拡散編 ~ギルドマスターによる報告書(3/3)
――以上は、ペタの街を拠点として活動していた、ある冒険者の証言である。
この記録は今から6年前のものである。問題の冒険者は、1年ほど前に行方不明となり、以後、現在に至るまで、遺体も、目撃情報も見つかっていない。
ペタの街にほど近いダンジョンは、つい最近も、新しい財宝や、新種のモンスターと新規の罠の出現が確認されている。つまりダンジョンマスターが未だに活動している、生きたダンジョンである。それ故に、前述の証言のような奇妙なモンスターの報告が、ときどき上がってくる。
奇妙といえば、この証言にあった尻ミミックと思われるモンスターは、ここ1年で突然増殖しており、多数の冒険者が犠牲となっている。何が起きたのかは不明だが、上記の証言者が行方不明になった時期と、増殖の時期が一致することから、何らかの因果関係があるのだろう。
耳の賢者にも見解を求めてみたが、彼によれば、ある種のミミックが増殖する原因として、擬態の有効性がミミック自身によって確認されたことが考えられるという。
つまり――
ここからは推測だが、恐らく、件の冒険者は、自身の発言通りに、ダンジョンの最深部に尻ミミックを探しに行ったのではないだろうか。
そして、ミミックをミミックと認識していたにも関わらず、喰われてしまった。
これが、昨今の尻ミミック増殖の原因ではないか。
我々は、尻ミミックに遭遇して辛くも生き残った冒険者たちから、情報を集めた。それを元として、尻ミミックの詳細なスケッチが作成中である。完成し次第、このスケッチをギルドの受付に貼り出して、注意を喚起する予定である。
なお、作成途中のスケッチを私も見てみたが、なるほど、実に良い尻である。件の冒険者が追い求めたのも、頷ける話である。
私も一度は遭遇してみたいものだ。
ペタの街のギルドマスター・記
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