なんだ。全然構わないし、今更多少後悔しても変わらないよ」

「よし。なら俺の時間が出来る一週間後にでも、悠の家に行こうぜ!」

「はあ!? 待て待て、どういう話の流れなんだよ!」


 哲也が良いと言ったのだから、ここで説明して終わりだと思っていた。

 しかし、なぜか蓮と哲也が家に来る事になっている。

 話が飛び過ぎて素っ頓狂な声を上げると、蓮が意地の悪い笑みを浮かべた。


「説明するより、実際に見てもらった方が早いだろ?」

「そうかもしれないけど、美羽と哲也の気持ちはどうすんだ。お前だって分かってるだろ」


 悠斗はどちらとも良い関係を築けているので、この際除外する。

 問題は美羽と哲也が家で顔を合わせた場合だ。

 悠斗ですら危険さが分かるのに、蓮に分からないはずがない。

 どういうつもりだと訝しめば、蓮が笑みを引っ込めてゾッとする程の真剣な顔になった。


「だから、俺はあくまで提案だ。哲也と東雲、二人が納得するなら家に行く。この方が後腐れないだろ。悠じゃなくて、東雲と哲也のな」

「……」


 いっそ現実を突きつけて完全に想いを断ち切るという、酷な提案に絶句してしまう。

 本当に良いのかと哲也の顔を窺うと、蓮の切り替わりように目を見開いている。

 そして驚きを引っ込め、痛みを押し殺したような笑みになった。


「……正直、まだ東雲さんと話すのは気まずい。でも、後腐れが無くなるなら行きたいな」

「本当に、哲也は凄いな……」


 どれだけ傷付いても、より良い関係になれるのなら構わないという強い覚悟に、改めて尊敬の念を抱く。

 心からの称賛を送るが、哲也が眉を下げて首を振った。


「そんな事はないよ。……まあ、俺の方はいいんだ。それより、俺が東雲さんに露骨に避けられてる方が問題なんだよね」

「そこらへん、美羽はきっちりしてるだろうからなぁ」


 美羽から詳しく聞いた事はないが、振った人に期待を持たせないように素っ気なく接しているのだろう。

 悠斗という恋人が居るので、その態度は昔よりも徹底しているかもしれない。

 彼氏としては嬉しいが哲也の友人としては悲しく、悠斗の胸に複雑な感情が渦巻く。

 間に挟まれて思わず溜息をつくと、哲也が苦笑を落とした。


「それは好感が持てるんだけど、悠斗の友人として普通に会話出来ないと後々困りそうだ。だから改めて、この話に乗らせてくれないか?」

「……とりあえず、美羽に聞いてみる。でも期待はするなよ?」

「分かってるよ。ありがとう」

「感謝される事じゃないって」


 あくまで美羽に相談するだけで、今は何も確約出来ない。

 それに、美羽と哲也が気まずい事には変わりないのだ。

 首を振って応えると、哲也の顔が穏やかな笑みに彩られた。


「何と言うか、悠斗は出来てるよな。俺に最初会った時もそうだし、今も俺の事を気にかけてくれてる」

「……俺だって、昔は哲也の立場だったからな」


 細かい所は違えど想い人と一緒になれず、付き合った二人が毎日視界に入る場所に居る哲也の状況は、以前の悠斗と同じだ。

 だからこそ、美羽と付き合えた喜びを哲也の前で大っぴらにしていない。

 哲也から気にするなと言われていても、どうしても気になってしまう。

 あまり思い出したくはないので顔を顰めて呟けば、哲也が爽やかな笑みを浮かべた。


「なるほど。やっぱり悠斗は良い奴だ」

「何だよ。哲也の方が良い奴だろ」

「じゃあ類は友を呼ぶって事だね」

「いや、待て、それは――」

「ははは! そりゃあいい! じゃあ俺も仲間だな!」

「「……」」


 哲也が良い奴なのは間違いないが、蓮に当然のように言われると腹が立つ。

 きちんとした考えがあって先程の提案をしたのは理解していても、あまりにも残酷な提案だったのだ。

 哲也と顔を見合わせると、心が通じ合った気がした。


「お前は無い」

「いやぁ、それはちょっと……」

「何で俺だけ仲間外れなんだよ!?」


 悠斗と哲也の酷評で、蓮がショックを受けたような顔になる。

 しかし、こればかりは擁護のしようがない。


「さっきの会話を思い出してみろ」

「あれで俺の中の蓮のイメージが変わったよ」

「……あれ? もしかして、失敗したか?」


 深く関わりだしてほんの数日なのに、この三人での会話は予想以上に弾んだ。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い漢達やなぁ
[一言] 哲也 最近悠斗たちが仲良くしてるの見て胸がチクチクするのが癖になってな フフフフ。 とはならずよかった。
[良い点] 柴田ァ! 嬉しそうな色が見える笑顔を浮かべる美羽を見て悠斗に完全敗北したんだな柴田ァ! そういや前まで柴田は美羽のこと「東雲」呼びだったのに今は「東雲さん」になってるな、心境の変化が見える…
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