遭遇編 ~深淵からの呼び声(1/3)
ダンジョンに挑み、行方不明となった冒険者が遺した恐怖の記録……!
古びたダンジョンの地下4階。
ケチな盗賊の俺様は、冒険者どものおこぼれを探して、一人、暗い通路を進んでいた。
ここはペタの街の近隣じゃあ有名なダンジョンで、モンスターはさして強くないものの、やたら罠が多いことで知られている。
つまり、俺みたいに手先が器用で罠の解除に精通した奴にとっちゃあ、悪くない稼ぎ場所だ。
たとえば、だ。
モンスターを倒して宝箱を発見したパーティがいたとする。そのメンバーが罠を舐めていて、盗賊を連れてきてなかったというケースは、まぁ、たまによくある話だ。そして、ろくすっぽ考えなしに解錠しちゃったマヌケどもが、作動した致命的な罠にかかってそのまま全滅ってのも、稀によくある話だ。
そして、宝箱だけが残される。
俺はそういう死屍累々の中に鎮座する宝箱をいただき、人の愚かさを憂いつつ、今晩のちょっと豪華な飯のことを考えるわけだ。
他の冒険者には嫌われるから、表立って活動はできないけどな。
これは、俺が体験した話だ。
その日はかれこれ三時間ほども探索していたんだが、一向にめぼしい獲物が見つからない。ちょうどいい具合にヌケた冒険者って奴も、手傷を負って弱った高レベルモンスターも、いやしない。
まぁ、こんな日もあるさ。俺は地上に戻ることに決めて、迷宮を引き返し始めた。
そこで気が付いた。
誰かの声がする。細くて高い、女の声だ。
たすけてー……と、言っているみたいだ。
さーて、これは考えものだ。
迷宮で女の助けを呼ぶ声がしたら、それは2種類。
1つは女冒険者が怪我をするか罠にかかるかしている。
もう1つは、モンスターが女の声を真似て獲物を呼び寄せている。
これはどっちだ?
声は断続的に聞こえる。声の主の正体が何であれ、確認するくらいはしてもいいだろう。ヤバそうなら逃げればいい。逃げ足なら、俺は最強なんだ。
いくつかの通路を抜け、角を曲がり、小部屋の一つにあたりを付ける。声はその部屋から響いているようだ。
鬼が出るか蛇が出るか。そっと部屋の扉を開いた。
その俺の眼前に飛び込んできたのは、丸く、巨大な、威厳に満ちた――尻だった。
でかぁあああ!
目立たないのが身上の盗賊だってのに、俺は叫んじゃったね。
扉を開けてみたら、目の前に、完全武装のオークロードが背中を向けて立ってたって経験があるんだが、その時だって悲鳴を上げるヘマはしなかった。しかし、今回は驚いて叫ぶしかなかったね。
まー、そんくらいに見事な、でっかい尻だった。もちろん、女の尻。さすがにパンツは履いてたけど、それ以外はプリンプリンでぱっつんぱっつんのヤツな。
たすけてー
すぐ目の前で声がする。この尻の持ち主が、悲鳴の主だ。
そんとき、尻の迫力に負けて俺自身が尻もちついてたんだが、ふと我に返った。これは、あれだ。噂に聞いた、壁から尻ってやつじゃないか?
どこかのそそっかしい魔法使いが、転移魔法に失敗して壁に埋まってしまい、尻だけ突き出した格好になってるって話、聞いたことねえか? そういう怪しい地下伝説みたいなシチュエーションがホントにあったのかと思ったんだが、現実はちょっと違った。
この尻は、壁からじゃなくて、床に置かれた宝箱から突き出してたんだよ。これが。
ええっと。なんだこりゃ。